到着

二話連続投稿の二話目になります。ご注意ください。


◆ 


 火付盗賊改スタイルは目立ちすぎることにさっき気が付いた。今は飛行中でぐらぐら揺れてるから、着陸してから着替えないと。


 そして馬車は学園都市の城郭の外、出入り口らしい場所にゆっくりと降下していく。見るとそこは仮設の事務所みたいに机やらが置かれ、人員が忙しそうに俺より先に馬車を降りた新入生らしき者達に対応している。


 ちょっと緊張してきたなあオイ!


 今俺が降り立つぞ魔道学園!


 ちゃくりーく……今!


 離陸の荒さとは異なり素晴らしい着陸だったよ馬車君。さて、着替えないと。えーっと。


 ガチャ。


 ガチャ? は?


「きゃああああああああ!?」


 思わず悲鳴を上げてしまった!


 なんで勝手にドアが開いてんだよ! 最先端なのは時と場合のケースバイケースで使い分けろ! 俺が服を脱ぎ掛けてる今は駄目なケースだ!


 パーパーパーパッパッパ!


 なにごと!? 学外でござるぞ!? 空中に浮いたラッパやらなんやらがこの場所を取り囲み、リズムを取りながら踊ってる! こ、これが最先端音響技術!


 しかもラッパと同じくどこからともなくやってきたレッドカーペットが、馬車の前に敷かれてなんか準備万端になってるんだけど!


 ははあん。どうも隠し切れない高貴さってのが身から溢れてたらしい。っていうのは冗談。多分だが古代の魔法が、おっ母の血筋に反応したんだな。おっ母の一族は、正式に暗黒領域の一部を治めていることになっているらしく、王族と言えば王族なのだ。


 それが原理不明の古代魔法に引っかかり、俺っちがどこぞの王族の子供っていう対応になってるんだろう。


「ようこそマナーテルへ。到着の確認が必要なのですが、印章指輪はお持ちですか?」


 やっぱりな。受付の責任者らしい高齢の男性に出迎えられ、しかも印章指輪による確認まで求められた。この世界の王族は王家のシンボルに加え、各々が違うなにかしらが彫られた印章指輪を所持していることが多い。つまりそれを持っているかを聞かれたということは、最初から俺のことをどこぞの王族と判断した対応なのだ。


「いえ、そこら辺は厳しい家なので、印章指輪も姓も正式に後を継いだ時の話になります。まずかったですかね?」


「過去にも同じ理由が数例ありますので問題ありません」


 それを俺は持ってないんだが、受け付けの人に確認すると特に問題ないらしい。


 おっ母が代々受け継いでいる印章指輪はある。しかしそれは現当主だけが持てるもので、子供に別の印章指輪を持たす伝統はなかった。そして過去にもいくつか例があるということは、似たような王家は他にもあるらしい。


 パーパーパーパッパッパ!


 なにごと!? ってもうええわ。俺の後に降りてきた馬車をまたラッパが飛び回りレッドカーペットも敷かれた。どうやら王族連中って学園に結構入学するらしい。いや、実は俺の勘違いで全員これやってるのか?


「ひょえええええ、どうすんのこれ。やーばいでしょ」


 伽流だ。ギャルが馬車から現れた。黄色の派手な長い髪だけでなく、全身から陽キャオーラを漂わせた女が、黄色い目をかっぴろげて盛大な歓迎に戸惑っている。


「ふえ!? なにこれえ!?」


 そのギャルの後ろで、青色の髪をボブカットにしている小動物みたいな女が、髪と同じ色の瞳をぐるぐると動かしてはわわ状態だ。


「たはは……これはちょっと予想外かなあ」


 そして最後の一人。赤色の髪をセミロングにしている女が、赤い瞳を細めてどうしたもんかと困惑していた。なんか、オカン系幼馴染っぽい雰囲気を醸し出してるな。あれだ。毎日台所に立ってる感じの。


 この信号機三人ちょっとだけ似ているな。多分三姉妹で同い年、となると母親違いか? それにとんでもなく香ばしい匂いがする。狂気とか邪気と呼ばれる類のものだな。ただし、本人は悪ではない。親が訳ありっぽい。


 それらを宿しているから陽キャ、小動物、オカンの演技をしている……とまではいかないが処世術なのだろう。


「ではサイン確認をお願いします」


 おっと。受付に促されてしまった。人のこと観察してる場合じゃない。


「学園にも個人で通うことになっていますので、名前だけでも構いませんか?」


「そちらも前例がありますので問題ありません」


「重ね重ねありがとうございます」


 書類にサインを頼まれたが、おっ母の姓は一部では悪い意味で有名だし、おっ父の姓はこの世界に存在しない完全に異邦人のものだ。そのため入学願書にも名前だけを書いたがそれで問題ないらしい。どうも過去にスパルタな王家がいたなこりゃ。あれだ。家の名前に頼らず学んでこいって感じだ。


 もしくは爪弾きにされた奴。


 まあそれは置いておこう。ジョージ、っと。漢字で譲治って書いてもいいですかね?


「書けました」


「ありがとうございます。少々お待ちいただいてよろしいですか?」


「はい」


 サインをしたら少し待つことになった。処理とか色々あるんだろう。


 ぬお!? 仮設事務所から羊皮紙が飛んできた! あの真っ青なのに覚えがあるな……ひょっとして俺が城で書いた入学願書か? 必要項目を書いたら光って消えたんだよな。ミイラ魔導士連中は、それで受け付けられたから心配するなって言ってたけど、ワープ機能内蔵なのは恐れ入った。


 その恐らく入学願書の羊皮紙と、さっき俺が書いたサイン入り羊皮紙が合体した!? ワープ機能だけでなく合体機能だとおおお!? すげええええええ!


「確認が取れました」


 しかも認証機能付きか! いや落ち着け。


 実はこの願書、これまたうちの城のミイラ魔導士によれば魔道学園設立当初から使われているものらしく、常にいつの間にか補充されているようだ。


 そして住所といった概念が生まれる前に作り出されたためその項目がなく、記載した本人とその名前だけで魔術的契約が結び付くとか。馬車はその契約を辿って来たんだな。


 いやどんだけ古いんだよ魔道学園都市。つまり何々村の誰々って考えすらない時代ってことだろ?


「入学先は最適なものを選択されて、こちらの魔法により高等学校が選ばれています。そしてその校舎の学生寮にお住みになる。お間違いありませんか?」


「はい。間違いありません」


 受付のおっちゃんに頷く。


 願書には更なる特徴がある。通常は学園都市の数ある学び舎を選べるのだが、願書の入学先に自分にとって最適な物と書くと、結び付いた魔術契約がその生徒にとって、最適な学び舎を選んでくれるらしい。全部が全部、ミイラ魔導士連中から教えられたことだから、らしい。としか言えねえな。


 あの自分が魔道を極めることしか興味ありませんってミイラ共、学園の創設者は言いすぎたが元生徒なのは間違いないな。つまりそんなミイラ共が匙を投げた婆ちゃん式陰陽術はやはり偉大だ。


 思考が逸れたな。空飛ぶ馬車と一緒にやって来た入学の書類には、高等教育学校への入学許可が記されていた。


 つまり高校である。なにせ中二病を卒業した年齢だから! なんてな。アトランティア世界の高等教育は一味違う。


 なにせカリキュラムの内容を見たが凄かった。一般教養は当たり前として戦闘訓練から宮廷作法、サバイバル術まで、場所が高貴だろうが普通であろうが、アトランティア世界で生きるためのありとあらゆる高等技術が教えられることになっているのだ。これには似たような場所を卒業している我が一族もニッコリ。


「なお高等教育学校は、王家の特権に対して全く配慮されていません。書類にはその旨が記載されていましたがご確認していただけていますでしょうか?」


「はい!」


 そんな場所だから入学関連の書類には、高等教育学校は生まれも育ちも全く関係ないことがしつこく記載されていた。全く問題なし。メンチの切り合いだろうと受けて立つ所存である。


「最後になりますが、通常の寮ではなく設備が最低限の高等教育学校寮をご利用されることに間違いありませんか?」


「はい!」


 そんでもって学生らしく学生寮で生活だが、通常の学生が暮らしている寮の他に高校には専用の寮がある。送られてきた資料を見るに四畳半もなく、本当に最低限度の設備しかないらしいが、通常寮に比べて家賃がべらぼうに安かったのでそちらを利用することを選んだ。


 おっ母は安い寮より豪華な方にいてほしいようだったが、可愛らしいチワワな俺は広い部屋だと持て余してしまうからな。


 そして入学関係の書類と一緒にやって来た寮に関する書類もまた、印をつけたら消えたので古代の契約魔法に関連するということだから、設備が最低限でも非常に由緒正しい寮なのだろう。


「入学先は最適なものを選択されて、こちらの魔法により高等学校が選ばれています。そしてその校舎の学生寮にお住みになる。お間違いありませんか?」


「はい!」


「は、はいそうです」


「はい」


 む。推定三姉妹も俺っちと同じか。ということは同級生としてよろしくな!


「では高等教育学校、形骸化しているとはいえ武王武芸学校の通称が有名ですが、その学生寮へご案内します」


 受付のおっちゃん。悪いが今までのやり取りなかったことにしてくれねえか?


 あ!? それに服を着替える暇がなかったから火付盗賊改のままだ! 通りで俺に視線が集まってる訳だ!

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