カノジョをNTRれ、ダンジョンに置き去りにされた探索者養成校きっての無能回復術士の僕ですが、異世界でチートを手にして帰還したのでゆっくり復讐でもしていこうと思いま
儚キ夢見シ(磯城)
第一章
第1話
「あっ、今日でお前パーティー追放ね」
潜り始めてから1週間の経つダンジョンでの夜営の準備中に何の脈絡もなく突然飛び出してきたその言葉に思わず僕は固まってしまった。だが、脳をフルに回転させて何とか歪な顔を浮かべその声の主——俺の所属するパーティーのリーダーである
「えっ、ちょっ、急になんでしょうか?今、追放と聞こえたのですが……僕の聞き間違えですよね?」
「はっ、何言ってるんだ?お前みたいな親の七光りだけで入った無能はもういらないって言ってるんだよ」
親の七光りだけの無能。基本、両親の魔力を子どもも受け継ぐことになるので最強と呼ばれた両親からは同じく最強の子どもが産まれるはずだった。実際、そう思われていたおかげで両親が“災厄”と呼ばれるダンジョンの探索の配信中にこの世を去っても僕は学園に入れた。ただし、俺には才能など欠片も存在しなかった。
彼が言ったのは本当のことなので俺は唇を噛み、言いよどんでしまったが、ここで諦めてしまったら全てが終わりになってしまう僕は何としてでも足掻かなくてはならなかった。
「それだけはやめてください!お願いします……なんでもしますから」
「なんでもするって、お前みたいな無能に何ができるんだよ……。おーい、加奈」
そうして、何を思ったか急に僕のカノジョの名前を呼んだ。
九条は呼ばれてきたカノジョの肩を抱くと僕の目の前で急に唇を合わせた。
「はっ……?」
流石にもう頭がついてこなかった。僕がしばらく呆然とその場に立ち尽くしていると九条がニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてきた。
「お前、聞けばまだキスすらしたことなかったんだって?お前のカノジョ、いや元カノの初キスもらったから。ああ、それと初めても。ってことで俺が加奈貰っていくな」
視界が真っ黒に染まりかけていた僕が捻り出せたのはたった一言だけだった。その一言を祈る思いで加奈に投げた。
「……本当なのか?」
「……悪く思わないでよね。ここまで何もしてもらえないってなると私にも思うところがあったのよ」
ああ、ああああ……。俺は床に膝を付けた。何もしてもらえないか……。
すると、騒ぎを聞きつけたのか僕らのパーティーの最後のメンバーである
九条が他人のカノジョの肩を抱いていて、その目の前では僕がうなだれている。状況を理解するには十分だった。
「ちょっと、彗人。何やってるのよ!」
「ああ、こいつから貰ったんだ。そうだ、どうせならお前も俺の女にならないか?」
「……何言ってるの?ふざけてるの?おふざけとしてもやりすぎだとは思うけど」
「俺はいたって大真面目だぞ。……それで答えは?」
「そんなのノーに決まってるでしょ」
「そうか……残念だな」
急に九条は腰に差していた剣を抜き、彼女の前に突き付けた。
「俺と加奈は今から転移石で脱出する。さぁ、選べ奏多。最後のチャンスだ。俺の女になって、一緒に脱出するかそれともここで無能と一緒に野垂れ死ぬか」
転移石!?どんだけ高いの持ってるんだよ……。それ一つで車買えるぞ……。
「そんなの決まってるじゃない!あなたから転移石を奪って全員で脱出する!」
その言葉を幕切れに戦いの火蓋は切って落とされた。
ただ、そもそも彼女は魔術師。近接戦闘では剣士である九条に敵うはずもなかった。
彼女は九条の剣をもろに食らい、血を流して倒れてしまった。
加奈が西野さんを見て、ねぇやりすぎじゃない?大丈夫なの?と少し不安そうな色を浮かべたが、九条は冷静だった。
「大丈夫だ。ここまで来るのに最短でも5日。食料と水は俺が持っているからあいつらは持っていない。助けが来るまで食料なし水なしで生き残れると思うか?それに俺らが帰った後で口裏を合わせて二人が死んだといえばおそらく助けも来ないだろう。わざわざ、たかが二人のために往復十日もかけやしない」
「確かにそうね……」
「まぁ、ここで二人とも殺せばいいだろ。そうすれば何の心配もない。死体はダンジョンが喰ってくれる」
じゃあ、最後に一仕事しますかと言って九条は西野さんを庇うように立った僕の胸に突き刺そうとした。
「ちょっと待って!」
「うん?どうかしたのか加奈?」
「わざわざ殺さなくてもよくない?」
「いや、だがな……」
「あなたが大丈夫って言ったんでしょ」
「……まぁ、そうか。運がよかったね、二人とも。じゃあ、バイバイ」
九条はわざとらしく俺らに手を振って転移石を使い脱出していった。
僕はそれを見届ける前に西野さんのところに駆け寄った。
「西野さん!」
僕は回復呪文を唱え出した。ただ、僕のその回復は微々たるものでとてもじゃないが治せそうにはなかった。ただ、僕は汗を流しながら意識が飛びそうになるのを必死にこらえながら回復を続けた。
その僕の手を西野さんは突然つかんだ。彼女は首を軽く横に振った。
「それ以上やったらあなたが先に死んじゃうわ。私のことはいいから……」
「良くないだろ!」
「……最後に聞いてほしいことがあるの」
「……」
「あのね、私、あなたのことが、上野くんのことが好き。その何事にも一生懸命なところも……、優しいところも、笑っているときの顔も、全部全部好き。……ああ、やっと言えた。良かった」
彼女はそう微笑みながら言い切ると体を起こし、僕の胸に頭をくっつけた。
「あったかい……じゃあね。生き延びて……」
彼女はその言葉を残すと再び倒れこんでしまった。
「西野さん!」
その後、二度と彼女は目を開くことはなく、ダンジョンの床に吸い込まれるように消えていった……。
「あああああああああ!クソがぁぁぁぁぁぁ!」
僕はダンジョンの床を八つ当たりで叩いた。手から血が出るのもお構いなしに。
しばらくすると、僕は歯軋りをしながらいつの間にか出ていた涙を拭い、ダンジョンを引き返し始めた。
ただ、運の悪いことにゴブリンの群れに出くわした。ゴブリンはダンジョンの中では最弱格のモンスターではあった。ただし、それは一般的にはであった。回復術士という戦闘には向かない職業、そして自分自身の弱さ。その二つが合わさればたかがゴブリンでもされどゴブリン、絶望という二文字に変わる。
‘‘親の七光りだけの探索者養成校一の落ちこぼれ回復術士’’それが僕に付けられた名前。実際、間違いなく東京ブロックにある探索者学園の中では最弱ではあった。ただ、日々研鑽には努めてきたつもりだった。
その結果がこれだ。カノジョを奪われ、自分を庇ってくれた人を殺された。自分に力があれば救えたかもしれないのに……。そして——
「ごめんな、美玖。お兄ちゃん、情けなくて。結局、何もしてやれなかったな」
まぁ、いい。ここで僕が死ねば生命保険が下りて、美玖の延命くらいはできる。下りるよな……?いや、絶対下りてくれる。そう僕は自分に言い聞かせ、自分の命を諦めて、手から剣を離し、ゴブリンに嬲り殺しにされた……はずだった。
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