First defeat
「らああ……ッ!!」
叫び、一段と攻撃の間を縮める。しかし、一撃一撃の重さを捨てるつもりなど、一切ない。今ある最大限を出すのみだ。
時折、拳や蹴り技も交えることにより、なるべく隙ができないように、相手に大きな動きをさえないようにと動く。
俺の最大まで上げ切った速度を追うのが間に合わなくなったのか、時々相手の迎撃を抜ける俺の剣。しかし、それが決定打になることはない。
「チッ!」
舌打ちをし、大きく振りかぶったアリオス。俺も後ろに大きく飛び、距離を取り構える。
俺の上段突進技と、相手の大上段。お互いの最大火力を誇るスキルがぶつかり合い、青と黄色のライトエフェクトが派手に飛び散る。
最大火力は俺よりも奴のそれの方が高かったらしく、俺は後ろに大きく吹き飛ばされてしまう。
何とか空中での回転で転倒を防ぐ。何とか耐えた……だが、この一瞬の隙を見逃してくれる相手ではない。
最初に見せた大技を、またしてもぶち込んできた。
だが、初見でない攻撃ならば、その対処も可能だ。
「もらったあああ……ッ!!」
回避に成功し、背後に回り込んだ俺は、防御なんて忘れ、全力で剣を振るった。それがアリオスの背に直撃する直前、俺が見たものは、俺の腹へと迫りくる、相手の剣であった。
「なっ!?」
「ぬおお……っ!!」
そんな雄叫びが鼓膜を震わすと同時に、非常に強力な、下手したら現実ですら味わったことのないような衝撃が腹を中心に走っていく。どうやら、俺は今、宙に打ち上げられてしまっているようだ。
ある程度の高さまで上昇した後、俺の身体が地面に向かって落下を開始する。
──負けた……か。それにしても結構高いとこまでぶっ飛ばされたなあ……これ、落ちたら多分死ぬよな……HP6しか残ってないし。
そんなことを考えながら、地面との衝突を待つ。
凄まじい痛みが今度は全身に走り、俺のたった6の体力を奪う……ことはなかった。
ぎりぎりのところでアリオス……いや、ここは敬意を持って呼ぶべきだろう。アリオスさんに受け止められたようだ。彼は俺の無事を確認すると、即座に口に何か瓶のような物を突っ込んできた。
「うえ……なんだこのすっげえ苦いの……」
どうやら、あれだけのダメージを与えられてもなお、俺にはこんな愚痴を吐くだけの体力が残っていたらしい。
「この街で一番高価なポーションだ。安物と違ってすぐに効果が出るはずだ……すまんな、お前さんがあまりに強いもんだから、全力を出しすぎちまった」
本気を出してもらえたなら、負けたことを悔やみはしない。いい勝負だったと、心から思う。
「アリオスさん。一つ、聞いてもいいか?」
「どうした?」
「俺にトドメを刺したあの技、一回目の突進攻撃とは別物なのか? それとも、技と技を繋ぐみたいなことしてたりするのか?」
このことについて、技を食らったその瞬間から疑問に思っていたのだ。あんな大技、使えるのならば俺も使ってみたいものだ。
「ああ。アレは二つの技を繋いだもんだ。一撃目の、《キャノン・インパクト》の後隙が大きいから、後ろからの攻撃を誘いやすいのさ。大抵は引っ掛かるから、そこに二つ目の、《ヴェンジェンス》をぶち込めば……まあ、初っ端お前さんが回り込まずに後ろに飛んで、そのまま真正面から突っ込んできたのは焦ったがな」
なるほど、俺はまんまとその罠に嵌ってしまったというわけか。
「いやあ、初見の技だったからさ。変に前出るより後ろ下がる方がマシかなあって思ってさ。んで二連撃とかじゃないってわかったから、攻撃しに行ったんだ」
「なるほどな……そう動かれればオレの技は隙だらけだからな……。まだ普通の剣だったからいいけどよ、これが細剣とかだったら初っ端でやられてたかもしれん」
がはは、と豪快に笑ってアリオスさんは続ける。
「いやあ、お前さん、今までやり合ったヤツの中でも一番の腕かもしれんな。これなら、あの狼どもを剣の腕で倒したってのにも納得できるな」
「そ、それじゃあ!?」
「ああ。歓迎しよう。虹下街、ラルカンシェル・カスケードへようこそ!」
食いつくように反応を見せた俺に彼は、頷きながらに答えてくれた。
その後、村の案内をアリオスさんにしてもらっている最中、決闘前後で見ていなかったリア──どうやらアリオスさんがついてこさせなかったらしい──と合流し、薬屋に連行されたり、彼女らの家たる見たことのないくらいにデカい屋敷に連れられ驚愕したりと、結構楽しい時間を過ごした。
そして今は、リアがさっきまで集めていた材料でお菓子を作ってくれているので、それを待っている。
それにしても、さっきから何か、視線を感じるような……。
「ははは! ルカ。見てないで来たらどうだ? こいつはお前が思ってる程怖い奴じゃないさ」
アリオスさんが俺の後方に声をかけるので、振り向いてそちらを見る。
すると、リアよりは少し年上だろうか? リアによく似た髪色の少年は、ギクッというような効果音が聞こえてきそうな表情をして、その場を逃げ出した。
……が、二、三秒もしたら戻ってきた。
「あー……えっと、こんにちは。俺はツユキ。しばらくこの街にお世話になるつもりだから、どっかで会ったらよろしく」
「……」
やはり、怖がらせてしまっているのだろうか、部屋に入って来はしたものの、目を合わせてくれる気配がないし、返事もしてくれない。
「そんなに怖がっちゃあこいつに失礼だろう? ちゃんと挨拶するんだ」
アリオスさんにそう促され、先ほどルカと呼ばれていた彼は緊張を感じさせる声で言った。
「……ルカ……アルカです」
──なるほど、アルカからとってルカなのか。結構単純なもんだな……なんて感想を抱く。まあ、本名から取ってきてこのツユキという名を使っているのだから人のことを言えないのだが。
「そっか、俺もルカって呼んでいいかな?」
「……うん」
あまり刺激しないように、微笑みながら問う。それに小さく頷いてくれるルカ。
「そうだツユキ。お前さん、森の方面に行く気はないか? 魔族の影響か知らんが、魔物が活発になってるってのを聞いてな。魔物討伐を手伝ってほしいんだ」
「魔物討伐か……うん。行くよ。もし、またリアが森にでも行って、魔物に襲われたら大変だしな」
魔物退治なら、スキル上げにもちょうどいいだろうし、こちらから頼みたいくらいだ。
「報酬じゃなくてリアの安全の方を気にしてくれるとはなあ……まさか、お前さん……リアは渡さんぞ!?」
「なんでそうなるんだよ!?」
まさかの指摘というか、そんなこと言われるだなんてまるで思ってもいなかった。というか、こう見えてアリオスさんって結構な娘ラブ系親父さんなのか?
そんな若干ゆるくなってしまった空気を改めるように、ゴホン。と咳払いしてアリオスさんは真剣な眼差しでこちらを見据え言った。
「そこでだ。森での戦闘を通してこいつ──ルカに魔物との戦い方を教えてやってほしい」
と。
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