第10話
僕は彼の願いを実行に移す前に最後の確認をしていた。
「本当にこれでいいんだな?消した記憶は二度と戻せないけど」
暗に僕の案でなくてもいいのかという意味を込めて尋ねるが彼の意志は固かった。
「ああ、それでいいから早く頼む」
「ちゃんと全部彼らに関連する写真とかメール類は消したな?」
「消した」
一応、探知魔法を彼のスマホに飛ばす。特に引っかかるものもない。よし、それなら大丈夫だな。せっかくだし、これから僕のすることに最後に許可でもとっとくか。
「じゃあ、最後に一つだけ。僕が九条と、君とこれから関わりのなくなる女性のことを好きにしてもいいよね?」
「僕に影響を及ばさないなら好きにしてくれ。というよりそこら辺は基本、何をしようが個人の自由だろ……」
元彼氏くんから彼らを苦しませることの許可は貰った。僕は彼に手をかざす。
「ありがとう。眼を瞑ってくれ。行くぞ。——
僕は彼の望み通り、彼の脳内からここでの会話と九条、そして彼の元カノ、いや元から無関係な彼女の記憶を消し、しっかりと転移に成功して再び元のように歩き出したのを見届けながら、彼のこれからの平穏な生活を禍福は糾える縄の如しと言うからと祈っておく。僕はその彼の平穏な生活と僕の復讐のために魔法を起動した。
それで僕は悠乃という女子以外のこの世界で生きる全人類から彼と彼女が付き合っていたという記憶を消した。また、それに関係しそうな写真類も僕は全世界の人の機械の中から削除魔法を展開して消していく。流石にネット上に上がっている情報とかまでは消せないが、まぁそこら辺は彼に近付けないようにすることと記憶に存在しないことで対策しよう。というか魔法をかける対象、日本国内だけでも良かったかもな……。少し後悔。
世界中に魔法をばら撒き、魔力を四割ほど使ったので少し辛かったが、僕は先ほどと同じように、少し後悔したにも関わらず、懲りずに今度は九条以外の全人類から九条と悠乃という女子が浮気していたという事実に関する記憶とそれに関連しそうな写真、メールのやり取りなどを消した。
こちらこそ目撃者がいるのかどうかすら分からないので世界中にする気はなかった気がするが……。まぁ保険だと思っておこう。
最後の仕上げとして、悠乃という女子には今後現実世界で久保田くんに如何なる方法を持っても接触、また関わることのできないように、九条には悠乃という女子にも久保田くんにも会えなくなる呪いを、あっちの世界では呪術は禁忌とされていたがこちらの世界ではそんな規則など存在しないので、容赦なくかけた。その後、いつも通り
九条には悠乃という女子が他のだれかと永遠にイチャついている夢を、悠乃という女子には浮気のような不貞行為をすることがないように勝手に脳内を浄化して、久保田くんのことしか考えられなくしたうえで、久保田くんに振られ久保田くんが他の人と付き合いだす夢を見せる。
そこまでやったところで僕はベッドに倒れこんだ。
ああ……、流石に魔力使いすぎた。気持ち悪い……。怠い……。
ただ、これは彼らを苦しめるための布石だ。
この魔法によってこの事件の関係者たちがどうなるか?それを考えるだけで笑みと元気が出てくる。
まず、悠乃という女子には何を犯したのかも分からぬまま、永遠に叶わない片思いをさせ続ける。ヤンデレ化して久保田くんに迫ることとかも僕の魔法によってできないし、これが噂にでもなれば後述の九条にも影響をより深く与えられる。
そして、九条。彼には好きな人が他人に夢中なのを
九条の中では久保田くんと、悠乃という女子は付き合っていないのでフリーの状況なのだから、九条は加奈と別れれば、浮気という関係ではなく悠乃という女子と正式に付き合える。だが、浮気をしていたという記憶が悠乃という女子にはない。
そもそも僕の魔法により彼女の中では久保田くんしかいないので九条のことなど興味がない。僕は九条と悠乃という女子を会えなくしただけだ。だからこの双方の感情の差、把握している現実の差が何を生むか。それも楽しみだ。
さぁ、役者たちよ。しっかりと僕の与えた役を忠実に演じてくれよ。そして今度こそ僕の期待を裏切らないでくれよ。
ここまで考えたところで限界が訪れた。笑みと元気は絞り出してたのかもしれないな。僕は疲労から来る眠気に屈して、ベッドに身を埋めて意識を静かに手放した……。
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明日、忙しいので更新できるかどうか分かりません。あらかじめご了承ください。
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