夢日記

灰月 薫

 

その海には、額縁のように真っ黒な箇所があった。


白く静かな海の真ん中に、ぽつん、と置き忘れられたかのように真っ黒な四角。


よく見ると、それは標識だった。


___否、大きさ的に1メートル四方はある。

標識というより看板といった方が圧倒的に自然だったろう。


だけど、私は標識だと思った。


ごく自然に、それがあたかも常識のように。


ああ、これは標識なんだなぁ、と。


「お母さん」


私は、横にいる母に話しかけた。


白い海は、波ひとつ立てない。


白い干潟とでも言える場所に、私と母は立っていた。


「ねぇ、あの標識って何?」


母は、少しの間の後、答えた。


だよ」


止まれの標識だよ、とでも言ったかのように、さらりと彼女は言った。


「霊の溜まり場?」


「そう、ああいったね」


彼女はその指で黒い標識を指す。


「ああいった、赤と黒が混じった標識は、“霊の溜まり場”を表してるんだよ」


私はおかしいなぁと思った。


赤くないじゃない。


「真っ黒で、それで、その中で黒いのが動いてるよ」


私は見えたものを母に伝えた。


「……そっか」


母は、それ以上何も言わなかった。


何も言わずに、私の手を引いて海を後にした。

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