たとえば愛を想えたら

生まれてきてよかった、なんて思ったことは一度もなかった


愛情の基本的なところが成り立っていない


自分を愛せなきゃ他人なんて愛せない

でも愛されたこともないのに自分のことなんて愛せない

でも、どこかで区切りをつけなきゃいけない

だから自分から


自分を誰かに愛された者だと呼びたい

自分が誰かに愛された者だと信じたい


給料はいつだって我慢料でしかなかった

“お客様のために”なんて発想が浮かぶ余地はなかった


俺には、たぶん、

他人に何かをしてあげたい、って発想が欠けている


俺は自分が嫌いだ

誰からも好きになる方法を教わらなかった


“言いたいことを言う”って発想そのものがなかった


周りに幸せそうな人がいないのは不幸なことだ

自分より下を見て安心するのも幸せかもしれない

でもそんな幸せは何のためにもならない

ただただ消えたくなるだけだ


周りに幸せそうな人がいるのは幸せなことだ

“自分もそう在りたい”と成長できる

絶対に俺だってキラキラできるはずなんだ

だって君と出会えたのだから


無駄にはしない


自分より下を見て安心した

安心して満足してそれきりだった

つまり一歩も進めなかった

それでも自分は上なんだと納得させた


大人になるにつれて絶望に満たされた

でも果たして子供の頃からそうだっただろうか

もしも幼い頃から誰にも愛されていなかったのなら

俺はもっと乾いた人間になっていたのではないか

そう音楽なんてせずに


たぶん俺は根元的な部分では満たされている

成長過程で飢餓が常態になってしまっただけで

根元的にはきちんと周囲の人たちから愛されれ育ってきた、

という自覚を持てている


ただだからこそ

もともとは飢餓が常態ではなかったからこそ

飢餓の異常さがわかる

だからそれをなんとかして満たそうとしている……


俺はちゃんと気付けている

俺は他人を愛せる


だから

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