象徴としてのFIREとWATER考 (絶対的ネタバレ)
まず、私は1R目であることをここに告白する。
中には3R、いや9Rでまた観に行くと仰る方々には敬愛を表する。わかるよ、わかります。たぶん何度行ってもただ殴られて帰ってくるような気がするもん。
だからこそはじめは、初鑑賞後の影響力について報告したい。
『RRR』マジすごかった。
語彙力をなくし、昂ぶりすぎて一緒に鑑賞した友人との会話すら消失させる。席を立った瞬間、私の肩は凝っていた。あまりに緊張して腕を固く組みすぎたせいである。肩甲骨すら軋む、それが『RRR』。
そしてシアターから映画館の自動ドアをくぐるまで、私たちは「いやー」とか「えー」とかお互いの顔さえ窺うことができないコミュ障になった。
何を伝えたいのか、整理できない――もちろんそれもある。だが、ただただ圧倒されていた。
暴力と努力と執念と正義と血と筋肉、驚愕の作戦と展開、人間の美しい部分と醜い部分そしてダンスを踊るきらめく5人の笑顔。あの最後のエンドロールは間違いなく私たちの情緒を破壊することが目的だろう。
そうして前述の通り『RRR』は、去年買ったスーツがきつくて地味に食事に気を遣っていた私の1ヶ月を台無しにしてくれた。エクレアうまかった。
該当ツイートはこれ▼
https://twitter.com/micco30078184/status/1636724322193793024?s=20
では、改めて参る。
ラーマはFIRE、ビームはWATERだった。
いや当たり前だろ、と思うかもしれない。
だがこの象徴が作中を貫き続け揺るがない筋を与えていたからこそ、あああぁぁぁぁぁぁと心中穏やかでなく、2人が心を通わせれば安堵と切なさに襲われたのだと思う。以下、この象徴について思ったことを語りたい。
あ、世界1億万人のラーマ派には地に頭を垂れて謝罪するが、まず構成上ビームについて話す。
彼は「The STORY」で語られた優しい部族の出身であり、その部族の『羊飼い』であった。可愛いマッリを攫われ、あの冷酷女への憎悪から同情的になっていた私たちはすぐにビーム個人を応援せざるを得なくなる。あの虎を捕らえるときの怪力で、思わず歯を食いしばり、縄が切れた瞬間に「あっ」と声を漏らしたのは私だけではないと思う。あの瞬間、我々は誰しもビームに共感し、一緒に虎を捕らえていたのだ。そしてマッリに近づく方法がないと弱気な彼に頑張ってほしくなっちゃうわけだ。あーすごいよ。すぐ感情移入しちゃうよ。
原初の森に抱かれた暮らしで鍛えられた筋肉と胸毛、そして筋肉が彼のすごさだ。
同時に、彼の純粋なる精神はまさにWATERの如き爽やかさをもたらしてくれる。かわいい。
秘められた怒りはあのクリクリのお目々のきらめきに覆いかぶせられ、デリーではちょっと弱気なのもいい。学識に乏しく、ジェニーとの遣り取りにハラハラしちゃう使命とは別の恋の予感におばさんはきゅんきゅんよ。
おかしいな象徴について話したいのにキャラの話になってる。まぁいいか。長くなったので、ラーマに進む。
みなさんご存じの通り、ラーマは闇深い。そんな子どもに重荷を課せないで父さああぁぁん! と叫ばずにはいられない程の過去を持ち、ただ信念の元に警察官を務めていた。これはINTERRRVAL後に明かされるので、我々はみな彼にも「何か事情があるのだろう」と見守る。そう、正義か悪かと少しの疑惑を持ちながら90分もの間を見守り続けるのだ。好きになっちゃうよね。
彼の武器は冒頭でカマされるその強靱な体力と拳、そしてよく分からない狂気的な信念、そして甘い顔面であろう。「FIRE」と題されて紹介される彼はまさに鬼神の如き強さで、『RRR』のアクションの神髄がこのチャプタに収められていると言っても過言ではないだろう。映画全体ですごい
そしてやはり彼はFIREなのだ。銃を村に届け、銃で英国人を打つために戦っている。
ビームは、元々暮らしと共にある人々を癒し育ててくれる「WATER」の精神と自己の筋肉を以て戦うが、ラーマは英国にもたらされた文明を用いて戦おうとする、憎しみによって燃えさかる「FIRE」だった。
ふたりの出会いのシーンを思いだしてほしい。いやすっごく遠くの橋の上にいる人とよく意思疎通してあんな曲芸ができるなと思うのだが、これはまだラーマとビームに染まっていない時の私の感想である。今ではふたりなら当然と思っているのでご心配なく。
えーとそれで、出会いのシーンも完全にFIREとWATERだった。
機関車の故障――英国の文明のせいでインドの命の象徴であろう川に油が落ち、炎が立つ。そしてふたりは一本の縄(そんなに長かったの!?)をお互いの乗り物に括りつけて宙吊りになる。インドの旗を手にしたラーマ(今思えば秘めた愛国心を表わす完全な伏線)はそれをWATERに浸し、FIREから守る。FIREは英国の文明と植民地支配がなくては生まれないものだった。旗に包まれ炎から姿を現わしたビームの姿が目に焼きついてる。アツい。
その相容れない、混ざり合うことのできぬふたつが、あの橋のシーンで固い拳で結ばれ、作中を貫く絆となるのだ。
アツい、アツすぎる。
ってか川の中って歩けるのかすげぇな。みたいな気持ちで観ていた昨日の私を今、恥じている。
そんでこれは、「パーティは動物園事件」(勝手に命名)によってさらに観客に提示されていく。いやまず、あの動物とビームが檻から飛び出すシーンの驚愕はどうなのよ、と思われる方も多いだろう。もちろん私は「わー」と漏らしたよ、ご心配なく。一緒に行ったのが後輩で良かったね。
そして毒蛇に噛まれたラーマの回復力のすごさへの戸惑いもさることながら、ふたりの対立関係が表面化する現実の切なさは、圧倒的な暴力と画の強さによってなんかよく分からなくなる。
どちらも狂った様にうねり飛ぶ花火を背負うラーマと噴水の水を背負うビーム。
あああぁぁぁぁ強すぎる画よ……!
私の目蓋には、スチル絵として収納されている。すごいよ、花火に引火してひゅんひゅん飛ぶ火、そして噴水の側が崩壊して中のホースが解放されてびゅんびゅん放たれる水。マジ考えた人天才すぎる。ここまで対立を表わすのに、合致した映像もないよ……。
そんでね(ちょっと息切れてきた)鞭打ちに処されるビームのシーンは色々情緒がアレで言いたいことはたくさんあるんだけど、今はテーマについて話すと。
処刑台?に溜まった水に顔を映して「コムランビムドォ」と
ここが尊いよね。ビームと一緒にいるときの彼も兄貴分で優しい人物なんだけどいつも使命に囚われてビームが見ていないところではFIREなんだ。
でも、民衆の蜂起を目の当たりにしてビームを助ける覚悟を決めたラーマの、おっ穏やかな顔おおぉぉぉ……! あぁ良かったね、ラーマ。シータ、ごめんよ。
あ、何が言いたかったかというと、WATERによってFIREがちょい鎮火したってこと。
そんで救出劇がふたつくらいあって、最後の聖戦よ。
もはやラーマはマジモンの神になるわけなんだけど、(このラーマの装束の伏線もさりげなさすぎてすごい。色々すごい)このときのラーマは矢を使う。
いや、インドの神がそうだし、めっちゃカッケー! からかもしれない。しかもたぶんほぼ9割それだろう。
もちろん銃は最後の〆にとっとく意図もあるんだろうけど、ここで弓矢を用いて戦ったことは、彼のFIREの定義の変容があったんだと思った。もちろん英国人を滅する行動には、彼らへの憎しみが横たわっている。でも火薬ではない原初の炎を元々ある神すら背負う武器を以て戦うことは、もはやラーマが英国に表面的にも迎合することなく対立する意志を表わしてると思った。
そう、混ざり合うことのない火と水は肩車によって一体化した。インド解放という目的に向けて。
そして彼が放った火は、火薬に着火し英国人たちを自滅に陥らせる。
WATERに出会った憎しみのFIREは原初のFIREに生まれ変わった。
それが『RRR』という物語だったのだと思う。
ここまで真面目なお話にお付き合いくださり、本当にありがとうございます。
もはや妄想と存ずるが、鑑賞後からこっち、ずっとそんなことを考えていた。
だから次話では、知性を手放してグッときたシーンについて狂っていく所存。
(つづく)
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