喜びの味には隠しごとを

ねこは眠りについたらしい。びくともしない。癒される。

「さ、次を話すね。

 みんな、日が経つにつれて仲良くなっていった。

私以外はね。

みんな私と違って、ガンガン話すタイプだったから、私には無理だったの。

でも、みんなたまに話しかけてくれたりしたし、自分でなんとかしないといけないこと、だったと思うから1人を独りなりに楽しんでみたのよ。

1年生から3年生の終わり、くらいにかけてだったかな、、、長いな。

例えば毎日朝1番に登校して教室の掃除をしてみたり、本をたくさん読んでみたり、お話を作ってみたり、先生のお手伝いをしてみたり。あとは、、」

私はハナズオウの木を見上げた。

「ハナズオウさんに登ってみたり?」

ふふっと笑ってみる。 

考えてみると結構ハナズオウの木の下で、過ごしていたかも。

「そんなに辛かったとは思ってなかったよ。途中までは。

  ある日ね、先生がみんなの前でこんなこと言ってさ、道徳の授業だったかな、

『いいですかみなさん。これからの年は、このクラスの誰かの誕生日には、お祝いのお届けものをしましょう。お花とかでもいいし、お手紙とかでもいいし、何か、そのこに気持ちを伝えましょう。』

ってね。みんな自分の誕生日伝えあって、

みんな、その誕生日が来るとお届け物という名のプレゼントを送ったんだ。

私も送ったよ。

私は誕生日が少し遅くって3月の16日で、一番最後だったんだ。

誰かくれるかな、って思った。でも実際はそんなことなかった。

みんな普通に過ごすし、何気ない日常。

給食には味なんてなかった。

ただの淡い期待だったんだ。

涙が流れるのを堪えて帰ろうとした時ね、先生に呼ばれたの。

『ゆだねちゃん、ちょっとこっちおいで。』

私は先生に手を引っ張られて、職員室まで行ったの。

『ゆだねちゃん。お誕生日おめでとう。これ、みんなで前々から用意したんだよ。』

大きいホールのショートケーキだった。嬉しくて、嬉しくて。みんなほとんど話さないのに、ちゃんと覚えててくれて今日のはドッキリだったんだなって安心したの。

『ありがとう!』

って先生に言って走って帰ったよ。

食べたケーキの味は喜びと感謝の味がした。

みんなが私のことちゃんと考えてくれていたこと、わかって安心した。」

ハナズオウの木が揺れた。

「よかったね。って思うじゃん。

 次の日、私早速他の子にもお礼を言ったの。

朝、お姉ちゃんの舞夜子よりも早く学校へ来るはねよに

『あ、あの、昨日の誕生日ケーキ、ありがとう。』

って言ってみたの。そしたら不思議そうな顔をされてさ。なんて返ってきたと思う?

『ケーキ?なんのこと?』

絶望だよ。あの一言でどれだけ傷ついたか。

まいとちゃんにも、矢子にも聞いた。

返ってくる言葉はいっしょだった。

涙も出ない。ほんとに裏切られた気分だった。

『ゆだねちゃん、誕生日だったの?』

『ケーキとか、私たちに用意できないのにね、』

『夢でもみたんじゃない?ゆだねちゃーん?ちょっと大丈夫?』

嘘だ、先生はみんなで用意したって言ったのに、

—みんなで前々から用意してたんだよ—

もしかして、、、

『っ!!』 

ガタン!と近くの椅子が倒れた。

『ちょっ、ゆだね!しっかりして!』

『あいつどうしたんだよ急に。』

みんなの声がどんどん重なっていく。

私は怒りに震えた。はねよちゃん達でない。先生に。もうその場にはいたくなくて、心配されるのも申し訳なくて、考えた末にね、

『ごめんっ』 

『え、ちょゆだねちゃんー!』

私は学校から飛び出したの。

って言ってもそんな逃げるところがないからね。

あなたの後ろに隠れてたの。」

 ハナズオウを見上げて問いかける。

ふふっと笑ってみる。

 「私はね、あなたの後ろで、激怒したの。

出なかったはずの涙がボロボロ流れて、でも声は抑えて泣いた。

 、、、ああ、なんで怒ったかって?言ってなかったね。でもわかったんじゃない?

先生は、『みんなで前々から準備していた』と言ったでしょ。でも実際は違った。先生はあのケーキをみんなで用意したように装って、私をお祝いした。

プレゼントのもらえない私へのお情け?そんなんじゃない。

きっとね、

プレゼントをもらえなかった私に恥をかかせたかっただけなんだ。

しかもプレゼントがもらえないであろうことを、先生は初めから予想していた。だから、みんなで用意したことにして、次の日みんなにお礼を言った時、恥をかかせるつもりだったんだ。

なんだ。先生裏切るんだ。って思った。

許さない。

泣すぎると子供って眠くなるよね、、私もあと少しで眠りに落ちてしまいそうになっちゃたんだけど、、、

そうはいかなかったみたい。

 『ゆーだーねちゃんっ』

『!?なにっ』

でも後ろを振り返っても、誰もいなくって、声だけ。

でも知ってる声。

『あ、はねよちゃん。』

『うん、そうだよ。あのね、少しだけ話がしたくって。」

『、、、なに、、』

『まずね、一日遅いけどお誕生日おめでとう。そしてごめんね。』

『いいよ、別に』

かなり不貞腐れてるね、、まあなに言われるか怖かったし。

『私、あのあとね、用意したの。プレゼント。

急いで作ったから嫌かもしれない。左から回すね、』

ハナズオウさん?あなたを挟んで、背中合わせにはねよちゃんと話ししたんだよ覚えてる?

きっと覚えてないよね。

はねよちゃんの左からまわされ、私の右手に辿り着いたのは、お花の描かれたカード。黄色のお花と、ハナズオウが描かれていたな。

黄色のお花は私が黄色が好きだと言ったからだろう。

『ゲッケイジュ』

『えっ?』

『ゲッケイジュ。そのお花。可愛いかな、って思って。』

頑張って何回も描き直した跡が残っている。なんだか、とっても嬉しくて、

『うん、可愛い。』

って反応しちゃった。

『よかったー!あと、もうひとつのお花、それ、』

『ゲッケイジュでしょ?これも綺麗。』

『そうそう!ゆだねちゃん、この木とお友達なんでしょ?』

『え?』

『だって、いつもそこにいる。』

知ってたんだ、、、結構みてるんだね。

『私もお友達になれないかなあ、』

『お友達になりたいと思ったらその時になれるよ。』

『ゆだねちゃんほんと!?』

『うん。いや、、やっぱうん。』

自信を持って言えなかったのはなんでだろう。

私も、はねよちゃんと おともだち になりたいなあ、、、

『じゃあ、私たち、お友達だね!』

『、、、えっ?』

『だって、なりたいと思えば、なれるんでしょ?』

『うん。』

『私、ゆだねちゃんとおともだち、なる!ゆだねちゃんは?』

お友達、おともだち、オトモダチ、、、脳内で何回も再生される。

夢みたい。こんなことあるんだ。なら、私も、!!

『私もお友達だよ』

『やったあ!』

『っははははははは!』

「え!?ゆだねちゃんなんで笑ってるの?』

『いや、別に、、、ふふっなんでもないよ。』

『えー?ほんと?』

『うん、、ふっ』

さいっこうの気分!

笑いすぎて涙出てきた。

 『ねね、ゆだねちゃんもう戻らない?』

『えっ?』

『ほら、みんな待ってるよ。先生も。もう授業始まって30分くらい経ってるし』

待ってる、、、でも、

『先行ってていいか」

『ゆだねちゃん!』

『うわああ!』

私の話を遮ったはねよちゃんは、気がついたらハナズオウさん越しからこっちにいた。

『私がいるよ!だから大丈夫。』

戻ろう?って差し伸べられた手は私の手より小さかったけど、とっても強そうに見えて、思わずぎゅっと握ったんだ。

そして引っ張られながら走って戻った。

大丈夫、お友達、いるでしょ?

 先生になんて言われるかな、そもそも先生は、、

ガラガラと教室の扉が開いてはねよちゃんが大きい声で

『はねよー!帰りましたあ!』

って言った時、ハッと戻った。

え!もうドアの前!?なんて考えている余裕もなかった。

みんなの視線が一気に集まる。

そりゃ、授業中に入ってきたからそうだよね、、

『こら、2人とも勝手にいなくならないで、早く席に着いて。お勉強しよ?』

先生は私たちを見るなり笑いながらそう言った。

でもその笑顔ですら、私には悪魔に見えた。

舞夜子が急に立ち上がる。

『あ、はねよ!どこ行ってたのよ。ダメじゃないの!』 

『姉ちゃんごめんって〜』

『それより、ゆだねちゃんは大丈夫なの?』

急に話を振られて焦る。結構焦る。

『そうそう、急になにがあったん?』

矢子ちゃんまで入ってきた。

『あ、別になにも無いよ。さっきはごめん』

『大丈夫だよ。ささ、授業に戻ろ。この矢子と舞夜子がいなかった分教えるから!』

『でも、2人とも頭悪い。』

『なんだとはねよ!姉に向かってえええ!』

『ちょっと私も混ぜて!』

『混ざるってなんだよ矢子!』

『ちょっと!授業中ですよ!』

授業中、、?ポカーンとしていると後ろからトントン、と肩を叩かれた。

『ゆだねちゃん、ああなると、もうどうしようもないから、私が教えるね。』

『あ、舞斗ちゃんありがとう』

おともだち は案外すぐにできてしまうものかもしれない。

 そんなむっちゃくちゃな1日の給食はチキンライス。

みんながお誕生日のお祝いとして超大盛りに乗せてくれた。うん。多い。

こんなことしかできなくてごめんね、と言いながらライスを出してきたけど、もういい。

だって、最高のプレゼントもういっぱい貰っちゃったから。

給食の味は、隠しごとのない喜びの味がした。」

 あの後のケーキはそこら辺の野良猫にあげて、全て無かったことにした。

膝の上で寝てる猫に聞いてみる。

『もしかして、お前かい?』

『にゃあ』

あ、起きた。



 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の給食は裏切りの味 @chisachisa0906

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ