第34話 カイVSサキ1

「これから始まるのは、数多くの戦いを制して決勝の舞台に立つことを許された二人の強者による、最強を決める戦いです!西に立つのは、勇者と呼ばれながら戦いを好むバトルジャンキー!カイ選手!!東に立つのは、聖女ながらも物理的な戦いを好む剣聖女!サキ選手!!真の勝者となるのはどちらだ!!第一回異人限定1on1PVP大会決勝戦を開始します!3.2.1.決勝スタート!!!」


 実況を務めるシュカイによる前口上は過去一、力が入っており、観客たちも勿論過去一の盛り上がりを見せていた。


「やっぱり君は強くなったね」


「やっぱり?あの時に分かってたのですか?」


「そうだよ。あの時の立ち居振る舞い、そして動きが普通の人では無かったからね」


「貴方の観察眼に驚きますよ」


「そっかそっか、こんな世間話はもういいでしょ、




 始めよう、全力の戦いを!」






「そうだね。私もそろそろ武人として体が疼いてきたよ。




 春風の者として、そして人を守る者として




 私はもう負ける訳にはいかない!!」




 二人は舞台中心へと走り出していた。走っている間に飛び道具を投げるなどと言った無粋な真似はせず、二人の刀はぶつかり合い大きな金属音を鳴らしながら鍔迫り合いをした。二人の刀の押す力は拮抗していた。このままでは埒が明かないと悟った二人は、一度後ろに跳んで体勢を整えた。


「やっぱり押す力も強えぇなぁ」


「貴方こそ。これでも春風最強と呼ばれて居るんですけどね」


 もう一度距離を詰めたサキは、刀を横に払った。カイはそれを体を少し後ろにのけぞらせることでギリギリで避けた。

 カイはサキの刀が一度勢いが失くなった瞬間の隙を突き、サキの首目掛けて刀を振り落とした。これを俗に言う燕返しで刀を上まで持っていき受け止めた。


「春風流ってのは、そんなことも出来るのか」


「いや、これを出来るのは私や一握りの人達だけです」


 今度はカイが刀を一度離し、柄の先端である柄頭を蹴ってサキへと蹴り飛ばした。サキはそれを刀を使わずに体を反らして避けた。


「残念。読みは俺の勝ちだぜ!」


 サキは飛び道具に気を向けない為に避けるという選択をしたが、その一瞬の隙でカイはサキの背後をとっていた。

 その場で蹴った刀を掴み逆手で刀身をサキに向けて、横に薙ぎ払った。


「私はその程度ではやられないよ!!」


 刀で受け止めることが間に合わないことを悟ったサキは、腕に闘気を纏わせてカイの刀を受け止めた。その行動に対してカイは少し驚きを見せたものの平然としていた。


「凄い闘気だなぁ……でもな、その程度で俺の刀を受け止められると思うなよ!」


「なにを言ってるの?私が刀を受け止めているのはじじ――っ!?」


 サキは何かを肌で感じ取ったのか、後ろへ逃げたが、自分の体に違和感を感じた。違和感を確認するために自分の身体に顔を向けると、そこにあったはずの左腕が無かった。


「やっぱり勘と技術は俺より上だな。だがこの世界の力量だと俺の方が上だな」


 睨むようにカイの方を見るとそこには刀が限りなく黒に近い紫色となっており、明らかにサキより闘気の力が上だということが分かった。


「(貴方はどれ程の時間この世界で鍛練を積んできたの!?)でも私は負ける訳にはいかない!完全再生パーフェクトリジェネレーション


「面倒くさい魔法だなぁ。だが刀でも俺が勝てることが分かったから、この試合は俺の勝ちだな」


「そんなことは言わせないよ!炎聖」


「黒刀【堕天】」


 カイは闇を纏わせた刀で、サキの聖なる炎を纏わせた刀を受け止めた。

 二人の刀がぶつかり合うとサキの刀から炎がカイの刀にまとわりついている闇にどんどんと吸い取られていった。


「全ての魔法に対して優位に立てる魔法を知ってるか?」


「そんなのある訳ないでしょ!」


「あるんだなぁこれが。その名は【深淵魔法】この世界では禁忌とされた魔法だ」


「そんな秘技とも言える魔法なら!何故貴方が使えるの!?」


「そんなのエクストラクエストで手に入れたに決まってんだろ。お前だってそうだろ。その刀は普通じゃねぇからな」


「(流石最前線プレイヤー。ゲームにおけるやり込み度が全く違う!)でも私は負ける訳には行かない!貴方が魔法に対して優位に立つのなら!私は今まで培ってきたこの剣術で貴方を倒す!」


「来い!!俺は全てでお前を上回り、圧倒的力でねじ伏せてやる!」


 二人はもう一度刀で勝負を始めた。

 サキは先程までと比べ、カイに対して剣術だけで言えば圧倒していた。しかしただの剣術だけでは、廃ゲーマーによるスキルレベルの暴力には勝つことが出来ない為、攻撃の手数を増やすことで相手の判断ミスを誘った。しかし彼の戦闘技術は現実世界でも通用する程、上手く、判断や戦闘における勘も非凡と言えた。


「おいおい!お前はもっと強いだろ!俺を楽しませてくれよ」


「……分かりました。私は春風の人間として負けることは許されません。これから私が今までに覚えた春風の技を全て見せます」


 そう言って彼女は息を深呼吸をした。そして刀を構えた。


「【春風十三連撃】始撃・輪空の舞」


 サキは一度後ろへ下がり、もう一度カイへと走り出した。そして空中へと跳び、空間を支配しているかの如く上に向いている体を捻ることで加速しながら、カイ目掛けて刀を横に払った。

 人外とも言えるサキの動きには、カイも予想していなかったのか、反応し切れず少し肋骨辺りを軽く斬られた。

 そして彼女はもう一度地面を蹴り、空中へと跳ぶ途中で刀を上へと振り上げた。その刃はカイの顔に傷を付けた。空中で体を捻り、回転しながらカイ目掛けて刀を振り下ろした。流石に三度目の軌道は読めたカイは、その刃を避けた。


「っ!速えぇなぁ!そんなのがあるなら最初から出して欲しかったぜ。なら俺も少し見せてやる。深淵魔法【堕天相対欠如】」


「神聖魔法……なっ!?神聖魔法が使えない!?」


「これは俺の近くに存在する生物は、俺も含めて黒系統と白系統の魔法が使えなくなる魔法だ。だからお前は炎聖を使えないし、遠距離からの攻撃も出来ない。更に回復も出来ない。今のお前はステータス以外は現実とそう変わらない。だから堂々と見せてみろ。春風の剣術のみでな」


「当たり前でしょ、この技を使うからには、魔法を使う必要などない!」


 彼女は春風流師範としてのプライドから魔法を使うつもりなど元々なかった。


「【春風十三連撃】二撃・虎狩り」


 サキはカイ目掛けて走り出した。

 しかし今までと違うところがある。それはいつもに比べて体制がとにかく低いのだ。しかし4足歩行の動物かの如く走る速度は変わっていなかった。


「これは面白いなぁ、そんなに体制が低いのになんで手をつかないで走れんだよ。でも上がガラ空きだぜ」


 サキが自分の目の前に来る瞬間に刀を振り下ろした。サキは体勢が低いため刀のが見えないためこの攻撃は当たるはずだった。


「【春風十三連撃】三撃・蛇軟体」


 しかしサキは、体の関節を外すことで極限まで体を柔らかくして、カイが振り下ろした刀を避けながら、カイの懐へと入った。


「【春風十三連撃】四撃・三日月」


 そしてサキは刀を真下からバク宙する勢いに任せて振り上げた。勢い任せにも見える攻撃だが、剣術を極めた彼女の洗練された動きによる攻撃はどれも的確だった。

 カイも流石にそのスピードにはついて行けず、顔を縦に斬られた。


「すげえなぁ。久しぶりに顔を斬られた。この世界に来て二人目だ俺に完璧な傷を付けたのは」


「(二人目?あんなに強いのに傷を付けた人?魔物?がいるの!?)それは嬉しいね。でも二人目ってのは少し負けた気になるから、初めて貴方を倒した人になるよ」


「なら楽しみにしてるぜ。俺もお前を初めて倒した人になってやるよ」


「【春風十三連撃】五撃・裏桜狂い咲き」


 サキは地面を強く蹴って移動した。カイまばたきをした刹那、サキはカイの目の前にいた。

 その移動は、カイから見たら瞬間移動しているようなものだ。


「おいおい、今までは手を抜いてたのかよ」


 急いで自分の刀でサキが振りおろそうとしている刀を弾き飛ばそうとしたが、サキはわざとタイミングを1テンポ遅らせて下ろして来たので、カイの刀は空振り、サキの攻撃はカイに大きな傷を残した。


「ぐっ!はぁはぁ……こんなにも強い択が残っているなんて想定外だな。訂正だ。剣術では勝てなそうだ。魔法を含めて俺は勝ってやる。深淵魔法【不快幻刀】」


 カイの刀は、闘気とは違う種類の黒さに染まっていた。


「(あれは危ないね。でも食らわなきゃ大丈夫!)私は魔法が使えないのに遠距離のは使わないんですね」


「そりゃあ、遠距離なんかつまんねぇだろう」


「流石バトルジャンキー」


「否定はしねぇよ!」


 カイは不快幻刀の上から更に闘気を纏わせた。そしてサキに向かって振りかぶった。


「(っ!重い!?今までとは力の強さが違う。これはあの深淵魔法のせいなの?)」


「重いか?ちなみに実際は重くなってねえぞ。この魔法は相手を不快にする魔法だからな。お前は精神的に重く感じてるんだよ」


「深淵魔法は変に強い魔法だね。でもこの程度の重さは経験済みだよ!」


 サキはカイの刀を一度弾き返し、後ろに下がった。


「【春風十三連撃】六撃・針突一閃連」


 サキは刀を突きの体勢で構えて、そして今までのスピードが遅く感じるほどの速さで刀を突き出した。更にそれを何度も繰り返した。


「っ!?まだ上の速さがあるのか。だがそっちが速くなるなら俺も速くなってやるよ。深淵魔法【瞬身体躯】」


 カイは自分の身体に深淵魔法を付与した。その魔法の効果でカイの速さはサキを圧倒的に上回った。


「俺は戦いを経て成長する。だからお前に俺は超えられない」


「なにを言ってるの?私だって戦いから得たことを活かしている。しかもこの世界だと成長が目視出来るから、原動力になるよね。貴方が速くなるなら私は手数を増やすことにするよ」


「【春風十三連撃】七撃・牙虎狩り《サーベルタイガー》」


 サキは刀を上から振り下ろした。カイがそれを避けるとサキは燕返しで刀を振り上げた。それも避けるとまた振り下ろした。それをサキは永遠にも感じる時間繰り返した。

 先に集中が切れたのはカイだった。


「っ!?」


「【春風十三連撃】八撃・鰐斬り喰い」


 カイは何度も足で踏み込んだことによって出来た舞台の凸凹に足を取られ体勢を崩してしまった。その隙に気づいたサキは、刀を今までで一番力強く握り、凸凹に足を取られたカイへと振り下ろした。

 カイはギリギリのところで、刀で攻撃を反らしたがサキの刀は肩から先を切り落とした。カイの左腕を失くなってしまった。


「はぁはぁ……お前はどんどん速くなる。それも俺を超えるようなスピードで!面白いこの世界に来て一番楽しめそうな戦いになるぞ!」


「私はもう決めさせて貰うよ。【春風十三連撃】九撃・麒麟輪天」


「深淵魔法【邪天龍刃】」


 サキは刀を逆手に持ち替え空中へと跳んだ。そして自分を回転させながら、勢いをどんどんと速くさせた刀でカイへと斬りかかった。

 それに対してカイは、深淵魔法で龍の牙のような鋭さを持つ刃を創り出し、それを刀の近くに浮かして刀に纏わせた。それによってカイの刀は、今までとは天と地ほど違う圧倒的な硬度と鋭さ、更に闘気を纏わせることで、その刀の威力は何倍にも上がっていた。

 こうして二人の最大の威力とも言える攻撃がぶつかろうとしていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここからはあとがきです。


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