第54話

 巨大な多脚戦車が戦場を闊歩し、上部に取り付けられた砲が砲弾を吐き出す。

 そんな中、マルメルの機体が銃撃を繰り返して走り回る。

 複数いる多脚戦車はマルメルを狙って砲口を向けようと旋回。 大きく隙を晒した戦車に遠くから銃弾が突き刺さる。 一発、二発と近い位置に何度も炸裂した大口径のライフル弾は戦車の装甲を貫通し、三発目で致命的な損傷を与えたのかその動きを停止させた。


 ヨシナリは狙撃地点からひたすらに狙撃を繰り返していたが、Ⅱ型に機種変更を行ったマルメルの活躍は素晴らしい。 元々、走り回って弾をばら撒く戦い方は得意と言っていたが、彼には遊撃戦の才能がある。

 敵の意識を集めつつも完全に捕捉されずに絶妙にあちこちを走り回り、無視できない攻撃を繰り返す。


 ふわわも似たような事が可能ではあるが、彼女はマルメルとは少し毛色が違う。

 多脚戦車を撃破するとマルメルが次の獲物の気を引く為に移動を開始。

 弾を使いながら移動しているので時間が経過すればするほど身が軽くなり、動きの鋭さも増している。


 劇的な能力の向上と言っていいだろう。 

 機体が違うだけでこうも差が出る事にヨシナリは少しだけ感動した。 

 つまりは自分もⅡ型になればあれぐらい動けるようになるという事だ。


 そう考えるとこの先に期待ができるというものだ。

 ただ、機体の更新はふわわが先なので、自分の番は最後となるのだが。

 ともあれ、マルメルのパワーアップのお陰でヨシナリは完全にノーマークなので弾が一切飛んでこなくなった。 お陰で楽に敵を仕留める事ができる。


 以前に三人で回していたミッションの上位互換だったのだが、この調子だと危なげなくクリアできそうだ。 報酬額を考えればふわわの装備を揃えられる日はそう遠くないだろう。

 ヨシナリはそんな事を考えながらそろそろ半数を切った敵の多脚戦車に狙撃銃の銃口を向けた。

 

 

 「いやー、Ⅱ型になると全然違うね! 楽々だよ~」


 しばらくの間、同じミッションを回していた三人だったが、ふわわはマルメルの活躍に素直な賞賛を送っていた。

 

 「いや、Ⅱ型やばいわ。 Ⅰ型と比べて動きのキレ違いすぎ。 何より、シールドで敵の攻撃一回は完全に防げるから気持ち的にもかなり楽になるしありがてぇ。 後はエネルギーライフルで敵の装甲を貫けるのもいいな」

 「とどめを刺してくれると俺も楽できるから助かってるよ」


 ヨシナリとふわわにちやほやされている事に気を良くしたのかマルメルは上機嫌だ。

 ただ、Ⅱ型の性能のお陰である事と、二人が快く使わせてくれた事が大きいのでマルメルは内心で感謝しつつもっと頑張ろうと少しだけ気を引き締めていた。


 「取り合えず後、十回も回ればふわわさんの機体と装備を揃えられるだけの金が溜まるからそこで一区切りだな!」

 「ヨシナリ君は良いの? 何やったらウチは後でもええよ?」

 「大変、魅力的な提案だけどチームとしての強化が主目的なので被弾率の低い俺は最後ですよ。 本音を言えば大出力のエネルギーライフルが欲しい所ではありますが、Ⅰ型だとくっそ高い上に嵩張る外付けのコンデンサーやジェネレーターが要るのでⅡ型にしてから揃えるつもりです。 今の内にぶっちゃけときますけど一番金がかかるの俺の装備ですからね。 ふわわさんもⅡ型になったらマルメルと一緒に俺の為に馬車馬のように働いてくださいよ」

 「あっはっは、そういう事なら遠慮なく貰っちゃおうかな~。 まぁ、パワーアップしたらウチ、これまで以上に頑張っちゃうから期待してていいよ~」


 そんな和やかな一幕を挟みつつ。 三人は再度、ミッションに潜る事となった。

 ふわわの装備が揃ったのはそれから二日後。 そしてヨシナリとマルメルの夏休みが終わったのも同じころだった。



 「じゃん! どうよ! ウチの新生「ふわふわ」の雄姿は!」


 Ⅱ型へと機種転換を済ませたふわわが自慢気に自身の機体を披露する。

 それを見てヨシナリとマルメルはお~と拍手。 気分を良くしたふわわが上機嫌で機体の解説を始めた。


 相変わらず装甲は最低限、背中のブースターに資金を多く割り振ったので小型、高出力の物を選んで動きに干渉しない、細かくそして鋭く動くを両立させた優れものと本人は豪語する。


 そして武装面だが、Ⅰ型時代から使っていたダガーはそのままに腰には短めのエネルギーブレード。

 これは柄の部分にカートリッジを挿入する形で使用するので連続使用時間は短いが切れ味は実体剣の比ではない。 大抵の物体は簡単に切断できる代物だ。


 「あんまり長いとちょっと使いづらいから短めのを買ったよ!」


 腕には巻き取り式のアンカー射出装置。 相手を拘束したり態勢を崩すのに使用する。

 Ⅰ型の時も使っていた装備で本人曰く回避などにも使える便利品との事。

 

 「そして~。 目玉がこれよ!」


 ふわわの機体が足を持ち上げてつま先を見せるとエネルギーで形成された刃が現れた。

 

 「おぉ、暗器ってやつですか!」

 「近い感じだね! つま先と足の甲に仕込んでるからこんな事もできるよ~」


 機体は出現したターゲットに鮮やかな軌跡を描いて蹴りを放つ。

 次の瞬間、ターゲットは綺麗に両断された。 それを見たマルメルは僅かに声を引きつらせる。


 「うわ、エグいな……」

 「俺としては回し蹴りの動きが滑らか過ぎてすげえってなったわ。 ってかトルーパーであんな柔らかい動き出来るんだな」

 「そう? 慣れれば割といけるよ」

 「ってか前々から気になってたんですけど、ふわわさんって武道か何かやってる?」

 「実家が道場やってるよ~」

 

 彼女の動きがあまりにも洗練されているのでリアルで何らかのスキルを習得してそれをゲームに持ち込んでいるであろう事は想像できてはいたが、改めて聞くとなるほどと思った。

 

 「この電脳が幅を利かせる世界でもやっぱり武道の類って需要があるんですね」


 言い方。 

 ヨシナリはマルメルに言葉を選べと肘で小突くが特にふわわは気にした様子は見せなかった。


 「まぁ、義体やらなんやらでこの手の技能習得は間接的にっていう風潮はあるけど、本当に強くなりたいなら実際に学んだ方が身になると思うよ?」

 「そうなんですか?」


 そう尋ねてヨシナリはしまったと後悔した。

 何故ならふわわは機体を引っ込めて「聞きたい?」と詰め寄ってきたからだ。

 流石に聞きたくないとは言えなかったので、彼女の話に耳を傾ける事となった。

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