高橋の好きな人は高橋君

時雨 奏来

第1話 高橋と高橋君

高橋の好きな人は高橋君。


高橋君の彼氏は高橋さん。


高橋さんの妻は高橋ちゃん。


高橋ちゃんの彼女は高橋。



偶然に偶然が重なって、その日、その場所で、その時間に、高橋は恋をしました。


「高橋君、彼女とかいるの?」


「”彼女”はいないよ」


「へぇ~!モテそうなのに以外!」


「そうか?」


どうしてでしょう。

あんなに好きだった高橋ちゃんの事……今となってはどうでも良くなりました。


「ねぇ、高橋君にちょっかいかけるのはやめてもらえるかな?」


「た、高橋さん……!?」


「高橋さんって誰?」


「私は高橋君の”彼氏”だよ」


高橋は悟りました。

彼女”は”と言っていた意味を。


ですが、ここで諦める訳にも行きません。


「高橋君。だったらさぁ……あんな思わせぶりしないでくれる?」


「思わせぶり……?高橋君、どういう意味?」


「いや、高橋が勝手に言ってるだけで……」


ー数時間前ー


私は、高橋ちゃんが男と歩いているのを見てしまいました。


「も~!高橋さん、大好きっ!」


そういう彼女の瞳は、キラキラと輝いていました。

私といる時より楽しそうです。


高橋は証拠を押さえようとしました。

ですが、ショックで体が動きません。


本気で愛していた高橋ちゃんを取られ、怒りが湧いてきます。

スマホを取り出せた時にはもう、二人の姿は見当たりませんでした。


うなだれながら、一緒に行こうと約束していたカフェに入ります。


「あれ……高橋君じゃん……。こんな所で何してんの?」


「お前こそ……そんな顔して、どうしたんだよ?」


「え……?」


近くにあった鏡を見ると、私の目は赤く腫れあがっていました。

気づかない内に泣いていたのです。


「話、聞くよ」


そう言って手招きをする高橋君。


「ありがとう……」


高橋君は優しい人です。

その優しさに、また涙が溢れてきました。


「大丈夫か……!?」


「うん……高橋君には関係ないから大丈夫」


「俺じゃ頼りないか?」


「そ、そういう訳じゃないけど……」


「ならいいだろ?」


私は、先程の出来事を話し始めました。


「なるほど……。まぁ確かに辛いだろうな。二股されんのは」


高橋君に頭を撫でられます。

そんな高橋君に、少しキュンとしてしまいました。


「これからどう接すればいいのか分からない……まだ好きなのかも分からない……」


「それなら別れた方が良いよ。俺は、暗い顔の高橋を見たくない」


「でも、別れても傷つくだけかも……」


「それは違うと思うぞ?もし仮に、二人が付き合ってなかったとしても……浮気された事実がある以上、いつか絶対に同じ事をする。だから、早い内に別れた方が傷つかなくて済むんだ」


高橋君の言っている事は正しいです。

やはり、別れるべきでしょうか?


「……帰ったら、話し合いしてみるよ。高橋君、ありがとう!」


高橋の顔に、笑顔が戻ります。


「ほら、その笑顔だよ。めっちゃ可愛い」


「えっ……///」


高橋君の言葉を聞いて、一気に頬が熱くなります。


その日、その場所で、その時間に、高橋は恋をしました。


ーーー

「弱ってる時にこんな事されたら、好きになっちゃうんだよ……っ!」


「……ごめん。そんなつもりは無くて……」


高橋も、自分自身に驚いていました。

好きになってしまうなんて……と。


「高橋君、それは本当なのかい?」


「……うっす。すみません……」


「はぁ……仕方ない。今回は許してあげるよ」


高橋さんは、高橋君の頭を軽く撫でます。


「一つ、聞きたいことがある」


高橋さんは、高橋に聞きました。


「彼女さんの名前は……?」


「……?高橋ちゃん……ですけど……」


「やっぱり……」


「何か知ってるんですか?」


「それはちょっと……言えないな。関係がもっと悪くなりそうだ」


高橋は、この言葉の意味を理解できませんでした。


「それって……どういう意味っすか?」


高橋君の顔が強張ります。


「いや、何でもないよ。私の知り合いに似ているな~と思って」


「ふぅ~ん……」


重い空気が流れます。


「私も一つ、聞いていいですか?」


「何だい?」


「……二人は、どのようにして付き合ったんですか?」


「私は学校の先生でね。いわゆる禁断の恋って訳だよ」


「俺から告った。大人の余裕というか……まあ、魅力に惹かれた」


「そっか……」


高橋君の照れた表情を見て、高橋は少し寂しくなりました。


「それじゃ、私は用事があるからね。ここでお暇させてもらうよ」


それから高橋さんは、高橋ちゃんへ会いに帰りました。

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