第159話

 光陰矢の如し。 そうこうしている内に一日、一週間と日々は瞬く間に過ぎ去っていく。

 ヨシナリは自主トレーニング、個人戦、ツガルやヴルトムと組んでの共同ミッション、後は最低限のノルマを達成する為にユニオン戦を一人で消化していた。


 そうこうしている内に十二月もそろそろ半ば。 週が明ければクリスマスだ。

 ちなみにイベント当日もそのクリスマスだった。 何故知っているのかというと正式にイベント開催のアナウンスが出たからだ。


 イベント名『侵攻戦』内容はサーバー単位での全プレイヤー総力戦だが、今回は守るのではなく攻める。

 プレイヤーは敵によって要塞化した惑星に突入し、要塞としての機能を維持している反応炉を破壊しろというのが目標だ。 制限時間はなし、参加プレイヤーが全滅するか全目標を達成するまで続くサバイバル。


 概要を読みながらヨシナリはうーんと小さく唸る。

 明らかに長期戦になるのは目に見えていたが、補給などはどうするのだろうか?

 流石に何時間も無補給で戦えとは言われないだろうから何らかの手段はあるのだろうが、今回は敵地と言う事で一息つく事が難しそうだった。 それに――


 ヨシナリはウインドウを操作して画面をスクロールさせるとある画像が大きく表示される。

 巨大で青い惑星。 本星とはまた違った深い青は全くの別物と言う事が分かる。

 形状、大きさから恐らくは第八惑星『ネプトゥヌス』がモデルだろう。

 

 その惑星のあちこちに人工の物と思われる輝きがぽつぽつと灯っている。

 反応炉の破壊とあるが、この広い惑星をたった一つの反応炉で賄えるとは思えない。

 絶対に複数、場合によっては惑星全体に散らばっているとみていい。


 「――つまりどこ行っても敵が湧いてくる惑星で無限に出てくる敵の襲撃と防衛線を掻い潜って基地に突入して反応炉を全部ぶっ壊せって?」


 明らかに前回よりも難易度を上げて来た。 十二時間粘れも大概だったが、今回は更に酷い。

 制限時間を設けていないだけで時間が経過すればするほどに不利なのは言うまでもなかった。

 ヨシナリがウインドウを操作すると敵拠点の存在する惑星の立体映像が浮かび上がる。


 映像を回すと基地らしき建造物の存在が確認できるのはせめてもの温情か。

 基地の数が目視できるだけでちょうど五十。 それが惑星全体に散っている。

 外からの俯瞰なのでサイズに実感が湧かないが、外――宇宙から見てこれと言う事は規模としては相当の物だろう。 防衛イベントの時に使用した拠点よりも遥かに大きい。


 全てに反応炉があるのか、それとも当たりと外れがあるのか……。

 どちらにせよ判断が付かないので全て潰すつもりで行った方が無難だろう。

 そしてこのイベントの一番厄介な点は恐らく失敗した場合、全く同じ内容で復刻される可能性が非常に高い事だ。 ハイランカーほど可能な限りの準備を行って事に当たるだろう。


 星座盤のメンバーに関してはふわわは問題なさそうだが、マルメルは期末考査の結果が直前に出るのでそれ次第との事。 それと関連して「大渦」「栄光」から共同戦線を張らないかとお誘いがあった。

 要するに固まって行動しようといった提案だ。 プレイヤーの人数的に落とせる基地は一つか二つ。

 

 間違いなく分散して処理する形にはなると思っているのでノルマ的にそんな物だろう。

 頭数が多ければ多いほどに生存率が上がるので連携が取り易い知り合いで手を組むのは当然の流れだ。 「大渦」側は連絡してきたのはヴルトムだったが「栄光」はツガルで、追伸にユウヤを誘えないかと添えられていた。 ユウヤの存在はカナタのモチベーションに直結するので可能であれば引き入れたいとの事だったので、ダメもとでラーガストとユウヤに連絡は行ったのだ。


 ラーガストは「用事があるから出ない」ユウヤは「興味ない」と取り付く島どころか出る気すらない。 想定していた答えだったので、返事が返って来ただけましかもしれないとさえ思っていた。

 ヨシナリが仲介する事で「大渦」「栄光」と行動する事になる事は決まっている。


 これで仮にマルメルとふわわが来れなくなっても問題はないだろう。 

 現状の情報ではこれ以上の対策は練れそうにない。 せめて敵が何を繰り出してくるのかだけでも知りたいところではあるが、エネミーの情報はなし。

 

 恐らくは前回と同系統の敵が出てくるとは思うが、あのイソギンチャク級の敵が出てくるのか否かで難易度が変わる。 正確にはその中身だが、あのレベルになるとラーガストしか対応できない。

 Aランクプレイヤーですらあっさりと屠るような敵が複数現れればそれはもう無理ゲーと言わざるをえないだろう。 正直、ヨシナリには勝てる気がしなかった。


 クリアできる難易度である事と運営の良心を信じて戦うしかない。

 

 

 ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。

 期末考査の対策はしっかりと練っているので問題はない。

 自室からリビングへ移動すると父親は出勤、母親はウインドウを開いてドラマを見ていた。


 母親は嘉成に気が付くと「なにか食べる?」と尋ねられたのでお願いしますと返すと準備の為にキッチンへと向かう。 待っている間、ウインドウを開いて検索ワードを打ち込む。

 ネプトゥヌス。 太陽から八番目に遠い位置に存在する惑星で太陽系の中では最も外に存在する。

 

 氷が大量に存在し、強い風が持続的に吹いており「大暗斑だいあんはん」と呼ばれる渦のような物が出現する。 ゲーム用に調整はされているだろうが、リアルでは最近人類が到達した最も遠い「開拓予定地」だ。 ニュースでは到着しはしたが事故が多く、進捗は芳しくないとの事。 具体的にどうなっているのかの情報は全く降りてこないので表層の情報しか手に入らない。


 嘉成は目を閉じてネプトゥヌスの環境を想像する。

 極低温の世界。 吹き荒れる風、メタンと氷の雲。 視界は利くのだろうか?

 武器は十全に扱える? 重力は本星とそう変わらないので気にしなくていいが過酷な環境が機体に与える悪影響は? そんな環境で性能を十全に発揮するエネミーはどんなマイナーチェンジが施されているのか? いや、局地戦用に完全新規の特化機体か?


 勝算はどの程度だ? 恐らくはかなり低い。 

 防衛戦での結果を考えるなら一回でクリアは非常に難しいだろう。

 恐らくは前回と同様、二回から三回はやらされる可能性は高い。 勝算は極めて低いと思っていたが、だからこそ勝った時の爽快感はかなりの物になる。 


 ――楽しみだ。


 嘉成は食事が来るまでの間、まだ見ぬ新しい戦いに向けて心を躍らせていた。

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