第7話 ウシダ

「三つ目は、失踪者の心のすきまをみつけることだ。これは初対面のぼくには言いづらい、とてもプライベートでデリケートな話になってしまうと思うけれど」

「こころのすきま、というのはどういうことですか」

「負の感情のことさ。なんていうか、むつかしいね」

 ウシダはどうやら物理学はお手の物でも、ひとの感情論については線を引いて遠ざけている様子だった。あいつは社会から離脱したぼんぼんなのさ。というウサギ先輩の声が聞こえてきた。

 さっき聞いたところによると、ウシダとウサギ先輩は、大学の同級生らしかった。

「なやみごと、とでもいうのかな。アヅマくんは、なにか悩んでいた様子はなかった?」

 俺は、あの日の諍いをだれにも言うつもりはなかったので、さあ、わかりません。とあいまいに答えて、目を伏せた。

「ほんとうに?」

 ウシダは勘良く、疑って来る。

「ほんとうに」

 俺たちは酒を少しすすった。

 それで、その日の夕食はお開きになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すきまをぬけた、その夏は銀河の果て 星! @f-yo-sei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ