私にも発言権はあるはずです。

@yunamikyo

第1話

「私、カレと・・・なんだよね」。

 店内BGMに負けているため、皐は最初に何を言っているのかが聞き取れなかった。しかし、何か思い悩んでいるのは明確、私落ち込んでますオーラが目線や声にはっきりと出ているのだ、それも早朝学校で会った時から。昇降口で彼女を見かけた時から何かを察し、今日一日関わらないと決め込むことにしたが、教室で目が合うなり彼女は駆け寄って来て、

「私、悩み事があって、咲希にしか相談出来ないことなの」。


 と、怪談の冒頭部分を話す時みたいなか細い声量で皐は話し出す。


(あっ、彼氏と別れたんだな)。私は瞬時に悟るのだった。


 ・・・


 「・・・」。


 未だ無言の皐に対して私は次第に腹が立って来た。マクドナルドに入店して三十分は経過しているのに、皐は泣きながらずっとハンカチで目を押さえ可愛らしいでしょアピール全開で泣いている。近くに男子高校生か中学生が雑談をしながら、こちらの様子を伺っているような視線を送っているのだが、皐はそれが狙いなのだ。鼻を啜る音も周りの雑音にかき消され、一層私のストレスが溜まる中、私は空腹を満たそうと一個目のハンバーガーに手を伸ばし袋からハンバーガーを出した。

「ハンバーガーの食べ方には順番がある、私の場合まず目で見て楽しみ、その後香りから使用されているスパイスを当ててからの!実食」。心の中でそうつぶやきながらじっとバンズに挟まれた肉厚ハンバーグと薄くスライスされたチーズ、ケチャップを見つめ食べたい気持ちをじっと我慢する。私の中ですぐに食べるのは御法度であり五

感を使って楽しむのがポリシーなのである。


 「いざ、実食」


 大きく口を開け齧り付こうとした瞬間。


「私にも一口ちょうだい」。


 泣いていたはずの皐が満面の笑みを浮かべているでないか、突如起こった事態を把握出来ずに呆気に取られていると、


「早くぅ」


 と急かす皐に対して我慢の限界を迎えた私は、


 「いい加減にしてよ!」


 と大声で叫んでいた。



 「ふぇ?」


 今度は皐が呆気に取られた顔をして私を見ている。雑談をしていた男子や、テーブルを拭いていた同い年であろう高校生、(恐らくバイトをしている)私と皐を珍しい動物を見るような驚いた目で見ている。 私は怒りで身体が震え、皐を睨みつけるようにして相手の様子を伺う。


「どうしたの?咲希」


「どうしたのって・・・、皐だよね、悩みがあるから聞いてほしいって言ったの、それなのにこれは何?本題に入る訳でなくダラダラと、いい加減にしてよ」。


 周囲の迷惑にならないよう私は声のボリュームを抑えたがいつ爆発するかは分からない。

 

「悩みはね、カレシと最近通話してないって、言いたかったの」


「え?」


 私は怒るどころか予想外の返答に対し言葉を失い、再度聞き返した。


「今、なんて?」


「カレシと長電してないの、うちがいくら誘っても、彼は冷たくって」。


 内心、それだけ?って思った。それしか出てこなかったから仕方ないと思う。さっき怒鳴ったことが馬鹿らしく思えて顔から火が出るかと思うくらい顔が熱く火照った、冷たい私が異常なのだろうか。


「そうなんだ・・・、それは心配だね」


相手を刺激しないように第一に共感することにした、人間の扱いというのも順番があるのだ。


 「それでねー」

 

皐は破竹の勢いでしゃべり始めた、「形勢逆転?」「打って変わって?」、ふさわしい言葉が出てこない変わりにこの場が長期戦になることを覚悟した。


「彼、怪しいの、LINE毎日嫌がるしね、通話も寝落ちが当たり前だったのに今は・・・彼が強制的に通話切るの、浮気だよね」。


 「あ~、それだけで浮気を疑うのは早いんじゃない?」


 同調しつつも内心では馬鹿らしい気持ちでいっぱいな私は腕時計を見て、内心帰りてぇとつぶやく。しかし長期戦はまだまだ終わりそうになく、あれから一時間が経過しても尚、疑心暗鬼な皐は彼への不満を語り続けている。

 (ママに当分帰れないことを報告しなきゃ)


 「彼、部活や勉強で忙しいというけど、私と付き合うの嫌なんだよ絶対」。そう言って皐はまた涙を浮かべる、(泣きたいのはこっちだよチクショー)


 溜息を軽くついた私は応援を呼ぼうかとスマホを開いた。そもそもこの人、彼氏いない非リアな私を相談相手にしているが、マウントでも取っているのだろうか?余計腹立つ。


 「私もう諦めようかな」

はいこの台詞百回は言ってる。

「ごめんね付き合わせて」

「悪く思うなら終わらせろ」


 もう私、皐とは絶交だわと思った瞬間、皐は突然立ち上がり、「私、カレと電話してくる、決着つけてはっきりさせる!」とスマホ片手に店内から出ていった。


「よぅし!やっとハンバーガーを食べれる!もう冷めて乾燥してるけど、お腹空いたぁー」。

 大きく、一口目を食べようと口を開けた私を待っていたのは予想外の結末だった。


「お客様、事情は存じませんが、あのぅ、本当にお困りのようですね・・・、見ていて、はい、非常に辛かったです。お友達の方も、お客様も。はい・・・。非常にお辛そうでした」


 (ひぃ~、いい加減食べさせて~)

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