第148話 ゴードルネ森林地帯

 バスクさんの作戦では、黒針竜を見つけたら、まずバスクさんが先頭に立ち、取り巻きのドラドーグルの的になる。


 的になったら、私とイスネリがバスクさんの後方からそのドラドーグル達を三日月と矢で射撃攻撃をする。



 私とイスネリの側にアイシャを置いて、側面からの攻撃に警戒しつつ、私達が打ちもらしたドラドーグルを攻撃してもらう。



 クウネ、ナヴィ、ミレニアさん、ザージンさんは動き回って黒針竜の注意を引いて、出来るだけドラドーグルと交戦中の私達から引き離すように立ち回る。



 私達がドラドーグルをすべて撃ち取ったら、全員で黒針竜を攻撃するという流れだった。



 そこまでの説明を終えると、改めてバスクさんが話し出す。


「この作戦のポイントは俺が上手く奴らの的になること、そして的になったら素早くドラドーグルの方を撃ち取る事だな。ここで手こずると俺以外の奴に標的を変える可能性があるからな」


「なるほど…。じゃあ、私とイスネリの射撃が重要って事だね」


「そうだな。素早く倒してもらわないと面倒になってくるからな」



 そしてアイシャがバスクさんに尋ねる。


「黒針竜については何か情報はありますか?」


「ああ。ヤツは獣竜だが、飛ぶことは出来ない。だから上から攻撃される事はない。主な攻撃手段は前足による攻撃と…、尻尾と鱗だ」



 うろこ?



 私がバスクさんに聞く。


「鱗でどうやって攻撃してくるの?」


「黒針竜はその名の通り、黒い針のような鱗を持っている。その鱗を飛ばしてくる。鱗一枚の大きさはだいたいこれぐらいだ」


 そう言って、バスクさんは片手の手の平を目一杯広げた。


「この鱗が一枚、二枚体に刺さるぶんには大したことないが、バカみてえな数を飛ばしてくる。もし目に刺さると多分失明するだろうな」


 クウネが思わず目を押さえて痛そうな顔をする。



 アイシャが声を出す。


「それは厄介ですね。ブレスなどの攻撃はないんですね?」


「ああ。ヤツにブレス攻撃はない。俺が知る限りブレスを吹くのを見た奴はいないな」


「それならば、黒針竜は少し距離を取りながら戦えば大丈夫そうですね」


「そうだな。だが、黒針竜の移動速度はかなり早いからな。気を抜くと、あっという間に距離を詰められるから気をつけろよ」


 全員が頷いた。



 こうして私達の作戦も決まり、バスクさんが皆に話す。


「よし、じゃあ明日は朝一でゴードルネ森林に入るから、今日はそろそろ休んで明日に備えるか」


「うん、分かったよ。バスクさんもこの後あんまりお酒飲んじゃダメだよ?」


「おう。ほどほどにしとくから安心しな」


「やっぱり飲むんだね…」



 この後少し飲んでから休むと言うバスクさんとザージンさんを置いて、私達はそれぞれの部屋に帰って行った。


ー◇◇ー


 翌朝、宿屋の前に集合した私達は森に入る準備を整えていた。



 バスクさんが大きな盾を背負って、私に話し掛ける。


「調子はどうだ? ラフィーネ」


「うん。バッチリだよ。それにしても大きな盾だね、バスクさん」


 私がバスクさんが背負っている盾を触りながら話す。


 バスクさんの体でも少し屈めば、すっぽり隠れてしまうぐらい大きく、厚みのある盾だった。



 更に私がバスクさんに尋ねる。


「すごく重そうだけど、大丈夫なの?」


「まあ、見た目ほど重くはないんだがな。でももし出来るんなら、ラフィーネのスキルで少し軽くできねえか?」


「え? ああ、やってみようか?」


 私は念動でその盾を浮かせようとする。

 あんまり手応えがない。


「どう? バスクさん? 軽くなった?」


「んー、ほんの少し軽くなった気がするって程度だな」


「うーん、やっぱり私のスキルにはちょっと重すぎるみたい」


「そうか。じゃあ諦めて、一人で運ぶわ」



 そう言ってバスクさんは盾を背負い直すと、全員に声を掛ける。


「そろそろ行くか。村を出たらすぐに森に入るから、はぐれないようについて来いよ」


 そう言って歩き出したバスクさんに続いて私達も歩き出した。



 ゴードルネ森林は巨大な森林地帯だ。

 その一帯は道らしい道もなく、私達は歩きやすい場所を踏みしめて進んで行った。



 私達の列の先頭はバスクさんから、ザージンさんとイスネリに代わり、二人が周りを警戒しながら進んでいく。


 ザージンさんが主に音を拾って、イスネリがその視力とモンスターの気配を探りながら、進んで行った。


 殿のアイシャとクウネが、帰りに村への方向を見失わないように、時々森の木に目印をつけていった。



 モンスターや獣などに遭遇する事なく、一時間ほど過ぎた頃、先頭で警戒をしていた二人が同時に反応した。



 バスクさんが二人に尋ねる。


「モンスターか?」



 ザージンさんが応える。


「そうっすね。たぶん大きい昆虫系のヤツっす」


「ええ、気配が少しずつ私達の方に近づいて来ますの」



 ザージンさんが斜め前の方を指差して声を出した。


「あっちの方っすね」



 私達は足を止めて、全員がそちらの方を向いて身構えた。



 バスクさんが聞く。


「数は? 分かるか?」


「一体っすね。ゆっくり近づいて来ます」



 ザージンさんがそう言った直後、私の耳にも木をなぎ倒すような音が聞こえ、ガサガサという足音が近づいてくるのが分かった。



 そして音の主がこちらの様子を伺うように、木々の間から覗き込んでいるのが見えた。


 それは人間の大人よりも優に大きな、巨大カマキリだった。



 バスクさんが静かに声を出した。


「ジャイアントマンティスか…」

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