奴隷売買2
大通りから少し外れた場所にある宿屋が今夜の宿のようだ。
受付では綾人が直接やり取りした。
1泊2食付きで10,000G。
ちょっと高めで長期滞在はしにくいなと思ったが、アレクが探してきてくれたし、大人が2人なら妥当かと思い3泊分支払い、部屋の鍵を受け取った。
夕食の時間は過ぎていたようだが、余りがあるという事でパックに詰めて貰い、部屋で食べる事にした。
そして、部屋へ向かう。
ドアを開けると、小さめのテーブルセットに大きいベットが1つ。
1人で過ごすにはちょっと広めな感じで過ごしやすそうだ。
……ん? 1人? ベット1つ!?
中のドアを1つずつ開けても洗面所やクローゼットになっているだけで、どう見てもワンルーム。
「あれ? 2部屋借りたんだっけ?」
と、言うと。
“いえ、1部屋です”
アレクが律儀にフリップボードで答えてくれた。
「だ、だよね? アレクは何処で寝る?」
“床ですが何か?”
“廊下の方がよろしいですか?”
アレクは何故そんな当たり前の事を聞くのだろうという雰囲気を醸し出している。
綾人的にはこれがまだ日本の家屋であれば、床で寝るのもありだと思うけど、ここは異世界。外国式で普通に部屋の中は土足なのだ。そんな床に人を寝させる事なんて出来ない。
しかも廊下なんて選択肢が有る時点で、奴隷なんだなとカルチャーショックを受けた。
これは早急に奴隷の認識について、情報を擦り合わせる必要があると思った。
小さめのテーブルセットに先程貰った夕食を並べる。奴隷販売所でお菓子をいただいていたとはいえ、この世界に来てからちゃんとしたご飯は食べていない為お腹はペコペコだ。
テーブルセットには椅子が2脚あったので、アレクに座ってもらい、一緒に食べて貰う。
最初戸惑っていたようだが、アレクは意外と柔軟性があるのか一緒に食べてくれた。
アレクの食事は元貴族らしいという情報通り、とても洗練されていて、気がつけばアレクの食事する様を見ていた。
とりあえず、食事を済ますと本題とばかりにさっそく常識の確認を始める。
この世界での奴隷の扱いは人ではなく物だそうだ。ただ、最近は奴隷にも人権をという事で隣の国では隷属契約魔法を禁止していたりするが、実際はまだまだ物扱いが一般的な認識。
そして、奴隷の中にもグレードがあり、1番グレードが高いのは性奴隷又は愛玩奴隷又は戦闘奴隷で、主人が身請けする確率が高い事もあり、1番平民になりやすい。また、主人が許可すれば主人がいる間だけは人間扱いされるらしい。
そして、真ん中のグレードで最も多いのが一般奴隷。完全に物なので、主人がどう扱おうが誰も咎めない。ただ、主人の物を壊せば器物損壊の刑罰の対象になる為、周りもあまり関わらない。因みに物扱いなので、宿屋の個室を1人で使うなど余程のことがない限り無理で、食事も主人の残飯をもらう事はあっても、基本的には奴隷の食事はない。
奴隷は“丸薬”と呼ばれる物が食事代わりの栄養剤みたいな物らしい。
……忍者かよ! と突っ込みそうになったのは内緒だ。
そして、1番グレードが低い奴隷が賎奴隷と言われる奴隷で、主に犯罪を犯した者などがなり、家畜以下という位置付けだそうだ。基本的には所有者はおらず、人間様のいう事を聞かないといけないという。
話を聞きながら、綾人は江戸時代の穢多非人という身分を思い出していた。
すると、アレクはフリップを置くと、徐にシャツのボタンを外していく。
このタイミングで脱ぎだすなんて、まさか……と綾人が思っていると。
アレクが胸元を広げて肌を晒す。
心臓あたりに、円形の刺青があった。
そして、アレクが手繰り寄せたフリップには
“これが賎奴隷の奴隷紋です”
と、いう文字が。
この時ばかりはアレクのあの澄んだ青い目が昏く、こちらの態度をうかがうように見ていた。
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