第3話 親友
「苅谷さんが、お姉ちゃんを、殺した?」
ヒマリは口を開けたまま呆然としている。
「本当に殺したわけじゃないさ。だってマシロ先輩は自殺したんでしょ? それに、前田さんに言っている時点で、故意にマシロ先輩を自殺に追い込んだとは考えにくい。つまり、結果的にマシロ先輩を自殺に追い込んでしまった。それを苅谷さんは後悔しているってところじゃないかな?」
僕がそういうと、ヒマリは正気を取り戻したような顔をした。僕の言葉を聞いて、前田さんは大きく頷く。
「私もそう思うよ。だってミドリはマシロの親友だったんだ。アイツがマシロを殺すわけないだろ」
ミドリとは苅谷さんのことだろう。「友達」ではなく「親友」。よほど仲が良かったのだろう。
「そうですよね。すいません。あまりにびっくりしたもので」
比喩とはいえ、姉が親友に殺されたと聞かされれば動揺するのは当然だ。しかし、苅谷さんとマシロ先輩の間に一体何があったんだろう?
「それとこれ」
そう言って前田さんはヒマリに紙切れを渡した。
「マシロが最後にライブハウスに来たときに、『もしヒマリがライブハウスに来たら渡してくれ』って言われてたんだ」
紙切れにはこう書いてあった。
「ヒマリ、一生のお願いをもう一個追加させてちょうだい。ミドリに会ってきてほしい。貴女自身が私からの『最期のメッセージ』よ」
『最期のメッセージ』?いったいどういうことだろう?
「でも、その苅谷さんって人、いま大阪にいるんでしょ? しかも連絡もとれないとなると、話聞きに行くのは難しそうだね」
アカネがヒマリ言った。確かにそうだ。せめて苅谷さんが大阪のどこにいるのか分かればいいのだが……
「前田さん、苅谷さんのいまの住所って知ってますか?」
僕が尋ねると前田さんは首を横に振った。
「残念ながら知らないよ。でも、堺のあたりだってのは聞いた。あそこには私の知ってるライブハウスがあってね、大阪に行ってもそこで音楽続けられるなって話したんだよ。それと、転校先がそのライブハウスの近くがとも行ってた」
そう言って、そのライブハウスの名前を教えてくれた。これだけ情報があれば、もしかしたら苅谷さんに会えるかもしれない。そう思っていると、ヒマリの目が輝いた。同じことを思ったらしい。
「私、苅谷さんに会って、ちゃんとお話を聞きたいです。夏休みなので、時間はたっぷりあります。それで、その……」
ヒマリは僕たちの方を気まずそうに見た。アカネはふふっと笑って、
「どうせ夏休みには何の予定もなかったし、せっかくだからどこか行きたいと思ってたのよね。いいじゃない、大阪旅行」
僕も大きく頷いた。ヒマリは満面の笑みでお礼を言った。
「アカネちゃん、コーセーさん。本当にありがとうございます!」
前田さんは笑みを浮かべながら小さな声で呟いた。
「よかったね、マシロ。ヒマリちゃんにも親友が出来たみたいだよ」
僕は家に帰ると、ライブハウスでの出来事を回想した。ライブでは、みんなが輝いて見えた。好きなことを好きなようにやっていて、とても楽しそうだった。
僕はどうだろう? 自分が好きだと思うことを自由にやれているだろうか? ステージ上の彼らみたいに人生を満喫出来ているのだろうか?
確かに、文芸部で過ごす時間はとても楽しい。アカネと二人きりでいる時間もとても充実したものだと思う。でも、そこに僕の気持ちはあまりないように感じる。僕の気持ち、僕が好きなこと、僕がやりたいこと……僕は勉強机の横の壁に貼られた世界地図を眺めながら考えた。そして思った。
僕は僕自身のことを、実は何も知らないのではないか?
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