第164話
合流地点にはもう随分な数が集まっており『栄光』『大渦』は既に揃っていた。
「俺達が最後ですかね?」
「いや、まだいくつか来る事になっているからもう少し待つ事にはなるな」
ヨシナリは周囲をぐるりと見回すと集まったプレイヤー達が何やら話をしている姿が見える。
その途中、ふと目に留まった物があった。 降下に使ったシャトルだ。
それが複数並んでいた。
「あれは?」
「あぁ、基本的に着陸するまでシャトルは自動操縦なんだが、着陸後は操作できるようになるんだ。 で、このシャトルってメンテナンス用のハンガーも兼ねているらしくてな。 近くにあるのを集めて即席の拠点にしたって感じだな」
――そうだったのか。
だとしたら乗り捨てた判断はやや早計だったかもしれない。
ウインドウを操作すると自分達の降下ポイントは表示されるので余裕があるのなら後で回収に向かってもいいだろう。
「取り合えずカナタさんに挨拶しておこうと思うんですけどいいですかね?」
「あぁ、いいぜ。 こっちだ」
ツガルに案内されて即席拠点の中心へと向かう。 集まった機体が持ち込んだセントリーガンを設置したりと忙しく作業している。 そんな中、カナタの機体は良く目立つ。
話が一段落付いたのか彼女の周囲に居た機体が離れていく。
「ボス、ヨシナリを連れて来たぜ」
「あぁ、ありがと。 この間は失礼しました。 あんな事があったのに参加してくれてありがとうございます」
この間と言うのはユニオン対抗戦の時だろう。
ユウヤと組んでいる事で睨まれたのだが、凄まじい迫力でヨシナリとしては正直怖かったというのが本音だった。
――とはいっても今は味方なので気にしていないと態度には出さない。
「どうもです。 前の事はお気になさらず。 それよりも話は聞いてると思うんですが……」
「大暗斑の調査ですね。 ウチのフカヤと他のユニオンからもステルス装備の機体を出してくれるとの事なのでチームで行ってもらう形になります」
「あ、他にも来てくれるんですね。 助かります」
頭数がいた方が何かと助かるので、この申し出はありがたかった。
主に敵に捕捉された場合、情報を持ち帰れる可能性が上がるという意味でだが。
「他の方の準備ができているなら早速出発したいんですけど……」
「えぇ、話はしてあるので問題ありません。 よろしくお願いします」
事前に段取りは組んであったのか指定された場所に向かうとフカヤと他の参加者が三機。
ヨシナリを含めて合計五機で向かう事になるようだ。
「んじゃあ、ちょっと行って来るから後は頼む」
「おぅ、無事に帰って来いよ」
「何かあったら連絡するんやよ~」
マルメルとふわわは全員が集まるまでの間、拠点の設営を手伝う事になったのでこの場に残る事になっている。
「さて、一応この面子を仕切る事になったヨシナリです。 今日はよろしくお願いします」
集まった四人に小さく頭を下げると何故か拍手された。
その後は各々の自己紹介が始まる。 フカヤは既に知っている相手なので注目するべきは残りの三人だ。
一人目。 マルコヴィッチ。
偵察、暗殺に特化したⅡ型で武器は消音器付きの狙撃銃と短機関銃。
強化したセンサー類だけでなく。 背中にジャミング装置などを積んでいるので攪乱などを行える。
「ども、ヴィッチです」
「どうもです。 よろしくお願いします」
二人目。 マメ大福。
こちらもステルス重視ビルドのⅡ型。
やや、近接寄りなのか武装は消音器付きの拳銃二挺とダガーが複数。 センサー類の強化に力を入れているのかヘッドパーツのボリュームが凄い。
「よろしくっす」
「どうもよろしく」
三人目。 要珍宝。
光学迷彩装備のⅡ型。 武器は長柄のハンマーと腕に装着された
恐らくは忍び寄って一撃といった戦闘スタイルなのだろう。 一応は拳銃を持っているが恐らくは保険か何かなので使用頻度は高くなさそうだった。
「どもっす」
「よろしく」
この三人にヨシナリとフカヤを加えた五名が調査隊となる。
挨拶もそこそこに準備も出来ているとの事で出発となった。
「取り合えず確認なんスけど、俺らの仕事は大暗斑?って奴の調査なんスよね?」
「そうですよ」
最初の数分は黙々と進んでいたがマメ大福が沈黙に耐えられなかったのか話を振り始めた。
周辺の警戒はしているので少々のお喋りは問題ないだろうとヨシナリは応える。
目的地の大暗斑は拠点から北西に三百キロ地点だ。 トルーパーの機動力でもそれなりに時間がかかるのでしばらくは退屈な移動時間となる。 噴かせば時間はかなり短縮できるが、敵地で味方は偵察仕様の機体だけなので発見されるリスクを減らす為に駆け足での移動だ。
風景を楽しもうにも太陽光が碌に届かないこの星は常に深夜のように真っ暗でぐるりと見回せば遠くに敵の拠点と思われる光がぽつぽつと見えるがそれ以外は碌に見えない。
ヨシナリ達の機体は事前に暗視装置を積んでいるので何があるのかは分かるが、風景を楽しむなんて真似は難しい。
「俺馬鹿だからよく分からないんスけど大暗斑って何なんスか? 外から見たらぽっかり空いた穴って感じに見えたんスけど――」
「実を言うと俺も良く分かってないんだよ。 さらっと調べた感じだとマメ大福さんが言ったようにオゾンホール――大気にぽっかり開いた穴とかすっげー規模のサイクロンとか言われるんだけどはっきりしないんだよ。 これリアルな話なんだけど、観測はされるんだけど消えたりもするらしくて分かんないんだってさ。 後は規模の小さい小暗斑なんてものもあるらしいよ」
「あれ? でも開拓船団ってネプトゥヌスまで行ったってニュースを前に見たような……」
そう言って首を傾げたのはフカヤだ。
「そうですよ。 でも、何故か情報があんまり市民に降りてこないんですよね」
「なんでだろ?」
「そこまでは何とも。 噂だと開拓船団は実は辿り着いていなくて宇宙開発の資金を確保する為のプロパガンダだとか、到達したけど宇宙人の襲撃に遭って全滅したなんて話があったよ」
「あ、なんか事故ったって話は聞いた事あるような気がするっス」
三人が話していると先頭を進んでいたマルコヴィッチが小さく手を上げる。
全機お喋りを止めて停止し、すっと身を屈める。 ヨシナリが屈んだままマルコヴィッチの近くへ移動。
「何かありました?」
「ちょっと先に何か居ます」
ヨシナリは現在地を確認。
現在地は拠点から北西に百五十キロ地点、ちょうど目的地との中間地点だ。
ヨシナリはすっとアノマリーを構え、機体のカメラを最大望遠にした。
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