ロックとキミとの3年間

夜兎丸

第1話 プロローグ

 少しづつ遠くなる残響。さっきまでその身体からどこまでも届きそうな程に音を飛ばし続けていた僕のギターと、黒いボディに金色の装飾のあるアンプは最後の絞りカスを名残惜しそうに鳴かせていた。

 音が切れ、一瞬の静寂がその場に流れた。


「---ッ!ありがとうございました!」


 ステージの中心にいた少女の声を皮切りに会場にいた人々からは拍手や歓声が湧き上がった。同時に胸の中で熱くなっていくものがあった。達成感、感謝、高揚感……どれも違う。僕はただステージの真ん中で誰よりも輝く彼女に見惚れていた。彼女は会場中の照明を全て飲み込んでいるかのように、妖精に金の粉でもまぶされたみたいに、誰よりも美しく輝いている。3年前のあの日から彼女の美しさは知っている。誰よりも!……知っていたから1番近くでそれを見ようと努力し続けてきたのに。それでも見惚れてしまう。心を奪われてしまう。そんな輝きに惑わされて僕まで光を持っていると勘違いしてしまいそうになる。

 もうこれでこの光を見ることもないと思うと、何もかも全てが無価値に感じてしまえた。元々これしか取り柄のない僕だ。後悔はない……といえば嘘になるかもしれないけど、それでもギリギリまで、僕自身の締め切りまで彼女という輝きを特等席で感じられたんだ。満足……ってことにしよう。

 

 止まない歓声の中で、彼女はいつまでもそこにいた全ての目線を取り込んで一層その輝きを増しているような気がした。ステージを降りるその瞬間まで彼女は世界で1番……いいや宇宙に輝くどの星々よりも美しかった。それに続いてステージを去る僕を誰も見ていないと感じる程に。僕は彼女にとっての装飾で、研磨剤で最後にかける味の素みたいなものだと自負している。それでいい。それが嬉しい。


 今日と言う日の満足感に勝る何かがある日はもう来ない。それでも僕はこの気持ちを抱いているだけでこれから向かうであろう無限の暗闇すら明るく感じられるような期待感があった。


 ありがとう世界。彼女の隣に居られる程度の才能をくれて。

 さようなら世界。最後に僕の愛して止まない君のことを歌にしていくよ。

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