第100話 カイ

 ログアウトした後も通話で話し合ったけど、結局いい案は思いつかなかったからどうしようかな。単純にレベルを上げていけばいつかは魔力を使わずに突破できるようになるだろうけど、人が少ないからただでさえほかのクランに後れているのに、そのやり方だと更に後れを取るにことになるだろうからなぁ。


 咲良さくらの案が一番現実味があるのかなぁ? でも咲良の精神をすり減らしてウェットスーツマーマンの群れを突破したとして、そのあとに控えるボス戦を、魔力量が万全とは言え、ある程度疲れの出た私とかなり疲労しているはずの咲良で突破出来るのかが問題なんだよなぁ。まあ私にはテイムしたモンスターたちが居るから、最終手段として頼光を召喚すれば勝てるだろうけど……やっぱりそれじゃあつまらないし、成長出来ないんだよなぁ。


 悩んでも仕方ないか。咲良は午前中の間は、二条財閥の令嬢としての勉強があるらしいから、IN出来ないしね。

 私も道場の師範として素振りでもしようかな。


「師範も自主練ですか?」


「そうだよ。最近ゲームにはまって基礎練習が出来てなかったからね。あっ!ちゃんと門下生に課していた鍛錬はやっていたから誤解しないでね!!」


「誰も誤解なんてしないですよ。美咲さんは春風流の中でも1、2を争うくらいのストイックな人なんですから」


 へっ? おっと、危ない危ない。驚きすぎて変な声が出そうだったよ。基礎連を数日さぼった時点でストイックな訳ないのにね。それに私は楽しいから剣を握っているだけで、鍛えるとか、強くなるとかが目的じゃないから、本気で打ち込んでいる人が多い春風の道場で、1、2を争うストイックと言われるなんておこがましいよ。


「まあ美咲さんがそういう人間なのは周知の事実なので何も言いません。あっ、ちなみに顔に出やすさは他の追随を許さないほどダントツですよ」


「心を読まれた!って言おうと思ったのにそれも読むなんて!流石ウチのエースだね」


「人の話を聞かない部門でもダントツみたいですね」


 この子は何を言っているんだろうね?


「ちょっと何言ってるか分からないですね」


「人のネタを容易に使うのはやめてください!はぁこれを裁き切っている二条さんは凄いですね。尊敬していますので、ここに来てください!お願いします!!」


「急に祈りだしてどうしたの? 頭おかしくなった? ちなみに咲良はお仕事中だから来れないよ」


「神は死んだ」


 死んだ魚の目をして更衣室の方に行っちゃった。


 人のネタ使うなって言うくせに自分だってニーチェの言葉をパクッてるじゃん。(「神は死んだ」はネタではなくニーチェの格言である)

 中断してた素振りを再開しようかな。



 ――カイside


「無限湧きってのはソロからしたらだいぶきつい相手だな。だが厳しい相手ほど燃えるってもんだぜ」


 第一回イベント準優勝のカイはクラン【闇の翼】を作りはしたが、基本的にソロで行動していた。そもそも彼のクランに入ったプレイヤーの多くが、彼の【勇者】の称号に惹かれて入ったミーハーたちだった。そんなプレイヤーたちの中にカイに見合う実力の者がいるはずもなく、仕方なくソロ行動していた。

 彼のイベントの言動を見ていれば勇者とは真逆の存在だと分かるので、クランに入ったプレイヤーの大多数が、イベント後にNLOを始めた初心者だらけなのでパワーレベリングも難しかった。


 そんな彼は一人で拠点近くの森を突き進んでいた。この森でエンカウントするモンスターは、サキたちが戦ったウェットスーツマーマンと同じように無限にスポーンしていた。


「念のため魔力を節約しておくか。この後ボス戦がある可能性もあるしな」


 サキたちと同じように、いるかどうかも分からないボス戦を気にして魔力を節約して戦っていた。しかし二人とこの男の戦い方には違いがあった。サキとリーブは、極力ダメージを受けないように1体ずつ倒していった。それに対してカイは、敵の群れに突っ込んでダメージ覚悟で一瞬で殲滅するという形だった。それを可能にしているのが、【闇の翼】の生産部門だ。構成員の数がトップクラスのクランである【闇の翼】だからこそ出来る大量生産、大量消費によってカイの懐には大量のポーションの在庫があった。ダメージを受けたそばからポーションを使うことでノーダメージと変わりなくモンスターを倒していった。


 サキたちのクラン【聖なる刀】は人数が少ないが、構成員は元教国の人間なのでポーションの作成能力は【闇の翼】にも負けていない。それどころか聖女であるサキが作るポーションは高性能だ。ポーション作りに気づければマーマン突破の糸口になるだろうが、サキたちはまだ気づいていない。


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