地球ファンタジーを食らえファンタジー!~日本かぶれが行く魔道学園生活~

福朗

プロローグ。地球かぶれ。

 前書き。

 息抜きに久しぶりなノリを投稿 


 ◆


 女は暇であった。退屈であった。


 薄い赤と紫のドレスの下に潜む男の欲を詰め込んだような肢体と、黄金よりも輝く金の髪と金の瞳。それらを兼ね揃えてた絶世の美貌は、これ以上ないほど退屈だと言わんばかりだ。


 しかし地を這う猿同士の戦いも、魔の者達の暗躍も、空へ飛び跳ねるトカゲ達の栄華も興味がなかった。それは跪く様々な眷属達に対しても同様だ。


 これは呪いであった。かつて先祖が受けた怠惰の呪い。抗わなければ意識も精神も腐り果てて狂乱と奇行に陥り、やがて生命活動すらも停止してしまう恐るべきものだ。それ故に彼女達の一族は必死に未知や好奇心を抱くものを探し出した。


 しかしそれも限界に近かった。一族はこのアトランティア世界の秘密を殆ど暴き立て、女の気を紛らわせるものなどほとんど存在しなくなっていた。


 そこでふと女は先祖の話を思い出した。


 パンゲア世界から別たれしがこのアトランティア世界という伝説。ならばそのパンゲア世界になら暇つぶしになる存在がいるのでは? と。


 だが本当に単なる思い付きだ。自らもそのパンゲア世界にルーツがあると伝えられているが、伝承は伝承に過ぎない。それにパンゲア世界が実在する証拠とされるジパング魔法の弱さや、伝承のジパング神の弱さを考えると、パンゲア世界に暇つぶしとなるようなものは存在しないだろう。だがそれでもなにもしないよりかはマシかと、パンゲア世界について調べ始めた。


 結果見つけてしまった。異なる次元、異なる世界。されとかつてアトランティアも含まれていたパンゲア世界を。


 女は喜んだ。ジパング魔法と伝承のジパング神が弱かろうと、未知は退屈な時間を潰してくれるだろう。そして未知を暴く瞬間もまた、きっと自分の退屈を紛らわしてくれるに違いない。そう考えてパンゲア世界にもいた人間を呼び込み話を聞こうと思った。


 それが全ての間違い、あるいは奇跡だった。


「……妾と話す栄誉をやろう」


「初めてですよ。令和のご時世に、平成後期のお約束を体験させてくれたお馬鹿さんは。ああご心配なく。僕は義務教育も受けて敬語をマスターしていますので、無礼者からのよいよいのパターンはしなくて大丈夫ですよ。ただレギュレーションとしては、無理矢理呼び出された場合は敬意を払わなくていいことになってるみたいですね」


 女王の間で気だるげに横たわる女の精神は呪いのせいで危険な領域に達しており、高慢な別人格が生まれかけていたが、召喚陣から呼び出された黒髪黒目の二十代中頃の男は関係ないとばかりに、柔和な顔で微笑みながらはっきりと青筋を浮かべていた。


「貴様なにを訳の分からないことを! 女王陛下に向かって無礼な!」


「訳が分からないのは、営業がこっちのことを考えずに取ってきた案件で、納期が激ヤバな最中に拉致された僕のセリフなんですよ。今日中に陰陽術符を千枚作らないといけないなんて、真剣にガチのマジでヤバいのに。っていうかよく僕のこと拉致できましたね。ひょっとして完全なランダムで召喚しました?」


 女の臣下である人型のカエルが怒鳴っても、男はどこ吹く風で自分の都合を吐き出していく。


「……お前の都合など知らん。さあパンゲア世界やジパングのことを話せ」


「自分の都合で色々する神格が大っ嫌いなものでして、実はすっごいカチンときてるんですよ。どうでしょう、もうこの際納期は諦めるんで、一旦お茶をしてからにしませんか?」


「……貴様と茶をしたところでなんの暇つぶしになる。それなら無理矢理話させてやろう」


「あっはっはっ。今日だけは暴力主義者に転向しますね。封印解除」


「なに!?」


 押し問答が続くかと思われたが、男が己の力を解き放ったことで一変した。


 女と家臣達は不思議に思うべきだった。男が平然としていることに加え、いきなり全く別の世界に連れてこられたのに、この世界の言語を使いこなしていることを。


「変身」


 女の居城である、暗黒領域の忘れられた城のすぐ傍でソレが現れた。


「貴様!?」


 それと同時に女の姿が変わり、城の外で相対した。


『何者だ!』


 叫ぶ女は全身深紅。城に匹敵する巨体。七つの竜の頭に十の角。輝く蛇の鱗。世界を滅ぼしかねない強大な魔力。


 紛れもなくアトランティア世界最強の一柱であり、“滅び”の名を関する超越者であった。


 そんなソレが怯えていた。恐怖していた。


『おやその姿。ランダム召喚なのに僕が呼ばれた理由が少し分かりましたね』


 相対するは黒きのっぺらぼうの巨人。手足も胴も首も細長く、子供がアンバランスな棒人間を描いたような異形。


 だがなによりも目を引くのは腰から生えた九本の死なる撓る尾。


 尾の名は。


    物質主義10i.キムラヌート

    

    不安定9i.アィーアツブス

貪欲8i.ケムダー      色欲7i.ツァーカム

     醜悪6i.カイツール

無感動4i.アディシェス     残酷5i.アクゼリュス


愚鈍2i.エーイーリー     拒絶3i.シェリダー



 巨人よりもなお長い禁忌を宿した尾が天に伸びる。


 そして本体の名こそが。


 無神論1i.バチカル


 であった。


『さあ、暇つぶしとやらに付き合ってあげましょうか! ついでに呪いも解いてあげますよ!ショック療法になりますがね!』


『ぬかせえええええええええええ!』


 全次元を見渡しても最高峰に危険な存在とこの世界の頂点が激突した。


 ◆


 ということが昔にあったらしい。


「いやあ若かった……もう少しやりようもあったんでしょうけど」


 項垂れるパッパ。身内に反面教師が多すぎたせいで、地味な仕事に就いてた地球産邪神で気苦労性。年末年始には俺らを連れて地球に帰ってるから、別に身内と今生の別れはしていない。そんでもって当時の納期がどうなったかは話をしてくれない。多分爺ちゃんの会社の社畜を頼ったんだろう。


「いやん貴方ったら。ヤリようだなんてそんな」


 くねくねしているマッマ。どうも先祖は地球産らしいがマッマ自体はこの世界産。パッパにしばき倒されたと同時に呪いが解けて色ボケたお馬鹿怪物。その後パッパに世界旅行くらいしてみろってあちこち連れまわされ、最後に地球産邪神を押し倒したから、試合に負けて勝負に勝ったってか?


 そんで生まれた俺っち。スーパーイケメンパーフェクト日本男児譲治君ことジョージ君。まあアトランティア世界産なのだが、心は魂の故郷ジャパンに置いている。白ご飯美味しい。


 なにせマッマ。もういい。おえってなる。おっ母の城だろうが俺は自分の部屋を和室に変え、炬燵にミカンまで取り揃えているのだから、誰が何と言おうと日本男児なのだ。うんうん。が、排気ガスの臭いだけはいただけない。田舎育ちは空気に煩いからな。


「それにしても譲治が魔道学校に行くとは月日が経つのは早いですねえ。ああ青春の思い出というべきか。色々とあったなあ」


 おっ父がミカンを剥きながらどこか遠くを見ている。気苦労性だから学生生活でもいろいろあったんだろう。俺も気が細いから学生生活をちゃんと送れるかとっても心配だ。


 そう、学生生活。超ど田舎の暗黒領域とよばれるエリアで暮らしていたが、大都会の喧騒に憧れてアトランティア世界最大の学園都市、魔道学園に通うことにしたのだ。


 なにせこの暗黒領域、本当に何もない。酒場もなけりゃ出会いの場もなく、おしゃれな服飾店だってない。シティボーイになることを宿命づけられている俺っちには耐えがたい。魂の祖国日本の喧騒を知っているからなおさらだ。まあ日本の田舎はマジで田舎だけど。


 とにかく、それ故に俺は魔道学園でキャンパスライフを送るのだ!


「ジョージが止めなかったら暗黒領域にも学園を作ってあげたのに」


「入学する前に全員死ぬから」


 おっ母の天然発言をばっさり切り捨てる。野良ドラゴンとか当たり前に飛んでる暗黒領域で学園なんか建てたところで、いったい誰が入学するってんだ。在校生が俺だけになるわ。


 そして幸いなことに都市全体が魔道学園といえるほど広大な教育機関は、膨大な生徒数を誇り来る者拒まずである。願書を出したらそのまま合格したため、俺はもう少しで魔道学園一年生という訳だ。


「ところで学園に持っていく服のことなんだけど」


「持っていく服? 新選組の? 赤穂浪士スタイルの? それとも火付盗賊改風の?」


「全部だね。悪目立ちしちゃうよ」


「え!?」


 おっ父が妙なことを言ったので驚いてしまう。いや、確かに新選組が着ていた浅葱色のだんだら羽織は当時の価値観ではダサいと思われていたらしいが、今現在はすげえかっこいいものである。現に新選組暗黒領域おっ母の城屯所では、動く甲冑全員が着ているほど大人気だ。


 よかろう。それなら悪目立ちするという価値観が間違っているのだ。俺が見事に着こなしていたら、学園でも大流行するに違いない!


「それと刀なんだけど」


「陸奥守義之mark-Ⅲ? それとも備州長船近景mark-Ⅲ? それともコテⅡ? それともそれとも」


「持ってる刀全部だね。悪目立ちしちゃうよ」


「え!?」


 またおっ父が妙なことを言い出したので驚いてしまう。いや、確かに剣が主流なこのアトランティア世界で刀は異端だろう。だが刀は日本人の魂であるし、暗黒示現流や暗黒天然理心流使いが多いこの城では多くの動く騎士甲冑が刀を装備している。つまり悪目立ちしようと布教活動こそが肝心なのだ。


「譲治は時代劇好きだからなあ……」


 なぜかがっくりと項垂れるおっ父。おっ父が実家に帰ったとき、孫馬鹿爺ちゃんの膝の上で時代劇を見ながら煎餅を齧るのが小っちゃい俺のジャスティスだった。


「地球由来のものを馬鹿にされても怒っちゃだめだからね」


「勿論さ!」


 善処はするよおっ父。善処はな。


 アトランティア世界は地球に存在したくせに、地球のことを劣った技術や弱小神格しかいなかった世界であると言い伝えているのだ。もうとっくに科学技術で後れを取っていることを知れば、典型的な魔法ファンタジーレベルの技術しかないこの世界の連中どんな顔をするか。


 俺に陰陽術を教えてくれたスーパーウルトラ偉大なりしお婆様なら鼻で笑うだろう。それかフルパワー大黒天か帝釈天の力を見せたろか。


「まあ程々にね。騒ぎを起こすなと言っても、騒ぎの方からやって来るのが目に見えてるし」


「了解!」


 へっ。流石だぜミカン食ってる父ちゃん。優等生が確約されてる俺が騒ぎを起こすとすれば、それは騒動の方から来て仕方なく対処したからだ。


 つまりアトランティア世界が少しだけ吹っ飛んでも俺は悪くねえ。


 という訳で待ってろよ学園都市! 邪神&怪物夫妻と違って至極まともな俺っちが行くぞ!

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