第171話

 どう見てもトルーパーにもかかわらず識別はエネミー。

 浮遊してスライドするように加速。 応じるようにふわわが前に出る。

 一定の距離で互いが攻撃態勢に入る。 ふわわの機体が僅かに腰を落とし身構えた。


 エネミーの巨大な爪がエネルギーの刃を形成。 大きく振り上げての一撃を繰り出す。

 対するふわわは僅かに下がって紙一重での回避。 振り下ろしたと同時に流れるような動きでエネミーの間合いの内側へ。 マルメルはこれは終わったと思った。

 

 あの距離まで接近を許せばまず細切れにされるからだ。 少なくとも自分はそうだった。

 だが、未知のエネミーはそうではなかった。 驚くべき事にふわわの斜め下から首を刈り取る軌跡を描く斬撃を苦も無く僅かに仰け反って回避。  

  

 ――あれに反応するのかよ!?


 エネミーは爪を振り回しながら開いた手の平からエネルギーブレードを形成し刺突。

 ふわわは刺突を器用にいなしながらダガーで切り返そうとしているが、一進一退の状況だった。

 マルメルの目には二機のトルーパーが目まぐるしく間合いを変えながら刃を交えている姿を見て震える。


 あの攻防に間違いなく自分は付いていけないと。

 ふわわの性格上、横槍を入れられるのは好ましく思わないだろうがここは敵の基地内部。

 あまり悠長にはしていられない。 他の味方機も同じ結論に至ったのか各々持っている武器を構えるが、両者の距離が近すぎて狙えないのだ。


 「ふわわさん! 離れてくれ、援護ができない」 

 「ウチの事はええから出入口を固めぇ! 追加が来るよ!」


 マルメルが弾かれたようにエネミーが現れた出入口へ振り返ると現在ふわわと戦っている機体と似たデザインのエネミーが現れたこちらは追加装甲を装備しているのかやや着膨れしているが頭部の形状は酷似しているので同系統の機体と見ていい。 それがぞろぞろと入ってきた。


 装備に統一感はなく、短機関銃、機関銃、突撃銃、ガトリング砲とほぼ飛び道具ばかりである事ぐらいが共通点だ。 全部で――何機だ?

 ぞろぞろと次から次へと入ってきてマルメル達を視認したと同時に発砲。 

 凄まじい数の弾丸が雨あられと飛んでくる前にマルメル達は慌てて近くの遮蔽物に身を隠す。

 

 弾幕が途切れた所で応射。 胴体は当てた所で効果が薄いであろう事は明らかなので頭部を狙って撃ちまくる。 数度の応酬を経てマルメルは内心で首を傾げた。

 ふわわと戦っている機体は凄まじい挙動で接近戦を繰り広げているが、マルメル達に銃弾を浴びせかけようとしている機体群はただ闇雲に撃ちまくっているだけだ。 


 ――動き自体は大した事がない?

 

 よくよく観察してみると機体によって動きが全く違う。

 明らかにAIではなく有人操作だ。 低ランクのプレイヤーがしそうな挙動にそこそこのランクのプレイヤーがするような立ち回り。 


 ――まさかとは思うが敵は参加していないプレイヤー?


 この人間臭い挙動をみてAIと判断するのは難しい。 

 仮にプレイヤーだとしてこいつらは何処から湧いてきたんだ?

 頭部を破壊されたエネミーが視界不良により、滅茶苦茶に撃ちまくり始め、味方機に後ろから撃たれて破壊されている姿を見れば有人操作なのは疑いようがない。


 運営が用意したバイト? それともあれか? 

 他のサーバーのプレイヤー? 海の向こうの大陸はこちらとは比べ物にならない数のプレイヤーがいると聞く。 そこから引っ張ってきたのだろうか?


 どちらにしても敵である以上は処理しなければならない。 あの程度の技量であるなら数は居てもどうにか――

 

 「……あー、これ無理かも……」


 次々と途切れずに入ってくる敵機の数にマルメルは途方に暮れたように天を仰いだ。

 

 

 「おいおいおいおい、何なんだよあいつらは!」


 ヴルトムが勘弁してくれと言わんばかりに動揺を口にする。

 場所は変わって外。 味方の退路を確保する為に基地の外で戦っていたヨシナリ達だったが、戦況に大きな変化が起こった。 基地の内部からトルーパーに似たエネミーが湧いてきたのだ。


 既存の機体と似て非なる物ではあるが、構成自体は既存の機体を組み合わせたような代物だった。

 ヨシナリの見えている範囲で種類は二種。 

 一種類目。 追加装甲でガチガチに固めた灰色の大型機。


 ビルドとしてはヴルトムの機体に似ている。 

 とにかく耐弾性能を大きく上げて生存率を上げる組み方だ。 意識してのビルドというよりは量産機をそのまま配布されたような印象を受ける。 技量に関してはピンキリあるが、全体的にお粗末でランクで計るのならIからH程度で、甘めに見積もってもGの下位といった所だろう。


 立ち回りも何もただただ弾をばら撒くだけの機体。 武装も実弾兵器のみで機体のあちこちにマガジンを納めているであろうボックスが積んであった。

 味方への誤射も平気で行っている点からも技量の低さが窺える。 

 少なくともAI操作ではないが、ここまで技量の低いプレイヤーをわざわざ使う意図がさっぱり分からなかった。 数合わせのバイトか何かか? 

  

 それとも運営のおふざけ? 

 このタイミングでトルーパーもどきを投入してくる意図がさっぱり分からない。 

 考えても分からない事を棚上げしてまずは目の前の脅威への対処が先だ。


 灰色の量産機は面倒だが脅威としては数以外は問題にならない。 

 問題は白と黒のツートンカラーの機体だ。 腰には二基のエネルギーウイング。

 両肩には大型のブースター、各所にスラスター。 ソルジャー、キマイラ、エンジェルタイプの良いとこ取りをしたようなデザインの機体だ。 エネルギーウイングによる急旋回、急加速、ブースターによる加速力とスラスターによる姿勢制御。 ピーキーなビルドではあるが、使いこなせればAランクにも通用するレベルのスペックだ。


 割合としては灰色十機に対して白黒一機といった所だろうか?

 白黒のスペックだけでも脅威だが、武装もまた脅威だ。 

 巨大な腕――というよりはガントレットのように腕にはめ込むタイプの武器で巨大な爪にエネルギーのブレードを形成する。 名称としてはエネルギークローといった所だろうか?

 

 大きなガントレットは盾としても扱えるので想定される基本運用としては防ぎながら加速を利用して肉薄した後、爪で引き裂くのだろう。 エネルギー、実体の両方の刃はどちらかに耐性があったとしてもトルーパーの装甲をあっさりと貫通する。 現状では使っている様子はないが、空いた手にも何かがありそうだ。 

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