激情1

 近くの1階が酒場の店に入り、カウンターで鍵を受け取り、無言で2階の部屋に向かう。


 ……これ、元の世界でいうラブホを兼ねた連れ込み宿じゃない?


 かたい雰囲気のままのアレクに戸惑い未だ声をかけられずにいる。


 ――ガチャ


 ドアを開き、綾人を部屋の中に入れると片手で鍵を閉め、綾人を抱き上げ、ベットに放り込む。


「え、わぁ、ちょ、ちょっと」


 混乱したままの綾人にアレクは綾人の上にのしかかると、綾人の頭を固定して口付けを開始した。


 綾人は逃れようと暴れるが、アレクは構わず綾人の頭をがっしり掴み腕も動けないように頭上に固定する。


 思わずやめてと言おうと口を開いた所、アレクの舌が入って来た。


 アレクの舌が綾人の口の中を弄り、舌を絡め、唾液を混ざり合わせる。


 ――テ、テクニシャン……。


 どの位されていたのか、抵抗していた筈なのにアレクのしつこさに負け、綾人は疲労でぐったりしている。


 アレクは体を離すとピンクの液体が入った小瓶を取り出し、無言で綾人の口に持っていく。


 明らかに何かやばそうな液体を飲むわけにはいかないと、今度は喋らず頑なに口を閉じる。


 が、鼻を摘んできた。


 当然我慢比べに負けて、口を開けた所に小瓶を突っ込まれて、ごほごほむせながらも無理矢理飲まされる。


「ア、レク、なんで、そこまで、怒ってるの?」


 息も絶え絶えながらとりあえず1番の疑問を口にする。


「アヤトは俺を捨てたな。一生側にいると言ったのに」


 ――捨てる!?


 いや、女と遊んでたのはそっちで


 俺を捨てたのもそっちだろう


 王子だから仕方ないとはいえ、最後まで王子である事も黙ってたし。


 側にいたいと言ってたのに、いつの間にか奴隷から早く解放されたいと言ったのはそっちじゃないか。


 アヤトは久しぶりに強い怒りを感じた。


「いやいや、それはそっちだろう! それに王子なんだから一緒に居られる訳がないだろうが。俺は貴族でも何でもないただの平民なんだから!」

「ヨハンは一緒にと何度も誘ったと言っていたぞ」

「そんな社交辞令にのってノコノコついて行けるわけないだろう! それにアレクにはエリーさんがいるじゃないか。奴隷からも解放されて国へ帰って幸せに暮らせばいいじゃないか!」


 滅多に声を荒げない綾人は久しぶりに大声を出して息切れする。


 そんな綾人を、落ち着かせるようにアレクが真っ直ぐ綾人の目を見て真剣な口で言う。


「国には戻らない。アヤトの側にいると言った筈だ」

「……そんなの嘘だ。……お前は、俺とは違って、望まれてるんだから、望まれる場所へ行けよ」


 ――そう、父も母も綾人を望んでくれなかった。


 彼女達も望んではくれなかった。


 果ては前の世界からもほっぽり出されて、今1人でこの世界に居る。


 良いんだ。


 1人で生きて行くのだろうとは前世でも思っていたことだし。


 なのに、勝手に期待して勝手に裏切られたと思って、勝手に傷ついている自分はなんて滑稽だろう。


 ――だから。


「俺はアレクが好きだった」


 アレクが好きだったではない。


 今もまだ好きだ。


 本当はアレクに会えて嬉しい。


 一緒に居てくれるんじゃないかと期待もした。


 キスもしてくれたから、もしかしたら好きになってくれているのかもしれない。


 でも、俺はアレクの隣でアレクが誰かと一緒になる所なんて見たくない。


 王太子になったら世継ぎは必要だろう?


 魔法の世界だって男は子供が産めないのに変わりはないんだから、必ず女性と結婚するだろう。


 アレクは王になるから一夫多妻が普通と思っているのかもしれないが、俺は好きな人を他の誰かと共有するなんて無理だ。


 ――だから。


 なけなしの最後の虚勢で、"きっ"と睨みつけるようにアレクを見る。


「だから期待させる事なんてしないで、2度と目の前に現れないでよ」


 ――大丈夫。今まで一人で生きて来たんだから、アレクとディープキスという思い出も出来たし、後はスローライフを目指すだけだ。

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