第52話 アースドラゴン討伐

「はっ!」


 とにかくアンの馬車の方に行かせないようにと、剣で攻撃して俺に注意を惹きつける。すると案の定、アースドラゴンはジロリと鋭い視線を向けてきた。


「グォォォォォォォォォォ!」


 近距離で聞く叫び声は、鼓膜が破れそうなほどに大きい。衝撃で体が固まってしまうほどだ。

 俺は竦んだ体をすぐに動かすため、唇を噛んで痛みによって軽い麻痺から回復した。


 アースドラゴンが巨大な尻尾を振り回すと、地面が抉れて土や石が四方に飛び散る。


「ウォーターウォール!」


 破片を魔法で防ぎながら、アースドラゴンに向かって飛び込んだ。アースドラゴンは四つ足で動くので首が低い位置にあり、狙いはもちろん急所である首だ。


 すれ違いざまの一閃。決まったと内心でガッツポーズをするほどの一撃は、アースドラゴンが作り出した土壁に阻まれた。


 剣が土壁に思いっきりぶつかった思わぬ衝撃に少しの間だけ体が固まり、その間にアースドラゴンが進行方向を変えて俺を前足で踏み潰そうとしてくる。


 俺はそれから逃れるために何とか体を回転させて、地面を転がるように避けた。しかし真横に振り下ろされた足の衝撃波で、後ろに待機する騎士たちのところにまで飛ばされる。


「リュカさん! 大丈夫ですか!?」

「はっ……はい。問題ありません」


 ランシアン様の心配の声に答えて、すぐに立ち上がった。

 アースドラゴンはドラゴン種の中では最弱だって聞いたことがあるけど、やっぱり強いな。腐ってもドラゴンだ。


「あれってアースドラゴンですよね。小さな国は滅びてしまうほどに強大な魔物です。近隣の街に援助を頼みますか?」

「いえ、倒せるので大丈夫です。動きの感じが分かってきました。皆さんは続けて急所を狙った援護をお願いします」


 俺は騎士たちのところから前衛に駆け戻り、また剣を構えた。


「リュカ、大丈夫?」

「うん。ここまで強い魔物と戦える機会ってあんまりないし、ちょっと楽しくなってきたかも」


 本心から思わずそう溢すと、レベッカは苦笑を浮かべつつ頼もしく頷いてくれた。


「それなら良かった。後衛は任せて」

「よろしく」


 俺はセレミース様の眷属となったことで基礎力は誰よりも高くなったし、鍛錬だって普通の人には負けないほどの量をこなしている。

 あと足りないとすれば経験なのだ。この戦いでまた強くなれるだろうな……そんな予感がして、俺は無意識のうちに笑っていた。


「アイススピア!」


 空中に数十ものアイススピアを出現させ、一斉にアースドラゴンに向けて放った。そしてアイススピアが着弾するより早く、俺もアースドラゴンに向かって駆ける。


 アイススピアはアースドラゴンの土壁に阻まれるけど、それは予想通りだ。俺はアイススピアと土壁で悪くなった視界を利用してアースドラゴンの後ろに回り、尻尾の付け根に向けて思いっきり剣を振り下ろした。


「おりゃあぁ!!」


 するとさすがの切れ味な剣と俺の腕力で、尻尾が中程まで切断された。これで尻尾を振り回す攻撃はできなくなるはずだ。


「ギュュオォォォォォ」


 アースドラゴンはさっきまでとは違う、悲痛な叫び声をあげてその場で暴れる。俺はそんなアースドラゴンに巻き込まれないように少し下がり……するとその瞬間、アースドラゴンに向かって一本の矢が飛んでいくのが見えた。

 ほぼ目視できない速度のその矢は、暴れ回るアースドラゴンの瞳に命中する。


「レベッカ、マジで凄いな」


 思わずそう呟いてしまうほどの腕前だ。


「な、何で当たるんですか!?」


 弓を持つ騎士たちが、思わずと言った様子で声を上げたのが聞こえた。

 

「攻撃を受けて痛みで暴れてる時って、意外と規則的な動きをするんです。それから一通り暴れて怒りと痛みから一度動きを止める時、そこも狙い目です」


 レベッカはそんな説明をしながら、二本目の矢も左耳に命中させた。その様子を見て、騎士たちは絶対に真似できないと首を横に振っている。


「レベッカ、ナイス!」


 俺はレベッカの援護を無駄にしないようにと、片目と片耳を失って平衡感覚が狂っているアースドラゴンに向かって、一直線に飛び込んだ。

 

 走りながら首元に向かって剣を振り上げ、そのまますれ違う。


 後ろを振り返ると、アースドラゴンはすでに地に伏していた。大量の血を流して事切れているようだ。


「ふぅ、終わったな」


 剣と魔法だけでアースドラゴンを倒せたことがかなり嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。俺って本当に強くなったよな……それに今も現在進行形で強くなっている。


 もっと強くなりたいな。素直にそう思った。


「リュカさん、レベッカさん。本当にありがとうございます……!」


 レベッカとハイタッチをしてから騎士たちの方に視線を向けると、ランシアン様を筆頭に大多数の騎士が俺たちに尊敬の眼差しを向けていた。


「一級冒険者って、こんなに強いんだな……」

「俺、マジで感動してる」

「なんか、鍛錬がやりたい気分にならないか?」


 そんな声が耳に届き、俺とレベッカは顔を見合わせて笑い合った。素直に褒められるとくすぐったいな。

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