第9話 魔女の塔

『気球1日目』


夜間飛行は星が見えて居れば方向を見失う事は無い


4人が乗った気球はエルフの森を飛び越え東へ…光の国シン・リーンを目指す


女海賊は剣士をシン・リーンの魔女の下へ送り届けた後にどうするのか気になり始めていた



「あんたさぁ…魔女に会って目が見える様になる魔法教えて貰ったらどうすんの?」


「あまり考えて居なかったんだけど…どうしよう…」


「なんか…あんたを魔女んとこ連れて行ってハイさよならってならないの分かる?」


「え?」


「え?じゃ無ぇよ…どうすんのかサッサと決めて!」


「君はどうするの?」


「私はお姉ぇと一緒にシャ・バクダに帰るさ…」


「そう…じゃぁ僕は女エルフと一緒にエルフの森にでも行ってみようかな」


「……」


「あれ?どうして黙る?」


「あんたさぁ…この広い世界で一旦離れ離れになったらもう二度と巡り会わないかも知れないって分かる?」


「分からない…どの位広いのかも想像出来ないよ」


「なんかすっごい腹の中ムカムカする…」


「ごめん…怒らせてしまったかな?」


「怒って無いけど…なんだろう…シン・リーンに行きたく無くなって来た」


「それって僕と離れたく無いって言ってるのかな?」


「うっさいな!ハイさよならってならないって言ってんじゃん!」


「君とはいつも夢で会える気がするんだ」


「夢…」


「気のせいかも知れないけど匂いが同じなんだよ」


「夢は夢さ!!現実どうすんの?って聞いてる訳!!」


「女エルフは森に返してあげないといけないよね?」


「ほんじゃその後どうすんの?」


「その後は…」


「あったま来た!!あんたは私のペット!!この意味分かる!?」


「ハハ…分かったよ…君の所に必ず戻る…これで良いかな?」


「始めからそう言えってんだ」プリプリ


「僕は君のペットかぁ…なんかそれでも良い気がして来たなぁ…」


「どういう意味?」


「僕はね…千里眼で目が見える様になりたかった理由は夢を思い出したかったんだよ」


「で?」


「僕が探してたのは君の匂いだったのかも知れないと思ったらそれでも良いかなってさ」


「ちょ…もっと嗅ぐ?へそのゴマとかもっと臭いよ?」


「ここだね?」クンクン


「ギャハハ!!ちょ…腰に手を回すの止めて!くすぐったい…ギャハハハ」




翌朝…とりあえず進路は安定していて順調に東へ向かっていた


気球の操舵はそっちのけで女海賊と剣士はぐっすり寝て居る


目を覚ました女戦士はそんな2人を見て呆れた様子だった




「結局気球の操舵は女エルフが担当したか…」


「いえ…私は只見ていただけ」


「丁度日の出だ…現在地はエルフの森の真上当たりでは無いか?」


「現在地が分からない…見慣れている筈なのに…」


「そうか…遠すぎると森の感覚も分からんか」


「森を自在に走っていた筈なのに…ここから見るとなんて私は小さかったのだろうと思う」


「ハッ!!」キョロ


「ん?どうした?」


「私…今誰とお話を…え?」


「どうしたんだ?急に?」


「同じ会話を誰かとした事が有る気がして…これが夢?」


「既視感は良くある事だ…心配しなくても良い」


「もしかして剣士が言っていた夢ってこういう事?」


「何を言っているのか良くわからんな…疲れているのではないか?」


「剣士!?剣士!?」ユサユサ


「…ぅぅ」パチ


「私…夢の中の人を少し覚えてる」


「おはよう…何の事?ふぁ~あ」ノビー


「顔を覚えてる…でも誰なの?」


「待て待て女エルフ…混乱しているのか?剣士は今起きたばかりだぞ?」


「あ…ごめんなさい」


「ええと…何だっけ?夢を覚えてるかって?」


「少ししか思い出せない…顔は分かっても誰だか分からないの」


「僕も同じなんだ…今も夢を見ていた気がするけれど直ぐに思い出せなくなる」


「ふむ…夢か…アサシンが言ってた夢幻と何か関係するのか?」


「それを確かめにこれから魔女に会いに行くの」


「まさかみんな同じ夢を見ている訳ではあるまいな?」


「その可能性もありそう…人間が見る夢の中に精霊の魂が閉じ込められて居るかも知れないから」


「お前までアサシンと同じ事を言うか…」


「私…もう一度眠って夢を見たい」


「女エルフは寝て居なかったのだろう?交代だ…休んで良い」


「少し目を瞑って見る…」



女エルフはそう言って横になった


代わりに女海賊がモゾモゾ動き出す



「ぅぅぅさぶ!!剣士何やってんのさ!!背中寒いんだけど」ブルブル


「あ…起きた?」


「なんで私の毛布無いのさ!寒いんだって!!」


「それは君が蹴とばすからだよ」


「うっさいな…背中寒いって言ってんじゃん!」


「いつまでゴロゴロしているつもりだ?起きろ…」ギロリ



女戦士はグダグダしている女海賊に活を入れる



「寒くて凍えそう…」


「それは私も同じだ…少し高度を下げるか?」


「ダメダメ…遅くなっちゃう」


「いくら炉に薪を入れても温かくなって来んな…熱を全部球皮に使って居るからなんだろうが…」


「暖をどうやって取るか考えて無かったな…毛布じゃ足りんかった」


「お前は爆弾の材料を持ち歩いていただろう」


「あるよ…どうすんの?」


「砂鉄、塩水、木炭、砂…これで暖を取れる」


「お!?全部爆弾の材料だ…混ぜれば良い?」


「砂鉄が7割だな…後は適当に皮袋に詰めて混ぜろ…いくつ作れる?」


「2つかな…砂鉄が足りないよ」コネコネ


「毛布の中に入れておけば大分違う筈だ」


「お!?あったかくなってきたぞぉ!!」コネコネ


「一つは女エルフでもう一つは私が使う」


「えええ!?私も寒いんだけど!!」


「お前は剣士で温まれ…それで文句は無いだろう?」


「おい剣士!!あんた何やってんだよ!!こっち来い!!」


「ハハ…参ったな…」



剣士と女海賊は1つの毛布で包まった


女海賊は冷え切って冷たくなった足を剣士の懐に忍ばせる



「うわ冷たい…」


「あんた毛皮でぬくぬくしてるんだから我慢してよ」


「もう少し日が登って来たら少しは暖かくなるだろう」


「お姉ぇはいつから起きてたん?」


「私もさっき起きたばかりだ…気球の操舵はお前では無く女エルフがやっていた様だな?」


「アハ…まぁ良いじゃん!ちゃんと進んでるんだからさ」


「随分気持ちよさそうに寝て居た様だ…お前は何か夢を見たか?」


「はぁ?なんで急に夢の話?」


「さっきまで剣士達と夢の話をしていてな」


「良くわかんないんだけどいっつもこんな感じで冒険してる夢だよ?」


「フフやはりそうだよな?皆が別々の夢を見ている…普通はそうだ…」


「お姉ぇはどうなん?」


「笑うなよ?衛兵たちのアイドルをやっている」


「ぶっ…お姉ぇがアイドル…ぶはははは」


「アイドルというのは言い方が悪いが衛兵達から賛美される夢だな…」


「フリフリのドレスとか着ちゃって?ぶはははは…げほっげほ」


「そういうドレスも着た事がある…やはり只の夢だな」


「冗談やめて…ぶははは…ここ空気薄いんだから」ゼェゼェ


「ただ気になる男が居てな?ずっと私の傍に居たのに気が付いたら手放してしまった」


「それってフラれたんじゃね?ぶははは…死ぬ…もうやめて…ぶははは」


「誰だったのか…お前!!笑い過ぎだ」スラーン 


「ゲラゲラちょ…ゲラゲラぶははは…ま」ゴロゴロ


「ふん!!」バチーン


「いで…ケツがぁ…やめでぇぇ!!」





『気球2日目』


気球で高高度まで上がると東向きの強い偏西風に乗れる


そのお陰で進む速度はかなり早い


さらにドラゴン等の空を飛ぶ魔物も高高度までは飛んで来ないから安全に飛行できる


その代わり常時氷点下で非常に寒い


4人は毛布に包まりながら気球の炉が発生する少しの温かみと即席で作ったカイロで暖を取りながら過ごした




「そろそろ森の切れ目だ…流石に早いな」


「えっと!高度下げ始めるよ?もう薪が無い…うぅぅさぶさぶ」ブルブル


「正面少し右にシン・リーンの城が見えている」


「んん?どこどこ~?あぁぁアレだな?木に囲まれてて分かり難いねぇ」


「城までは行くな…面倒事が起きる」


「アイアイサー!!ちょい手前の林に着陸する」


「丁度日暮れで隠すのに手間が要らんな…城の手前から林を少し入った所に追憶の森という場所がある」


「そこが魔女の居る場所?暗くなって来てるけど大丈夫?」


「追憶の森まではそう迷う事は無い…その後魔女の導きが有れば行ける筈なのだが…」


「導きって何なのさ?」


「普通の人間では行く事の出来ない狭間の深い所に繋がっているらしい…導きが無いと辿り着けん」


「妖精!!出てこい!!お前の出番だぞ!!」


「妖精は今居ないよ?」


「最近ずっと出てこないじゃん!何やってんの?」


「ずっと私の胸の中に居るけれど…空の上は狭間が遠いの」


「ほ~ん…妖精は女エルフのおっぱいの方が好きなんだ…あんたの方が小さいのにね」チラリ


「違うよ…君が妖精の羽を引っ張ったりするからだよ」


「もう少し森に近づけば起きて来ると思う…」


「もしかしてシャ・バクダからずっと狭間が遠かった感じ?」


「そういえば星の観測所周辺は不思議とまったく狭間を感じなかったよ」


「まぁ良いや…とりあえず行ってみようよ」


「大体の場所は分かっている…行けば魔女が導いてくれる事を願うだな」


「あのさぁ…精霊の像もシン・リーンに有るって前にアサシンが言ってたんだけど見れるかなぁ?」


「無理だな…シン・リーン王家の祭事の時にだけ一般公開がある…今はその時では無い」


「なんだ残念…見たかったなぁ」


「精霊の像が安置されている祠は厳重に警備されているから避けて通る」


「精霊の魂が宿ると言われている像の事ね…」


「アサシンが言うにはそこに魂は既に宿っていないそうだ」


「魂は夢幻に…」


「うむ…魂は夢幻に閉じ込められたまま…その像はただ眠っているらしい」


「大分高度下がってきたよ?あったかくなってきたぁ!!」




気球は高度を下げながら降りられそうな適度な空き地を探す


大型の気球だからそう簡単に降りられそうな場所は見つからない




「あそこの川辺に降りろ…あそこなら木の枝に引っかからないで済む」


「おっけ!剣士!?縦帆を畳んで!!」


「えーと…このレバー回すんだっけ?」


「そうそう…終わったらロープ持って先に飛び降りて近くの木に結んで!?」


「私も手伝う…」


「助かる」


「降りたら暗くなるまで気球に木の枝を詰めるだけ積んでおけ…木材なら尚良い」


「そうだね私は食材探してくるさ」


「女エルフの方が鼻が利くから一緒に連れて行って」


「おっけ!あんたさぁ弓で川魚射れる?」


「得意よ」


「よっし!日が暮れる前にさっさと終わらすぞ!っと」




気球を川辺に着陸させ早速女海賊と女エルフは魚を獲りに出て行った


残った剣士と女戦士でシャ・バクダへ戻るのに必要な燃料をして木材を探して積み込む




「すぅぅぅぅ…はぁぁぁ…久々の森の空気…良い物だな」


「ずっと砂漠に?」


「なかなかシャ・バクダから離れられなくてな」


「アサシンは戻るのに早くて3か月と言ってたけれど…」


「私の父に会いに行ったのだろう?それだけなら1~2か月の筈なのだがな」


「ミスリル銀を取引するのだとか」


「知っている…それは特殊な銀で非常に希少なのだ」


「武器を作るのに使う?」


「そうだ…特殊な音が鳴るのだ…その音は目に見えぬ物を切る」


「目に見えない?」


「こう言えば分かるか?例えば縁を切る…絆を断つ…志を断つ…そういう物を切るのだ」


「そうか…魂のつながりを切るのか」


「理解が早いな…正直私には良く理解出来ん」


「アサシンは憎悪を浄化すると言ってた気がする」


「もしも魔王が居たとするなら憎悪の魂を断つ…そういう事だろうな」




木材を積み終えた剣士と女戦士は近くに有った石に腰かけ休んでいた


女戦士は剣士に話しかける




「済まんな…騒々しい妹の世話を掛けてしまって」


「僕の方こそここまで連れて来て貰って助かってる…」


「妹はな?お前達の様に対等に付き合える友人が居ないのだ」


「対等?ハハ僕はペット扱いだけどね」


「あいつの性格なんだろうが特定の者を長く傍に置かんのだよ…つまりお前はかなり気に入られてる」


「あぁなんか分かって来た…すぐに何処か行っちゃうんだね」


「フフ分かって居れば良い…まぁよろしく頼む」



その向こうで魚を捕まえたのか女海賊と女エルフが戻って来る



「あああああ!!ちょ…マジか!!」


「どうした?何を騒いでいる?」


「女エルフがさぁ…獲った魚に生でかぶりついてんの」


「フフフお前は知らんのか?エルフは生きた肉しか食さんのだ」


「え!?じゃぁ剣士もこのまんま食うの?くっさ!!」


「魚がまだ生きているならそのまま持って来い」


「僕はどちらでも良いよ…生きたままの方が食べ慣れてるけど」


「おぇぇぇ…ほい!一匹あげる」ポイ


「ありがとう」ガブリ モグ


「女エルフはいつも澄ました顔してるけどさぁ…あの顔で生魚にかぶりついてんだよ?」


「幻滅?これが普通よ?」


「ぷはぁぁぁ…良く寝た」ヒョコ



女エルフの胸の谷間から妖精が姿を覗かせた



「おぉぉそんな所から登場か!女エルフのおっぱいは寝心地良いか?」


「まぁまぁかな?…こっちの人は新入り?また硬そうなベッドだなぁ…」ヒラヒラ


「…」ジロリ


「なんかまずい事言ったみたい…」


「あんたが出てくるって事は狭間が近いね?」


「丁度良かった…これで迷わずに済む…早速だが魔女の塔まで案内して貰いたい」


「狭間の深い所はレイスが出てくるから危ないよ?」


「魔女が魔除けの結界を張っているそうだ…」


「へぇ~あっちの方だね行ってみようか?」ヒラヒラ


「うむ…日が暮れる前に行こう」


「ええぇぇ!!私まだ魚食ってないのにぃ!!」





『追憶の森』


ホーホー ホーホー


すっかり日が暮れて腹を空かせたフクロウが活動を始める


4人は妖精の後に続き暗い中を先に進む



「こっちだよ」ヒラヒラ


「あ!!ちょい待ち…馬車が停めてある」


「ん?…あれは王家の馬車だな…鉢合わせるとちとまずいな」


「魔女に先客かな?」


「…」クンクン


「む!剣士がクンクンしてる…誰かいるぞ?」


「隠れてやり過ごす!こっちの木の陰に隠れるぞ」


「10人位馬車の方向…」



木陰で様子を伺って居るとシン・リーンの近衛兵と思われる者と魔術師と思われる者が


三角帽子を被った子供を取り囲み馬車へ移動して来た



「姫様…一旦お隠れにならなければここも危ないのです」


「わらわは行きとうない!ここに隠れておった方が安全じゃ」


「母上様の命令にございます…わがままを言わないで下さい」


「何が来ようと狭間に居った方が安全じゃと言うておる」


「ですから姫様…エルフ達は狭間に来る事もあると言う事なのです」


「エルフはわらわ達の仲間じゃ…攻めて来る訳がなかろう」


「そういう状況ではなくなっているのです」


「攻めて来る理由が無いではないか!!」


「姫を拘束し取引に利用される可能性があるのです」


「馬鹿げておる!!エルフは誇り高き種じゃ!!その様な卑怯な事は絶対にせん!!」


「…今魔術師達は魔術院の方へ集まっております…そちらの方がここよりも安全とのご判断」


「どれくらいここを離れるのじゃ?わらわはまだ修行中であるぞ?」


「中立の国セントラルとエルフの戦争が終結するまでにございます」


「わらわ達はエルフの仲間では無いのか?エルフに加勢するのが義であろう?」


「状況はそう簡単ではないので御座います…ご理解いただきたい」


「母上にわらわが直接話す!もうお主とは話しとう無い」


「ささ…馬車の方へ」


「これ!!無礼者!!触るでない!!」ペシン



三角帽子を被ったその子供はシン・リーンの姫君だった


近衛兵6人と魔術師4人に守られながら暗い森の中を馬車で去って行く



「あの赤い目の子はシン・リーンの姫なん?」


「そうだ…護衛の近衛兵も世界屈指の腕を持つと聞く」


「三角帽子でちょーかわいい」


「女エルフ!今の話は本当なのか?エルフとシン・リーンとの友好の件」


「ハイエルフ達は精霊樹に再び魂を宿らせる為に毎日祈りを続けているの…」



シン・リーンに安置されている精霊の像も精霊の魂が宿る器


行方不明になった精霊の魂を探すために


毎年行われている王家の祭事にハイエルフも参加しているの


友好の件は多分シン・リーン王家との密約


互いに不干渉の約束を立てて


年に一度エルフと人間との間で談話がある


エルフの森ではシン・リーンとの不可侵を守るのは皆知っている事



「なるほどな…祭事の時に王家参列者で身長2メートルを超える者を見た…ハイエルフだったか」


「ハイエルフは私や剣士と違ってずっと大きいのよ」


「逸話では人間100人でも勝てんと聞くが?」


「わからない…見た事無いから」


「馬車行っちゃったよ?」


「鉢合わせなくて良かった…行こうか」






『狭間の奥』


奥に進むにつれて変化を感じるのは音だ


騒いでいた筈のフクロウやミミズクの鳴き声は聞こえて来ない


葉の擦れる音も風で木々がざわめく音も聞こえなくなり静寂となって行く


シーン…



「もうすぐだよ」ヒラヒラ


「なんかさ?…木の隙間から見えてた星が見えなくなったんだけど…空が黒い?」


「狭間の奥の方は空が無いんだよ…もっと向こう側が黄泉」


「私が死んだらここを通る?」


「多分迷うから妖精が案内するんだ」


「ってことは今半分死んでんの?」


「ケラケラそうかもね?心臓動いてる?」


「え!?…あ…止まってる?え!?マジ?」


「何か…居る!」スラーン チャキ



剣士は何かを感じて武器を抜いた



「剣士!?落ち着いて?」


「え?何?見えない…」


「どうした!?」


「うわぁぁ!」ブン ブン



剣士はあの時の様に見えない敵に切りかかっている


それを諫める様に妖精が慌てて割って入る



「落ち着いて!?それはこれから妖精になる魂」


「妖精?ハァハァ…」


「歓迎しているんだよ…落ち着いて?」



その時頭の中で声が響いた


”おやめなさい”



女海賊「あ…声…」



”驚かせてしまいましたね”


”さぁ…中へお入りなさい”


”あなた達を待っていました”


「魔女の声だ…行くぞ」


「中ってどこよ?なんも無いじゃん?」


「こっちだよ?一歩前に進んで?」ヒラヒラ


「一歩?…うゎぁ!!」



4人は足を一歩踏み出しその空間へ迷い込んだ




『魔女の塔』


一歩踏み出した先は一面の花畑…その中央で魔女の塔と呼ばれる建造物がそびえ立っていた


太陽は見えないが辺り一面光が射し昼間の様に明るい



「え?どうなってんの?なんで昼間?」


「エルフの森と同じフフフ」


「お花畑の真ん中にポツンと…塔?こんなん地図に無いぞ?」



”お上がりなさい”



「許可が出た…上がるぞ」



女戦士を先頭に塔へ向かって花畑を進む



「花を踏まん様に付いて来いよ?」


「うん…てか良く見たらミツバチとか蝶々とか一杯居るな…どうなってんだ?此処…」


「私も初めて来たときは驚いた」


「アサシンと一緒だったんだよね?隠してたなんてズルい!!」


「お前に話すと一人で探しにくるだろうに…言わんで正解だ」


「なんかちょーすごくない?この塔って何で出来てる?石?鉄?」


「やはりそこに興味を示すか」


「ちょい調べたいんだけど…」


「それは後でゆっくりやれ…今は黙って付いて来い」



興味深々の女海賊は渋々女戦士の後へ続く


塔の入り口と思われる扉の前には土で出来た土偶がいくつも並んでいて


まるで侵入者を見ている様だった


女戦士は入り口の扉を潜り上階へ続く階段を上がって行く


その先に沢山のハーブと思われる植物に囲まれ椅子に座った物静かな婦人が居た



「…あの椅子に座ってるお婆ちゃんが魔女?」


「そうだ…挨拶するぞ…魔女様…突然の訪問をお許しください」


「良いのです…さぁ皆さん椅子にお掛けになって?」


「はい…」


「ゆっくりして行って良いのですよ?」


「先ほど私たちを待っていたとおっしゃった様ですが?」


「あなた…」



魔女は剣士の方に向き直り言葉を発する



「千里眼を求めてここに来ましたね?」


「え!?あ…はい」


「千里眼は光の魔法…これを授けるのは簡単な事です」


「見えるという事がどういう事なのか知りたいんだ…教えてください」


「この魔法はあなたの目を治す物ではありません」


「それでも良いです」


「あなたの瞳は奪われたのです…奪われたその瞳の先を見ることが出来るでしょう」


「え?」


「奪われたって…どうやって?」…女海賊が口を挟む


「祈りの指輪で光を奪われたのです」


「祈りの指輪だと!!…これはとんだ所で情報が入ってきたな…」…女戦士も話に加わる


「どうして僕の瞳を奪う必要が?」


「それはいづれ分かる事でしょう…今は知る時ではありません」


「今教えてくれてもいーじゃん」


「理由があるのです…あなたはとても大切な人…乗り越えなくてはならない試練があるのです」


「失礼ですが…魔女様はそれを知っていたという事ですか?」


「18年前…あなたが光を奪われた時から私を求めここに導かれることは決まっていました…」



あなたを育てた母の白狼は遥か昔から精霊樹を守る犬神の末裔なのです


そしてエルフが最も信頼しているのも白狼


あなたは理由があって瞳を奪われた後に


森から追放されたのではなく最も信頼のおける白狼へ預けられたのです


その時エルフは白狼に伝えました


瞳が必要になった時に魔女を訪ね千里眼を求めなさいと


なぜならその魔法が求める物に導くから


私は18年前にここに訪れたエルフに話を聞き


約束を果たせる時を待っていました


今がその時です…私の定命が尽きてしまう前で本当に良かった



「魔女様は…お体を?…」


「私の命はもう長くはありません…人間が200年以上も生き永らえるのは狭間に居るお陰」


「しかしそれもそろそろ限界でしょう」


「僕は…千里眼を使ってどうすれば?」


「あなたの瞳を追うのです…その先に祈りの指輪があります」


「祈りの指輪で僕の瞳を求める?それで良いのですか?」


「そう…あなたの瞳を持っている者こそ…あなたの本当の母」


「母…」


「あなたの母はその指輪で精霊を祈り、そして指輪を守り、あなたの瞳も守り続けています」


「マザーエルフ…」…女エルフはその名をこぼした


「瞳が戻ったならば再びここを訪れなさい…精霊の魂を解放する術を教えます」


「どうして僕の瞳を奪う必要があったんだろう…」


「それは直ぐにわかりますよ?…心配しないで…」


「なんか…生い立ちを聞いてしまうと…僕が僕では無くなる様な感じが…する」


「話が長くなってしまいましたね?ゆっくりしていきなさい?ここは時間がゆっくり流れているから…」


「本当の母…どうして母さんは僕を捨てたの?」



剣士の様子を見た女戦士はそれを諫める



「…剣士!少し休もうか…頭を整理した方が良い!明日の朝に出発だとすると5日間ここで休める」


「え?何言ってんの?お姉ぇ…狂った?」


「ここの1日はあなた達の世界のたった2時間程…ゆっくりして行って良いのですよ?」


「そうだ…5日もあればゆっくり魔女と話が出来る」


「そうです…焦らなくても良いのです…」


「マジかぁぁ!!やっと休めるぅ…ん?待てよ…」



女海賊はこの現象について少し疑問に思った


何故なら女海賊は物理現象に興味が有りそれとは違うこの空間がとても不思議だったからだ




魔女は200歳だったとして1日が12倍て事は…2400年分の時間をここで過ごしてる?


ん?逆か?ここで200年分歳を取ってるって事は…16年しか経ってない?


いや…まてよ?16年分はどこで経つ?あああぁこんがらがってきた…もっかい最初から



女海賊1人ブツブツと考え事をしながら塔の中をうろつき始めた


図々しくもあちこち調べ回る…いつもの事だ


魔女はそれを何も言わず見守る…その顔には優しさが満ちていた

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