第56話

 人間、目標があるとモチベーションに繋がるというのはよくある話で、その目標も間に小さな別の目標を挟む事で適度に達成感を得れば最後まで目的地まで走り続けられるだろう。

 少なくともヨシナリはそう思っていた。 そしてその過程で得た成果が反映されれば他も同様だ。


 巨大な多脚戦車の足が切断され、崩れ落ちる。

 無防備になった急所にヨシナリがライフル弾を撃ち込んでとどめを刺す。

 

 「うはー、エネルギーブレードすっごい切れるねぇ」


 Ⅱ型に機種変更したふわわはただでさえ強かったのに更に凄い事になっていた。

 敵の攻撃を掻い潜り、エネルギーブレードで足の関節部分を切断して動きを封じる。

 今までは破壊する為の火力が不足していたので、それが克服された彼女は積極的に攻めるようになったのだ。 流石に撃破は難しいようだが、行動不能にする程度は訳ないようで今まではマルメルと一緒に逃げ回るだけだった事を考えれば大きな進歩だった。


 自分が強くなった訳ではないが、こうやってチームとしての総合力が上がっていくのは見ていて気分が良い。 それはマルメルも同様で、こちらもエネルギーライフルを手に入れた事で撃破が狙えるようになっていた。 慣れた挙動で敵の攻撃を掻い潜って本体の真下に滑り込むとライフルを連射。


 弱点である真下から動力部を撃ち抜かれたエネミーは崩れ落ちるように沈黙した。

 

 「しゃあ! 逃げ回るばっかりってストレス溜まるからこうして撃破狙えるのは気分いいぜ!」


 撃破にテンションが上がるマルメル。 

 ヨシナリの見た感じ、マルメルもふわわもモチベーションは良い感じに維持できている。

 ただ、同じ作業ばかりでは飽きが来るので、少ししたらユニオン戦を挟んでリフレッシュするべきだとも考えていた。 ユニオン戦は勝てればそこそこ儲かるが、負けると損するので資金を溜めるという目的がある以上、そこまで頻繁にやりたいと思えなかったが、適度に違う刺激がないと飽きが来てしまう。


 そんな事を考えている内にミッションが終了し、報酬がユニオンと個人に支払われる。


 流石に推奨人数二十人のミッションだけあってクリアした時の報酬が多い。

 このペースならそうかからずにヨシナリのホロスコープもⅡ型への移行も可能となるだろう。

 優先順位としては機体、武装、ガングニルの順だ。 本来ならガングニルは機体の後に手に入れたかったのだが、タイミング的に金が集まる前に次のイベント戦が始まってしまう。


 次こそは最後まで生き残るつもりでいるので機体の強化は必須といえる。

 

 「そういえば、武装はどうするんだ? やっぱり狙撃銃?」

 

 休憩中にマルメルがそんな事を訪ねて来た。 

 

 「本当はそのつもりだったんだけど、エネルギーライフルって当たればトルーパーならほぼ一撃で落とせるから欲しいといえば欲しいけど、ほらイベントがあるだろ? だから武装はそのままにしてスコープシステム――要は索敵範囲の拡大と敵のフィルタリングができるセンサーが欲しいんだよ」

 

 前回の戦闘では下級のエネミーである蜂と上位のエネミーである蟻が混ざっていたので、狙う際には非常にやりにくかった。 センサー類を強化すれば自動で脅威度の高い敵が強調表示される。

 加えて索敵範囲を広げておけば戦況の変化をいち早く察知して最善な行動を取れるだろう。


 今回は前回と違ってユニオン機能があるのでプレイヤー達は烏合の衆ではなく、ある程度の規律と統率の取れた動きができるだろう。 状況次第だが、必要に応じて同期して動けば生存率が大きく上がる。

 前回はマルメルと二人で状況に流されるだけだったが、今回はふわわが居るので突っ込んでくる蟻に対しても充分に対応できるだろう。 完璧とは行かないが生き残るだけならどうとでもなる。


 一先ずだが、イベントに関しては活躍する事は視野に入れていない。

 あわよくばといった気持ちがないかと言えば噓になるが、Ⅱ型で前線に行っても何もできずに沈むだけだ。 あのハイレベルな戦いで消えずに混ざりたいのなら最低でも機体の強化にかなり力を入れる必要がある。 それも機動力にだ。 

 

 それはヨシナリの目指す方向とはズレるのでどちらにせよあの戦いではヨシナリの出る幕はない。

 特にあのカタツムリは今のヨシナリ達では手が出せないので、ハイランカーに任せるしかないのだ。

 悔しいがその点は認めざるを得ない。 キマイラタイプやエンジェルタイプが手元にあれば話は違ってくるが、今の段階ではないものねだりをしても仕方がないのでここは諦めて現実的に自分のできる事をできる範囲でやるしかない。 その中で自身が最も楽しめる挑戦を探すのだ。


 ――だから――


 「さて、休憩も終わりかな? そろそろ次行くか。 続けてミッション行く?」

 「いや、次はユニオン戦をやろうかなって思ってる。 新学期始まったし、三人が揃っている間にある程度はやっておきたい」

 「いいよ~。 エネミーばっかりやと飽きるしたまにはプレイヤーとも遊ばんとね!」


 


 ログアウト。

 ユニオン戦を終えてヨシナリは生身の嘉成へと回帰する。

 固まった体のあちこちを捻って解す。 ウインドウを開いて授業の映像を確認しながら、溜まっている課題のリストをチェック。 部屋から出なくてもこうして学生の本分を全うできるのだから脳内チップ様様だなと思いながら問題を解いていく。 地域によっては昔ながらの直接通って机を並べる学校も多いが、嘉成は脳内チップを利用した学習カリキュラムを消化する事で卒業資格が得られる。


 外に出なくて済む上、生活が自宅内で完結するのは彼の性に合っていた事もあって、少々味気のない学生生活もそれなりに満喫していた。 それに親との約束でもある。

 ゲームを好きにやる代わりに学業を疎かにしない。 折角、上手く行っているのだ。


 このタイミングで取り上げられたら頭がどうにかなってしまうだろう。

 こういうのは闇雲にやるから変に飽きたり詰まったりするのだ。

 面倒な事は細分化して終了までのロードマップを事前に作成しておけばいい。


 そうする事でモチベーションを一定に保ち、分かり易く成果を出して達成感も得られる。

 これはゲームであろうとリアルであろうと変わらない。

 予定通りに決めた量の課題をこなして休憩。 何の気なしにニュースサイトをチェックする。


 今日のトピックスは月面で新しい採掘基地が完成したらしい。

 それにより資源の年間採取量が大きく増えるとあちこちで喜びの声が上がっているとの事。

 嘉成はふーんと流して次の記事へ。 宇宙開発の為の開拓船団が本日出発。


 他は若者がゲーム中死亡するという事故が発生。 

 原因は不明。 VRゲームは若者の間で大流行しているのでプレイの際には接続状況などをしっかりと確認するようにと注意喚起がされていた。 嘉成はそれはやだなぁと思いながらウインドウを消して食事の為に席を立った。

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