第4話 大阪旅行

 翌日、僕たちは第2多目的室に集まった。作戦会議のためである。ヒマリは準備してきたプリントを僕とアカネに配った。

「大阪行きの計画を立ててみました。プリントを見ながら聞いてもらえればと思います。

 まず、7月28日の朝8時45分に名古屋駅に集合します。そして9時5分発の新幹線で大阪に向かいます。10時頃に着く予定です。そして大阪駅から電車に乗って堺駅まで行きます。堺までは約30分といったところですから、12時頃には堺に着いているでしょう。

 堺に着いたらまずはホテルに行って荷物を置き、近くの飲食店で昼食を食べ、15時半頃まで待ちます。開店時間の16時頃にライブハウスに着きたいので。

 そこで苅谷さんが来ているかを聞き、もし来てなかったら受付の方に伝言をしてもらうなどして、なんとか苅谷さんに会う約束を取り付けましょう。

 そもそもライブハウスに一度も苅谷さんが来てなかった場合は……その時考えましょう。こんな感じですが、どうですか?」

 アカネはキリッとした顔で、

「つまり、昼食の後に観光ってわけね」

 アカネ、遊びたい欲が丸出しだ……まあ、どうせ時間を潰すなら観光をすればいいだろうけど。

「ホテルはどうするの?」

「あまり費用をかけたくないのでビジネスホテルになりますね。3人ですから2部屋とることになるでしょうか」

 2部屋だと1人1部屋と2人1部屋という使い方になるか……

「つまり、僕1人で1部屋とアカネとヒマリの2人で1部屋ってことだね」

 するとヒマリはキョトンとして、

「えっ、私1人で1部屋とコーセーさんとアカネちゃんのカップルで1部屋じゃないんですか?」

 ヒマリ、カップル+1人のこの構図をいつも気にしてたのか……何だか申し訳ない。ただ、高校生の男女が1部屋はちょっと……

「いくらカップルとはいえ、男女で1部屋はちょっとなぁ。ここは男女で別れようよ」

「そんな遠慮なさらないでくださいよ。旅先ぐらい恋人同士でゆっくりなさったらどうですか?」

 お互い一歩も引かずにいると、それを見ていたアカネが頬杖をつきながら言った。

「3人1部屋でよくない?」

 おい。何が「よくない?」だ。それは一番まずいだろう。

「だって、コーセーも私も、ヒマリがいるからって全然邪魔だとは思わないでしょ?」

 それはそうだ。僕は頷く。

「で、ヒマリも別にコーセーと相部屋でも気にしないでしょ?」

「まあ、そうだね。彼女持ちのコーセーさんがまさか私に手を出すとは思えないし」

 いや、信頼してくれてるのは有り難いが、そこは否定してくれ。

「それに、費用も1部屋分浮くからいいでしょ?」

 まあ確かにそうなんだが……

「というわけで3人1部屋で決定ー」

 決定されてしまった。本当に大丈夫だろうか…… 

僕は大きなため息をついた。仕方がない。

「分かったよ。3人1部屋で泊まれるところがあるかどうか分んないけど、とりあえず僕が探してみるよ」


 あとは、苅谷さんがライブハウスに行ったことがなかった場合、どうするかだ。住所が分からないから、高校を中心に探すことになるだろうか。それとも……

「それとヒマリ、当日一つ持ってきてほしいものがあるんだけど、いいかな? もしもの時に使うかもしれないからさ」

「いいですけど、何ですか?」

 そう、もしも苅谷さんがライブハウスに来ていなくて、学校からも手がかりが得られなかった場合、この手段に頼ることになるだろう。そんなことがないと思いたいが……


 7月28日の朝8時30分、僕らは名古屋駅の銀時計の前に集合した。ヒマリは背中にギターを背負っている。

「ギター持ってきましたけど、一体何に使うんですか?」

「苅谷さんをギターでぶん殴って、マシロ先輩の敵をとるんじゃない? まさにロックね」

 僕とヒマリは拳骨で同時にアカネの頭を軽く叩く。この流れもだんだん鉄板化してきたな。

「もしもの時に使うのさ。まあ、その時になったら教えるよ」

 ヒマリは不思議そうな顔をした。もしもはないに越したことはない。

 僕たちは予定通り9時5分発の新幹線に乗り、大阪に向かった。「大阪旅行」の始まりだ。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る