すきまをぬけた、その夏は銀河の果て
不溶性
第1話 〈消える〉
街の中心にあるバスターミナルで、人が〈消える〉事件というのは、昔から頻繁に起こっていたそうだ。
そっと静かに、人々は姿を〈消した〉。
日本の年間行方不明者数は、約八万人である。この街で人が〈消える〉事件の異常さは、失踪とは別のところにある。街の、それどころか日本の誰もが、この街で人が消えることに対して、恐ろしく無関心なのだ。
〈消えていった〉人々というのも、俺が調べて分かる範囲では、薄暗い背景を背負った、社会との相互承認がない人ばかりで、嘆く誰か、探す誰か、待つ誰かもいなかった。
人々の気質柄が流動的なその街の構成員は絶えず入れ替わっていった。だから誰も失踪者に注目しない、と思っていたのだ。
俺も当たり前に、人が〈消えて〉ゆくことを受け入れていた。
茹だるような夏のあの夕方に、アヅマが目の前から〈消える〉までは。
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