流浪ハスラー 影千代(カゲチヨ) 第1回
影千代という名を聞いて年配の人はこう思うかもしれない。ああ、あのケムマキの飼ってたネコか…、と。しかし最近の若者はちがう。今ビリヤード界の大きなうねりの中にカゲチヨと呼ばれるハスラーがいた!
香港も変換され、もう1世紀たつころの話だ。このころは第3次ビリヤード粛清もそろそろ下火になり、いよいよビリヤードの流れがもり返そうとしていたころだ。香港返還100年紀念ビリヤード大会でその男は表れた。強豪を相手とせずそのカゲチヨと名乗る男は優勝し、勝者へのドラゴンキューを手にするとその男は姿を消した。それから5年間の間、カゲチヨの名は伝説となった……、
物理運動としての球の動きの計測、そして推測を科学するサイエンスビリヤードと、精神修養として古代より伝わるビリヤードが結合ししビリヤー道なる一つの領域が社会的に認められたのが50年ほど前だ。その間3度のビリヤー道粛清、すなわち”暗黒の土曜日””さくらの悲劇””オークランド紛争”があったが、ビリヤー道は民衆にとけこんでいった。そして子供は科学者かハスラーに育てられるのをよしとし、学校の教科にビリヤー道を加えるようになった。もめごとは古来より定められた⑨ボールゲームで決闘された。ビリヤー道の徳をつんだものが人の上に立った。
たしかにビリヤー道はすばらしいものだった。しかし、”さくらの悲劇”よりビリヤー道は教団”キューの一族”の支配下におかれた。この教団の教えは民衆の願うものではなかった。反キューの一族勢力は決集して教団下のビリヤー道を粛清しようとした。これが第3次ビリヤー道粛清”オークランド紛争”である。ビリヤー道の聖地ナゴヤ北に位置するカスガイと呼ばれる地で両軍は激突し、キューの一族の完全勝利に終った。反キューの一族の者たちは次々にその命をうばわれていった。今、世界はキューの一族の支配下にあるといっても過言ではなかった…、
聖地ナゴヤから西へ100キロほどの小都市、ここはキュー豪ムサシが治める土地だった。今日もムサシは行きつけのビリヤー道場へ行くと見知らぬ男が一人いた。するとその男はムサシにグローブを投げつけた。ビリヤー道で相手にグローブを投げつけるのは決闘を申しこむ正式の手続だ。
”おろかな奴め、俺を2刀流のムサシと知ってのことか!”
ムサシはそういうと2本のキューをケースから出した。ムサシは2刀流の開祖である。2本キューを使うのはよほどの力がないと正確に打てない。それぞれの手にキューをもったムサシが相手を見ると、その男のキューには竜がほられていた。
”それはドラゴンキュー、そうかおまえがあのカゲチヨか!”
ムサシの2刀流がうなった。コース上にじゃまな球があってももう1本のキューで確実にどかしていった。しかしやはり、片手でキューを操うには力が必要でムサシははずした。しかしそれでももう1本のキューでセーフティをするところはやはりムサシだ。カゲチヨはチラリとムサシの方をみると微笑してかまえた。カゲチヨのドラゴンキューが火をふいた。熱をおびた白球は的球を灰と化し、⑨へ向かった。⑨にあたるころは熱も失せ⑨がポケットインした。ムサシの魂は1筋の光となって封神台へ向かったとさ。
(つづけ)
※キュー一族の信者は⑨を入れられると魂が封神台に入れられてしまう。
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