第175話

 恐らくだが別にボスクラスの敵がいるのだろう。 

 カナタは厄介な高機動型を抑え、残りは中にいるであろう敵の対処に忙しいと。

 センドウは執拗に弾丸を打ち込み続けていたが、弾が切れたと同時に回避運動。


 彼女を追うようにミサイルの群れが建物から飛び出す。 センドウは弾の切れた狙撃銃をミサイルに投げつけ急降下。 ミサイルは凄まじい誘導性能で彼女の機体を追う。

 彼女の機体はキマイラタイプでも四つ足形態になるキマイラパンテラだ。 空中戦は得意ではない。

 

 空中で変形。 建物の壁面に張り付いて走る。 

 ミサイルは彼女の背に喰らいつかんと追いかけているが、いい位置だった事もあってヨシナリは重機関銃を連射。 彼女を追っていたミサイルを撃墜する。


 先頭のミサイルを潰した事で他にも誘爆。 センドウの機体は爆発の余波で多少、バランスを崩していたが無傷だった。 ヨシナリに気付いたのかセンドウは人型形態に変形した後、小さく頭を下げて見せると建物の中へと飛び込んだ。 どうやら中は中でかなり苦戦しているらしい。


 カナタはカナタで銀のエネミーとの激しい空中戦は決着する気配はなかった。

 味方の援護が入っていない時点で余裕がない事は明らかだ。 中もセンドウの様子から厳しいというのは見て取れる。 


 ――行くか?


 突入。 ホロスコープの性能を考えれば無謀な選択肢だが、今は敵から奪った強化装甲がある。

 これと同様に奪った重機関銃があれば突破は難しいが不可能ではない。

 ただ、可能性を上げるなら頭数が欲しいのだが――

 

 「中に行くんだろ? 俺達も行くぜ」


 声をかけられて振り返るとヴルトムがユニオンメンバー数名を連れてそこに居た。

 

 「ヴルトムさん」

 「俺達みたいのでも居ないよりはマシだろ」


 ヴルトムが連れて来たのは「大渦」のユニオンメンバーで彼を含めて全部で十機。

 内七機がⅠ型だが、敵機から奪った重機関銃を装備している。

 

 「充分です。 行きましょう」

 「俺も敵から強化装甲を奪おうとしたんだけどあれは自発的に脱がせないと駄目だから奪うのはあまり現実的じゃない。 ヨシナリさんはラッキーだったな」

 「ですね。 その幸運を中の連中におすそ分けしに行きましょう」

 「いいねぇ。 プランは?」

 

 ヴルトムの質問にヨシナリは笑って答える。


 「そんなものはありません。 正面突破します」

 「最高かよ。 んじゃぁ、美味しい場面に出くわせるように急ごうか」



 強襲装甲『スパルトイ』。機体とは別に動力源となるジェネレーターを二基搭載しており、装着すれば追加の出力を得られる。 加えて重装甲は並の銃弾を跳ね返し、あらゆる環境を物ともしない。

 固有武装としては炸薬式のパイルバンカー、そして目玉となるのが防御性能だ。

 

 詳細は不明だがエネルギーアーマー、要は装甲表面に障壁を展開し攻撃を無効化する事ができる。

 実弾はほぼ弾き返すので無効。 例の重機関銃ですら七割から八割の威力をカット。

 光学兵器は完全に無効化するという馬鹿げた防御性能ではあるが、起動までのタイムラグと燃費の悪さと言う欠点があるので恒常的に展開できない点だろう。


 裏を返せば使い方を誤らなければ非常に強力な装備といえる。

 少なくとも実際に使用したヨシナリの所感としては装備しているだけでAには届かないが、ランク二つから三つ分の性能差を埋める事ができると思っていた。 

 

 ――そしてその考えは正しいといえる。


 「全機、俺の後ろに。 突っ込みます!」


 足裏に搭載されていた無限軌道が唸りを上げ、ホロスコープが加速する。

 鈍重になりはしたが、大きく増加した出力はそれを捻じ伏せての高速移動を可能とした。

 ヴルトム達の機体がホロスコープの背後へ。 当然ながら敵機が立ち塞がるが、ヨシナリは両手に持った重機関銃で派手に弾丸をばら撒く。 敵機は咄嗟にシールドを展開しようとしているが、使うタイミングが遅すぎる。 


 「使うんならもっと早くしないと意味ねーぞ!」


 次々とエネミーと敵トルーパーを破壊していく。 

 二つの銃口は景気よく銃弾を吐き出すが、いくら大容量のマガジンであろうとも無限に入っている訳ではない。


 「リロード!」


 ヨシナリがそう叫ぶと後ろについていた機体がマガジンを交換。

 銃本体の上部に円盤状のマガジンを差し込むだけの非常に単純な仕組みなので給弾係からすればやり易かった。 


 「ありがとうございます。 危ないので俺の後ろへ!」


 礼を言って射撃再開。 リロードの隙はヴルトム達が埋める。

 敵の応射はシールドで防ぐ。 無数の銃弾が命中するがシールドによって威力を殺されて大したダメージにならない。 


 「はっはぁ! ごきげんな性能だなその装備! 楽しくなってきたんじゃないか!?」

 「分かります? 基本、狙撃で遠くからチクチクやるだけなんで正面から突っ込んで弾ばら撒くのすっげー気持ちいですね!」


 テンションの上がったヴルトムの質問にちょっと楽しくなってきたヨシナリが元気よく返す。

 施設の正面に陣取っている敵の一団をハチの巣にしたヨシナリはそのまま突っ込む。

 中はもっと敵で埋め尽くされているものかとも思ったがそうでもなかったようだ。

 トルーパーが十数機居るだけだったので、そのまま一掃して奥へ。 足を止めると囲まれる危険があるので常に動き回っておくことが重要。 スパルトイは優秀な装備ではあるが無敵ではないので味方のサポートがあるからこそこんな無茶な真似ができる事を忘れてはならない。


 「入ったはいいが次はどうする?」

 「当然、上に向かいます。 『栄光』の面子が敵を片付けてくれているのなら問題はありませんが見た感じ、旗色が悪そうだったので格好よく助けに行きましょう」

 「騎兵隊の到着って奴だな! いや、正面からのごり押しが決まるとテンションブチ上がるな! このまま行っちまおう!」  

 「勿論、行きましょう」


 ヴルトムだけでなく他のプレイヤーの士気も高い。 これは下手に休憩を挟んだり、安全地帯を探すよりゴールまで走り抜けた方が高いパフォーマンスを発揮しそうだと判断したヨシナリはそのまま加速。

 問題はこの施設の詳細が不明な点だが――


 「あれ?」


 ウインドウ隅に表示されたユニオンメンバーのステータスが表示されている。

 どうやら近くに来た事で不明から観測可能になったようだ。 それによればマルメル、ふわわの両者共に内部で健在。

 通信は――行けそうだった。 ヨシナリは取り合えずマルメルへと連絡を取る。

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