第154話 イベント戦への備え①
ソルジャータイプ、キマイラタイプ、エンジェルタイプ。
スペックの低い順に並べるとこうなるが、プレイヤーによってはやりたいプレイ、必要なスペックとの兼ね合いもあって必ず上位機種である必要はない。 フカヤの話は非常になるほどと思える内容だった。
彼は隠密戦に特化している以上、過剰なパワーもスピードも必要ない。
求められるのは気配を相手に悟らせないステルス性だ。 その点で言うのであればキマイラタイプの派手な起動音もエンジェルタイプのエネルギーウイングの光も自身の求めるプレイを阻害するノイズでしかない。
ふわわのような例は少ないが、このゲームにおいて上位機種を扱っているからイコール強いの図式が必ずしも当てはまらない理由の一つといえる。
ヨシナリとしてはこのゲームを楽しむ上で強さは必須とも言えるが、勝ち方、戦い方にこだわるスタイルは個人的に好感が持てた。 どんなゲームでもプレイヤーによっては求めるもの目指す場所は違う。
――なるほど。
得る物の多い戦いだった。
その後、似たようなミッションを数回こなしてその日はお開きとなった。
誰もいないユニオンホームへと戻り、ヨシナリは椅子に座って小さく息を吐く。
やはり他人と組むのはいい刺激になる。 ツガルやフカヤは敵としてかなり力を入れて分析した相手だが、こうして味方として組むと違った見え方がして面白い。
特に彼等はラーガストと違ってヨシナリにも理解できるレベルの挙動をしているので猶更だった。
ツガルは味方としてみると非常に頼もしい。 最初に戦ったときはソルジャータイプだったから分からなかったが、彼の本領は機動力を活かした遊撃戦だ。
とにかく戦場を飛び回って味方に足りない物を補おうとする。 後衛が危機なら率先して前に出て敵を引き付け、フカヤの隠密行動の助けになる為に必要以上に派手に動いて敵の目を引いているのもわざとだろう。 戦績で見るなら同ランク帯では平均よりやや下ぐらいだろうが、団体戦での貢献度で言うならトップクラスだ。
マルメルと同じで居てくれるだけで非常にありがたい存在だ。
フカヤは隠密特化と言う変わったビルドで正面切っての戦闘では決して強いとは言えないが、彼の存在は知らなければ敵にとって大きな脅威だ。 奇襲が成功すれば確実に一機は葬れる。
知られた後もいるだけで敵は奇襲を警戒しなければならないので圧をかける事は可能。
やや癖のある戦力ではあるが、運用次第では非常に強力だ。
ただ、プレイヤー特化ではあるのでエネミー相手だとやや厳しい印象だった。
――気配の消し方は参考になったな。
ステルス装備で電子的にも視覚的にも消えているだけでなく、いかに音などの気配を出さないコツのような話も聞かせてくれたのでそういった意味でも実りのある時間だった。
ヨシナリはうーんと小さく伸びをして立ち上がる。 時計を見るとまだ少し時間があるのでまた適当にミッションを回してGを稼ぐかと考えていると緊急ミッションが出ているのを見つけた。
「お、ラッキー」
他に取られる前に即座に受注。 お決まりの注意が書かれた文面に同意して開始する。
――それにしてもこの警告文にも近いのは何なんだ?
受けると終了まで拘束される事、失敗した場合は二度と受注できない。
NPCの指示には絶対に従う事など細かなルールが記載されており、末尾にこの文面に納得して遵守しますと同意ボタンを押して完了となる。
移動する際に妙に重い読み込み時間を経て目的地へと到着。
機体は以前にも使用した作業機。 重量のある機体なので動きが重く、やや使い辛いが単純作業を行う分には何の問題もない。 空を見上げると以前と同じ巨大な惑星――恐らくユーピテルだ。
ぐるりと周囲を見回すとあちこちで工事が行われており、何やら施設のような物があちこちで出来上がっていた。 物資の集積場のような物もあれば宇宙港のような施設も見える。
空を見上げれば以前は綺麗に見えた星空だったが、今は無数の宇宙船が行き交っていた。
居住区のような物も見えたので建築中の都市といった様子に見える。
これは一体なんなんだろうか? 改めて見れば見るほどに疑問しか浮かばない。
シミュレーションの一環なのだろうか? ここ最近は宇宙開発に力を入れているというニュースはよく目にするのでもしかしたらこの仮想空間を実際の環境に見立てて都市開発を行い、本番の作業に反映する。 そんな所ではないのだろうか?
最初は新マップのテスト運用ぐらいに思っていたがここまで力を入れているのであれば何らかの実利も絡んだ実験か何かではないかと思ったからだ。
実際、このゲームはとんでもない長さの同意書にサインする事以外は無料でプレイできる。
課金要素はほぼ皆無だ。 なら運営資金はどうやって捻出しているのだろうかといった疑問を持っている者は非常に多い。 もしかするとこのようなシミュレーションを無数に行い、その結果を企業などに提出して利益を得ているのかもしれない。 資金源の噂としては兵器メーカーからの提供がまことしやかに囁かれている。 トルーパーと同等の機動兵器は現状では難しいだろうが実は武器類に関してはエネルギー系の兵器を除けば実は既存の兵器などをそのままゲームに落とし込んでいるとの事。
ゲームと現実は違うがある程度の再現は可能。 その為、トルーパーに兵器類を扱わせる事で実戦データを取っているのではないか? 噂の内容はそんな感じだった。
そんな事を考えながらNPCの指示に従って移動。 今回は建築資材の運搬が仕事のようだ。
建材を慎重に運びながら思考をこの緊急ミッションへと戻す。
実際の宇宙開発のシミュレーションであるならそれはそれで面白いとヨシナリは考えていた。
何故なら将来、本物のユーピテルにこの施設ができるのだからその風景をこうして先取りできるのは少しだけ得をした気分になれる。
――それにしても本当にリアルだ。
まさかとは思うが本物のユーピテルじゃないだろうな?
それこそまさかだ。 こことユーピテルの距離を考えれば遠隔で機体を操るなんて真似は不可能。
ヨシナリのような学生でも分かる常識だった。 そんな事情でヨシナリの結論は宇宙開発シミュレーションだ。 割と国家的なプロジェクトかもしれないので同意書にサインさせるのも頷ける。
一つすっきりしたとヨシナリは作業に集中するべく余計な思考を頭から蹴り出した。
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