第38話 ギルドへ

 ぐっすりと眠って目が覚めると、すでにお昼少し前の時間だった。レベッカはすでに起きていて、セレミース様と東屋のソファーで談笑しているようだ。

 レベッカも最初よりはセレミース様に慣れたみたいで良かったな。


「リュカ、起きたのね」

「おはようございます。レベッカもおはよう」

「おはよう。昨日の事件は犯人不明のまま終わったってよ」

「そっか、それなら良かった。もう下界に戻れるでしょうか」


 俺の言葉を受けてセレミース様が水鏡を杖で軽く叩くと、水面には昨晩の俺たちが神域に飛び込んだ場所が映し出された。


「誰もいないみたいよ。教会の方も……いつも通りね」

「ありがとうございます。じゃあレベッカ、早めに戻ろうか。ギルドにも行かないといけないし」

「そうだね。戻ってギルドの食堂でお昼ご飯を食べる?」

「それいいな」


 今後の予定を決めた俺たちは神域干渉で下界に戻り、何食わぬ顔で路地から大通りに出た。そして冒険者ギルドに入ると、食堂に向かう前に受付に呼び止められる。


「リュカさんとレベッカさん。お二人がいらしたら、すぐにギルドマスターの執務室までお通しするようにと言われております」

「そうなんですね……俺たちお昼ご飯がまだなんですけど、食べてからでもいいでしょうか?」

「……かしこまりました。では食堂にお二人の分を優先して作るようにと伝言いたしますので、お早めにお願いいたします」


 それから俺たちは注文から数分で出て来た料理を急いで食べ、食後の休みを取る時間もなく執務室に案内された。こんなに急がせるってことは、この後に何か予定があるんだろうか。


「リュカさんとレベッカさんをお連れしました」


 受付の女性に促されて部屋の中に入ると、スタンピードが起きていることを知らせた時と同じ場所にエドモンさんは座っていた。

 しかしあの時とは違って、俺たちが部屋の中に入ると立ち上がって出迎えてくれて、顔には満面の笑みが浮かんでいる。


「やっと来たな! 待っていたぞ」

「ちょっとした用事をこなしていまして、遅くなってすみません」


 俺たちがソファーに腰掛けると、エドモンさんも向かいのソファーに再度腰掛けて身を乗り出した。


「さっそく本題に入ってもいいか?」

「はい。俺たちもあの後どうなったのか気になっているので。報告してくださったんですよね」

「もちろんだ。それでな……二人には国を救ってくれたことへの礼を、国王様が伝えてくださるとのことだ。さらに国から褒美も貰えるらしいぞ。それから俺としてはこれが一番嬉しいんだが、国が一級冒険者としてリュカを認定するそうだ!」


 一級冒険者……マジか。一気に五級から一級はさすがに予想外だ。でも嬉しい、凄く嬉しい。一級冒険者なんて全冒険者の憧れだ。俺がそんな存在になれるなんて、少し前までは考えたこともなかった。

 一級冒険者だけはギルドだけじゃなくて国からの承認が必要だから、よほどの大活躍をしない限りはなれないんだ。


 一級冒険者なら異次元の強さを持っていても全く不思議じゃないし、これからの動きやすさという点でも良かったな。


 でも一つだけ引っかかるのは……レベッカについてだ。なんで俺だけ一級なんだろう。その疑問をぶつけてみると、エドモンさんはレベッカに視線を向けて口を開いた。


「レベッカが自分は補助ができたぐらいで、奥まで辿り着けたのはリュカの実力だと言っていただろう? だからそれをそのまま報告させてもらった。実力に合わない等級を得ると、危ないのはレベッカ本人だからな」


 エドモンさんのその言葉を聞いて、レベッカは納得を示すように大きく頷く。


「私に一級の実力はありませんので、とても助かります。認定していただいても辞退するところでした」

「そうか、自分の実力を理解するのは大切だ。ただスタンピード中のダンジョン内に、リュカがいたとは言っても付いて行き補助ができたというのは事実だ。そこでギルドとしてはレベッカを三級へ昇級させることを考えているのだが、どうだろうか。三級なら受け入れてもらえるか?」


 レベッカはその提案を聞いて、パァッと顔を輝かせて頷いた。


「もちろんです。ありがとうございます!」

「ではリュカの一級への昇級手続きと、レベッカの三級への昇級手続きはこの後すぐに職員を呼んで行おう。そして国王様からの礼と褒美の件だが、そちらは二人がギルドに来たらすぐに王宮へと連絡することになっていた。先ほど遣いを向かわせたので、数時間後にはこの先の日程に関して連絡が来るだろう。そちらは王宮の役人の指示に従ってくれ」

「分かりました。ではこのままここにいた方がいいですね」

「そうだな。待ち時間で昇級手続きを済ませてくれ。担当者を呼んでくる」


 それからエドモンさんが呼びに行ってくれた担当者の方が執務室にやってきて、俺たちは昇級手続きをすることになった。

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