第150話 ツイてない初日

 レボネは装填を終えたボウガンを肩に担ぎ、ゆっくりこちらに向かって歩き出した。


 すると、エドセントがレボネの前に出て、手でレボネを制止した。



 レボネは制止するエドセントを睨み付けると、エドセントがレボネに言う。


「お前、安い挑発に乗るんじゃねえよ。別にケンカを買うのは勝手だが、オレはケツ持たねえぞ?」


 エドセントにそう言われ、レボネは不満そうに地面にぺッと唾を吐き捨て踵を返すと、後ろにいる仲間の方へ歩き出した。



 エドセントが私達の方に向き直り、ニヤッと不気味に笑いながら話し掛けてくる。


「悪りぃな。今テメエらと遊んでやれなくてよ。まあ、狙ってる獲物は同じみたいだからよ。また次の機会に相手してやるかもよ?」



 アイシャがそれに応える。


「私の方は今でも構いませんよ? こちらも忙しいので」



 バスクさんがアイシャの肩に手を置いて話し掛ける。


「おい。アイシャちゃん。止めておけ。ここでアイツとやり合ってもしょうがない」



 私もアイシャに話し掛ける。


「そうだよ。アイシャ」



 そう言われたアイシャが渋々返事をする。


「分かりました。…すいません」



 その様子を見ていたエドセントが声を出す。


「へー? 物分かりいいねぇ? それじゃ、オレらは退散させてもらうわ」



 エドセントはそう言いながら、足元に落ちているジャイアントマンティスの腕を拾い上げ、私達の頭上に放り投げた。


 その腕は私達の頭上を越え、ガサッと音を立てて後ろの方に落ちた。



 エドセントは仲間の方に振り返り、顔だけ私達の方に向けて、口を開く。


「じゃあ、またな。ヒヨッコども」



 エドセントは仲間の三人の所に行くと、仲間と共に私達の視界から消えていった。



 エドセント達が完全に私達の視界から消えると、バスクさんが大きなタメ息をついて話し出す。


「はぁー。アイシャちゃんは負けず嫌いを通り越して、喧嘩っ早いな?」


「すいません。つい…」



 バスクさんが私にも話し掛ける。


「ラフィーネも乗っかるんじゃないかと、ヒヤヒヤしたぜ」


「まあ、別に乗っかっても良かったけど…」


「止めとけ。こっちから手を出したら、下手したら犯罪者にされるぞ」


「でも、攻撃したきたのはアイツらが先じゃないの?」


「あれがアイツらの手なんだよ。あくまでレボネの矢はジャイアントマンティスを狙ったもので、俺達を狙ったものじゃない。たまたまその射線上に俺達がいたって言い逃れるために、ああいう狙い方をしてきたんだよ」



 アイシャがタメ息をつきながら、バスクさんに尋ねる。


「そうやって自分達の攻撃を正当化するために、矢が貫通しやすい腕を狙ったんですね?」


「そういう事だ。直接攻撃は狩猟者だろうが、冒険者だろうが罪に問われる。アイツらはそれを分かっているから、わざわざそうやってきたんだ。アイツらは平気でそんな事をしてくる連中だからな」



 モンスターを攻撃しているように見せかけて、それを狙っている人間を攻撃してくる…。



 もし黒針竜を見つけても、アイツらが側に居ないか、警戒して気を付けろとバスクさんは皆に伝えた。



 そしてバスクさんは私とアイシャにだけ一つ付け加える。


「こんなに早くアイツらと遭遇するとは思ってなかったが、またアイツらとは遭遇する可能性が高い。そん時は二人とも冷静に頼むぜ」



 アイシャがシュンとして返事をする。


「すいません。気をつけます」



 その後も数時間ほど森の中を回ったが、結局この日は黒針竜とは遭遇しなかった。


 他のモンスターには何度か遭遇したが、その戦闘中でも周りに気を付けながら、倒していった。



 私とイスネリの射撃攻撃も無難にモンスターに対処する事ができた。


 取りあえず、この日の探索は終えて、私達はゴード村に帰る事にした。



 森の中での夜営はあまり危険が多いので、今回のクエストでは夜には必ず拠点のゴード村に戻る事にしている。



 その帰りの道中にバスクさんが私に話し掛けてくる。


「ラフィーネとイスネリちゃんの射撃も上手くいったし、まあ初日の成果にしてはまずまずってトコだな」


「私は今日、黒針竜を倒す気満々だったんだけどね」


「そう簡単にはいかねえよ」



 エドセント達に遭遇するというアクシデントがあったけど、私達はひとまず無事にゴード村に帰ってきた。



 宿屋に着いて、皆で食事を終えると、少し早いが明日からの探索に備えて、私達はそれぞれの部屋で休むことにした。



 私は部屋でベッドに入って、初日からアイツらに遭遇するなんてツイてないなと思いながら、私は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る