“variant”

 そこまで話してみて、急に別の考えが浮かんだ。というか、結局引き受けることになってしまった仮想小説のアイデアで、擬似科学的にそれが説明できるかもしれないということに思い当たったのだ!

「ええと、時空の次元の問題ってあるじゃないですか?」

 唐突だなぁ…….


「量子力学と相対性理論を融合しようとして、現在まで何十年も上手くいっていませんが、最近、その解決案が出されてますよね?」

 それが達成できなかった大きな困難は、量子力学では粒子が点で――すなわち大きさがないという形で――表現されていて、けれどもそれをそのまま代入すると、幾何学的に構成された重力理論が数学的に成り立たなくなってしまうという点だ。簡単にいえば、ある値をゼロで割ると、その値がどんな数値であっても無限大になってしまう、となるだろうか? それに対する最初の解決策は粒子を「弦(げん)または紐(ひも)」として扱うというもので、これならば確かに太さはないが一次元には広がりを持つので割った値はゼロにはならない。けれどもその粒子を紐として表現する理論の場合には別の困難が生じてしまう。次元、というか、時空の数が、現在観測されている空間三、時間一の四次元では足りなくなってしまったのだ。

「いわゆる「超ひも理論」というヤツですね」とMさん。

 そんな答が返ってくるとは……。うーむ!

「ええ、最初の頃に破綻のないモデルと言われていたのが二十六次元で、それから一〇次元、最近では十一次元とか言われていますよね。もっとも最近とはいっても、もうずいぶん前に論文発表されていますが……。空間一〇に時間一の十一次元。あとはM理論とか? そして観測されない次元は観測されている次元に引っ付いている――コンパクト化されている――というふうに表現されます。どんなふうにしてそうなったのかとか、実際にどういった形で引っ付いているのかとかは――現在のところ――不明ですが、観測される次元に対してそれら次元が極端に小さければ、まあ見えないと主張することは可能かもしれません」

 さて……。

「で、それらがときどき大きくなる、あるいはいくつかが絡まって『開く』としたらどうでしょう? これだって、その宇宙が安定に存在している限り、確率的には起こり得ない現象ですから、定義に従って『奇跡』ですが、その通路を通るのがこの現象だ、というふうに考えてみることができるかもしれません」

 考えるだけだったら何でも可能だ!

 実際に練った話の筋は、その抜け道を利用した不可能犯罪が発端となる。そして確率的に掻きまわされた時空がある時点ある位置で安定性の臨海を超え、ドカン!

 もっとも、その爆発の規模をどこまで大きくするかは、まだ考えていない。


in Fragments(Incomplete Complex Number)より 

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