第三皇女の生存戦略
はゆ
私のメアリは欠陥品
第三皇女エリザヴェータが、私の立場と名。
皇帝の三番目の娘として生を
「おあおゔおあいあゔ」
起床の挨拶を聞き、
メアリは彼女の名前ではなく、
「おはよう」
挨拶を返すと、メアリがカーテンを開ける。
私が目覚めていないのに、勝手にカーテンが開くことは無い。
「いいえんいえゔえ」
メアリが天気を知らせる。
「そうね」
窓の向こうは快晴。まさにお出掛け日和。
差し込む日差しがほんのり暖かく、心地良い。
メアリが私に向けて放った言葉は、『おはようございます』と『いい天気ですね』。
私のメアリは耳が聞こえないため、滑舌が悪い。
最近ようやく言ってくれるようになったのが、挨拶と天候を伝える
私とメアリの付き合いは長くない。出会ったのは一ヶ月前。
彼女は、第一
出自は、男爵家の五女。爵位は最下位の家系。とはいえ俗にいう貴族令嬢。にも拘わらず、欠陥があるという理不尽な理由のみで、処分されそうになっていたので貰い受けた。
出会ったのは、彼女が処分されるため、騎士に連行されているとき。
私と彼女の外見が似ている。面識も接点も無いけれど、他人とは思えなかった。
漠然と、見過ごしてはいけない予感がした。
すれ違って二歩進んだところで足を止める。
「止まりなさい。彼女に何をするの?」
「処分いたします」
騎士が人間を処分するために連行する先は、処刑場と決まっている。実施するのは殺処分。つまり、彼女は殺される程の悪事を働いたということ。
根拠は無いけれど、そんなことをした人間には見えなかった。だから騎士に尋ねた。
「彼女は何をしたの?」
「欠陥があるため、処分するよう
どんな人間にでも、多少なりとも欠陥はある。だから欠陥があること自体は問題ではない。
でも、私の質問には答えていない。
「何をしたかを答えなさい」
「応答出来ない欠陥が……」
歯切れが悪く、しっくりこない返答。
彼女が何かをしたのではなく、出来ないというだけ。出来ないことなんて、誰にでもある。そんなことは、彼女の命を奪って良い理由にはなり得ない。
「出来ないではなく、何をしたかを尋ねているの! あなたも応答出来ていないのだから、処刑しないといけないわね。死にたくなければ、直ちに彼女を解放しなさい!」
たじろいだ騎士から、彼女の手を奪い取り走る。
騎士の死は、彼女の死を諦める理由にはならない。私は躊躇なく彼女の手を引き、自室に連れ込む。騎士が勝手に入室してくることは無いから一安心。
彼女に事情を尋ねた。けれど、無応答――聞き取れなかったのならば、質問内容を聞き直すだろう。しかし、彼女は聞き直そうとせず、悪びれる様子も無い。
彼女の目をじっと見つめ、改めて同じことを問う。すると、身振り手振りで書く物が欲しいと訴えた。その様子を見て、欠陥と言われていたものが聴力だと確信した。
彼女は無視しているのでも、応答する気が無いわけでもない。
彼女自身に問題が無いことはわかった。
けれど解決しなければならない問題は、死ぬ人数が増えただけで、彼女の死は免れられていないこと。
私は当時のメアリに指示し、彼女に私の服を着させた。着替えが終わった彼女と共に、
「彼女を、私のメイドにして」
「それは処分するよう命じた欠陥品だ。何故お前が連れておるのだ!?」
「私のメイドにしてと言っているの!」
「
皇帝から、従わない選択肢を与えられた。
「そうするわ」
「いやっ、待て。言い過ぎた」
「
「皇帝って……いつも
「
「それは許可出来ぬ」
「本日付けで、私の支配下に入れなさい。孫子の兵法に『
「なるほど……」
「用件はそれだけよ。暫くは城下に居てあげるわ。その間に送りなさい。わかったわね?」
「うむ」
彼女の手を引き、
これがメアリとの出会い。
第三皇女の生存戦略 はゆ @33hayuu
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