第2章 帝国編

第49話 出発日

 アンが逃げ出す計画を立ててから数週間が経ち、ついに輿入れの出発日前日となった。俺とレベッカは前日に王宮入りする約束だったので、昼食を食べてから王宮に向かっている。


「ついに明日から始まるね」

「緊張するな……」

「うん。でも今から緊張してたらもたないよね。本番は一週間後なんだから」


 確かにそうだよな。帝国に入ってからが勝負だ。帝国の騎士たちってどんな感じなんだろうか……聞いている帝国のイメージ通りだったら、嫌な騎士しか想像できない。


「王国内ではアンとの関係性を悟られないように、とにかくただの冒険者に徹しよう」

「うん。できる限りアンには近づかないようにしようね」


 俺とレベッカは顔を見合わせて頷き合い、二人で王宮に向けて足を進めた。


 手続きを済ませて王宮内に入ると、ランシアン様が待つ会議室に案内された。前回よりも広い会議室で、他の騎士たちも集まっているみたいだ。


「ランシアン様、皆様、お待たせいたしました」


 騎士は大部分が貴族なので謙って挨拶をすると、ランシアン様は優しい笑顔で俺たちに席を勧めてくれた。


「リュカさんは特に一級冒険者なのですから、我々に謙る必要はありませんよ。一級冒険者は世界中でリュカさんを含め六人しかいません。伯爵相当の立場と言われておりますから、我々の方が頭を下げるべきなのです」


 ――そういえば、一級冒険者ってそんな立場だったな。


 まだ実感が湧かなくて、伯爵相当とか言われてもピンとこない。俺が一級なんだよな。


「その立場って、他の国に行っても通用するのでしょうか?」

「はい。冒険者ギルドがある国ならばどの国でも共通です。しかし……帝国は例外かもしれません。リュカさんとレベッカさんもご存知の通り、ここ最近の帝国は少し穏やかではない方向に向かっております。冒険者ギルドは存在しているのですが、運営本部である世界会議から派遣されていた人材は皆出国したらしく、ギルドが機能しているかどうか……」


 マジか……運営本部からの人材が誰もいなくなったってことは、冒険者ギルドが機能してないのと同義だよな。一級冒険者という肩書きで騒がれずに潜入がしやすいって面はありがたいけど、治安が心配すぎる。

 いや、冒険者ギルドの職員が出国するぐらいだ。治安は最悪だと考えるべきだな。


 ――ただよく考えると、メリットもあるかもしれない。


 今回の作戦の一番のデメリットは、俺たちの指名依頼が失敗になるって部分なんだ。依頼は騎士との合同という特殊な形だから俺たちの過失割合はかなり低くなるだろうと思ってたし、アンのためなら依頼失敗のデメリットぐらい享受するって思ってたけど……そのデメリットを減らせるならそれに越したことはない。


 冒険者ギルドが機能していないような無法地帯への依頼だったってことで、俺たちの依頼失敗は責任を問われないことになったらいいな。


「帝国で身分は全く当てにならないと覚えておきます」

「はい。お二人の実力ならば心配はいらないと思いますが、お気をつけください。ではさっそく、明日からの流れについての話に移ります」


 それからは護衛の隊列や馬車の数、アンが乗る馬車の位置についてや俺たちが護衛をする場所など、いろんなことの最終確認をして、最後に他の騎士たちの紹介をしてもらって打ち合わせは終了となった。


「明日は宿泊場所の関係で早朝の出発になるので、本日は早めに休まれてください。お部屋は前回と同じ場所をご用意してあります」

「ありがとうございます。明日から一週間、よろしくお願いいたします」


 俺とレベッカは騎士たちと別れ、この前と同じ従者とメイドに案内されて客室に向かった。



 そして一晩休んで次の日の朝。俺たちは王宮の正門近くにいた。輿入れの隊列はここから出発して王都の大通りを通り、街を出て帝国に向かう。

 アンの輿入れについては、ほとんど国民に知らされていないのが現状だ。事前に知らせると襲撃される危険性が増すからというのが主な理由らしいけど……そんな心配をしないといけない理由は、輿入れ先が帝国だからだよな。


 帝国と繋がりができるってことに関して、強固に反対する人たちもいるのだそうだ。

 そんなところへの輿入れを、目先の利益に釣られて独断で決めた国王って……うん、控えめに言って隠居するべきなんじゃないだろうか。


 振り回されてるアンが本当に不憫だよな……帝国を倒して、アルバネル王国の国王も尊敬できる人に代わって、アンがこの国にも普通に帰ってこられるようになったらいいんだけど。

 

「リュカさん、レベッカさん、そろそろ出発です」

「分かりました」


 ランシアン様に声をかけられて、俺とレベッカは持ち場に向かった。俺たちの立ち位置は隊列の一番後ろだ。食料品などが詰め込まれた馬車に乗り、背後からの魔物襲撃に対処をする。


「レベッカは右側を見てて欲しい。俺は左側を見るから」

「了解。基本的には馬車の上から魔物を遠距離攻撃で倒すんだよね」

「うん。どうしてもそれだと追い払えなかった場合は、騎士に伝えてから馬車を降りて魔物討伐だな」


 そんな打ち合わせをしていると、ギィィィと金属が擦れるような音が聞こえ、大きな門がゆっくりと開いた。ついに出発だ。





〜あとがき〜

本日から第2章帝国編の投稿を開始します。週に3回ほどの頻度で投稿していく予定ですので、楽しんでいただけたら嬉しいです。


そしてもう一つ、とっても嬉しいお知らせがあります!!

こちらの小説「最弱冒険者は神の眷属となり無双する〜女神様の頼みで世界の危機を救っていたら、いつの間にか世界中で崇拝されています〜」ですが、


書籍化が決定いたしました✨


やったー! 凄く嬉しいです!!

詳細についてはまた後でお知らせさせていただきますので、楽しみにしていただけたらと思います!


いつも私の小説を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。


蒼井美紗

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