第161話 一対一
私は黒針竜に向かって走りながら、背後にいるクウネに叫んだ。
「クウネは皆を呼びに戻って! 黒針竜は私がここで相手をするからっ!」
「わ、分かったー!」
クウネは身を翻して、森の中を駆けて行った。
私が前を見ると、標的を見失った黒針竜が辺りを見回していた。
「あなたの相手はここだよっ!」
私は数枚の三日月を黒針竜に放った!
キィンッ! グサァ!…
何枚かの三日月は鱗に弾かれたが、二枚の三日月が黒針竜の体に深々と突き刺さった。
「グァーッ!」
黒針竜が咆哮を上げ、私の存在に気付いた。
私は走りながら小盾を前に投げ、その上に飛び乗り、速度を上げて黒針竜に斬りかかる。
「やぁーーっ!」
キィンッ!
黒針竜の顔を狙った一撃は、間一髪の所で黒針竜にかわされ、私の剣は奴の頭の鱗をかすめ、甲高い金属音が響いた。
ブゥンッ!
小盾に乗って飛ぶ私の背後から、黒針竜の前肢の一撃が追い掛けてきた。
私は小盾を急旋回させてその一撃をかわし、奴の懐に潜ろうと窺ったが、空振りした黒針竜はすぐに体勢を立て直したので、距離を取るため、私は後ろに下がった。
「グフゥー!」
下がる私に攻撃を繰り出そうと、黒針竜が前肢を振りかぶったので、私は周りに展開している三日月を奴に向かって放った。
ヒュン! ヒュン!…グサァ! グサァ!
再び黒針竜の脇腹の辺りに三日月が突き刺さった。
「ギャーッ!」
黒針竜が声を上げて、その動きが止まった。
脇腹に刺さった三日月を見て、再び黒針竜は周りを見回した。
どうやら私以外の誰かが攻撃してきていると思っているみたいだ。
私は小盾を黒針竜に向けて急加速させて、もう一度斬りかかる。
キィンッ!
私の剣撃は前肢の鉤爪で防がれた…が、返す剣でその前に出した前肢を、小盾に乗ったまま一回転して水平に斬りつける。
ブゥンッ! ブシュッ!
私の剣は黒針竜の前肢の鱗の間を通り、肉を斬った感触が私の両手に伝わってきた。
「グアァー!」
黒針竜の腕から鮮血が吹き出たが、反対の前肢で私を攻撃してきた。
ブゥンッ!
私はその一撃を上にかわし、攻撃を空振りして丸見えになった背中に、剣を突き立てようとした瞬間、視界の端に黒い物が飛び込んできて、危険を感じた私は再び上に急上昇した。
ブゥゥンッ!
黒針竜の尻尾の攻撃だった。
やばっ…そのまま剣を突き立てにいったら、まともに食らう所だった…。
私は高い位置に静止して、黒針竜を見下ろす。
黒針竜も私を見上げ、歯を剥き出して唸り声を上げる。
そうやって上ばっかり見ていると、足元すくわれるよ?
三日月を高速回転させて、地面すれすれに飛ばし黒針竜の後ろ脚に狙った。
さっきの剣の一撃で、奴の鱗はその生えている方向に合わせて攻撃しないと通らないと分かった私は、黒針竜の脚に当たる直前に三日月の角度を変えて攻撃した。
ヒュン! ヒュン!…グサァ! グサァ!…
私の狙い通り、飛ばした三日月は全て黒針竜の脚に突き刺さった。
「グギャァーッ!」
大きな咆哮を上げ、黒針竜が足元を見た。
私は小盾の上で身を屈めて、小盾を急降下させて黒針竜の視界の死角に飛んだ。
「やぁー!」
頭を下げている黒針竜の後ろから首すじを狙って斬りかかった。
ザシュッ!
私の剣は黒い鱗の間をすり抜け、黒針竜の首すじの皮膚を切り裂いた。
「グアァー!」
黒針竜が痛みで頭を上げた。
…ダメだ! 浅すぎる!
私の剣撃では鱗をすり抜けられても、アイツの皮膚も硬くて深く斬り込めない!
私は再び、黒針竜の攻撃が当たらない安全圏まで上がった。
黒針竜が再び私を見つけ、忌々しそうに私を睨んだ。
私も小盾に乗りながら、黒針竜を見下ろす。
どうする?
三日月や私の剣撃では軽くて大きなダメージを与えられない。
三日月で細かく攻撃していけば、いつかは倒れると思うけど、それまでこの小盾を操っている念動の時間は持たない。
私が念動の時間切れで地上に降りれば、黒針竜は私を追い掛けて来るだろう。
安全な距離を保つためには、まだ念動で小盾を動かせる今のうちに離れた方がいい。
だけど今、距離を取ると逃げられてしまう可能性がある。
私は考える。
降りて戦うか? 安全に離れるか?
考えがまとまらないうちに、黒針竜が私から目を離して周りを見回し出した。
マズイッ! 私を諦めて黒針竜が逃げようとしてる?
私は慌てて急降下して、黒針竜の視界に入りに行く。
すると黒針竜が突如、私の方に向き直って跳びかかり、前肢を振ってきた。
しまったっ! 誘い出されたっ!
バギィーン!
私は咄嗟に、乗っている小盾でその一撃を受け止めたが、私の体は小盾ごと吹っ飛び地面に叩きつけられた。
ドサァー!
痛ったー…とか言ってる場合じゃない!
私はすぐに立ち上がると、黒針竜が私に向かって突進してきているのが見えた。
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