受け継がれた才能を捨てて

泡沫 知希(うたかた ともき)

第1話 回り始めた歯車

私はいわゆる転生をしたらしい。高熱を出して、生死の狭間にいる時に前世を思い出した。心配をかけた今の家族に対して、混乱していた私は


「だれですか?」


他人行儀な話し方をした時に、何度も医者に問い詰める父親、それを止めようとする母親。私の兄弟たちが、私に何度も質問攻めにあった。

記憶の整理がついてから


「パパ、ママ、にーちゃんに、おねーちゃん、だいじょうぶ!へんなゆめみてた

だけだから」


今の記憶を頼りに話せば、力強く抱きしめられた。涙を流して喜ぶ家族に、私はここで新しい人生を送るんだなと実感したのだった。



私は家の近くにある大きな木の下で寝転がっていた。今後の方針を決めるために1人になりたかったからだ。

熱が下がれば、すぐにここはどういう所なのかを調べるために、本棚を漁ったが読めず。しぶしぶ、兄弟がどういう勉強をしているかを見たり、聞いたりした。

そして、この世界は、魔法や剣が定番であった。いわゆる、異世界転生で定番の世界観だった。

前世でネットをあさった時に見た、神童展開とかするんじゃないかと期待したのだが、それはもう無理だと諦めていた。

だって、家族びいきもあるかもしれないが、家族みんな神童であった。勉学や、剣術、魔術など、それぞれで秀でているものを持っていた。私はそれを見て、両親や、兄と姉のようなものを持っていないとすぐに悟った。

とりあえず、迷惑はかけないように生きようと方針を3歳ながらにして決めたのだった。まぁ、前世の年齢を足せば…。辞めよう。子どもらしく振る舞うためには、考えないことにしようと決めた。

この世界では、前よりもいい人生を!



あれから4年ほど経ち、7歳になった。年の離れた兄と姉たちが全員、家を出て王都で働いたり、学校に通うことで、私と両親だけの暮らしになった。

毎回、精神は身体に引っ張られて泣きじゃくった。1番歳の近い姉が家を去る時は


「行かないで!いやだ!」

足にしがみつき、離れないようにした。しかし、父親にはがされ


「だめだろ、リリア」

「いやだ!パパ!きらい!」

「ウッ…」

「パパ泣いてるよ〜」

「しらない!」


今までで1番抵抗をしたのだ。姉は私を抱きしめて


「休みには帰ってくるから、ね?」

「そういって、みんなかえってこない」

「ちゃんと帰ってくるから、待ってて」


1番優しい姉の言葉を信じることにした。大人であった記憶があるのに、泣いてしまう私自身が情けなくなって、また涙が溢れ出てくる。

姉から離れて母親に隠れて、泣いている姿を見せないようにした。姉は私に近づいて、小さなぬいぐるみをプレゼントしてくれた。


「この子と一緒に待っててね」

「…う、ん…。ありがとう」

「じゃあ、行くね。お父さん、お母さん。」

「がんばって!」

「ありがとう!頑張ってきます!」


元気に玄関を出ていった。私は母親に抱っこされて


「よく耐えたね。頑張ったね」

「うっ、うわあああん。やっぱりいやだよ!」

「偉いな、リリア」


母親と父親に慰められながら、泣きまくった。体に引っ張られて泣く悔しさに対しても泣いてしまうので、1日中泣いていた。

その日の夜は、もらったぬいぐるみを隣に置き、今まで兄弟から渡されてきたプレゼントを全てベッドに置いて寝た。私は永遠の別れじゃないから大丈夫だと考えて、目をつぶった。ベッドの温もりに包まれ、優しさに包まれてぐっすりと眠るのであった。


またまた時間が経ち、あの日から1ヶ月の日であった。父親は、王都で騎士団長だったらしいのだが、王様から戦争に参加して欲しいとの勅命を受けた。父親は断ることが出来ないので、すぐに支度をし始めることになった。私は戦争の恐ろしさを前世で知っている。授業でも、体験者の話も聞いていたから、もし亡くなったらと思うと、


「パパ、いかないで!しんじゃうよ!」

「なんだ、心配してくれるのか?」

「だめだよ!けがしちゃうし…、いやだよ!いかないでぇ」


両手を使って父親を止めようとするが、母親に抱っこされてしまう。


「だめでしょ、リリア」

「いやだよ!なんでなの?せんそうはいけないことなんでしょ?なんで?」

「そうなんだけどなぁ、大人の事情で行かなきゃならないんだ」


優しく説明をするのだが、そんなことは重々承知している。私は精神年齢では、大人なのだ。なのに、涙がまた溢れ出てくる。母親の肩に顔を伏せて、必死に堪えると


「大丈夫だ。パパはな、1番強かったから騎士団長をやってたんだ。だから、死ぬことは無い。心配しなくても大丈夫。ちゃんと帰ってくるぞ」

「そうよ、パパは家ではあんまりだけど、騎士団長の頃は凄かったのよ」

「ママ!」


父親に頭を撫でられ、母親には優しくトントンと背中を叩かれる。そのことにまた涙が溢れそうになる。まだ小さな手で涙を拭って


「ちゃんとかえって、きてね…」

「おう、大丈夫だ!ママと一緒に待っててくれ」

「う…ん」


父親も家を去ってしまったので、母親と2人きりの生活がはじまった。不便は無かったのだが、私には寂しかった。

母親は私が寂しくならないように、魔法を教えようとしたが、全く魔力が無いため、呪文を覚えるのをした。母親が楽しいか不安そうだったが、私には珍しいものだったので、夢中で本を読んでいた。



またまた時間が過ぎ、半年経った。私は中級魔法の呪文をだいたい覚えた。使えないのは悲しかった。しかし、兄や姉が呪文を詠唱した時に、どんなことが起こるかを言って驚かせようと考えていた。

コンコンと玄関をノックする音が聞こえたので、返事をして開けた。


「お母さんはいるかな?」


父親が出ていく時に着ていた服と似た人が5人いた。私はなんとなく嫌な予感がして、固まっていると


「どうしたの?」

「ここはホーユリ・スイトローのお宅で合ってますか?」

「えぇ、合ってるわ」

「この度は、ご冥福をお祈りいたします。我々の力が及ばず、遺品しか持ち帰ることが出来ませんでした!誠に申し訳ございません」


周りの温度が急激に下がったのか、私の体が冷えていくようだった。母親は玄関で膝から崩れ落ち、私が代わりに父親の遺品である剣と、結婚指輪を受け取る。

私の体には似合わぬ剣を持ち、母親に指輪を渡す。母親は、手に持った指輪と嵌めている指輪を見比べている。そして、涙を流すのだった。

私には未だに信じられず、涙も何も流れなかった。嘘にしか聞こえないのに、母親の泣く姿に現実かさえ疑いたくなったのだった。頬を引っ張るのだが、痛い。

それでも信じられない、受け入れられないけど、母親を慰めようと思い、傍によって背中をさする。それを見ていたであろう父親の遺品を持ってきた人たちが、


「遺体を持ってこれなくてすみませんでした。また、葬式の時に来ます。この度はご冥福をお祈りします」


深くお辞儀をして、敬礼をして扉を閉じていった。私は言葉をかけることが出来ずに、閉まる音を聞いた。しかし、あの人たちもわざわざ遺品を持ってきてくれたのに、挨拶も何も出来なかったと思って、追いかけていった。

角を曲がろうとすれば、楽しそうな声が聞こえてきた。


「騎士団長を殺す時は大変でしたねぇ」

「そうだな、歴代最高の戦歴を持っていたからな」

「なぜ、殺す命令が下ったんですかね」

「知らねーよ。理由なんて関係ない。給料アップと報酬が貰えるからな」

「悪っすね」

「どっちでもないだろ。お前らだって命令を受けたんだろ」

「そうっすけど〜」


耳を疑った。先ほどの言葉は嘘だったのか?私は体が火照るようだった。父親は殺された。それも同胞たちに。熱が頭と体を動かして、私は家に戻っていた。母親はまだ動けていなかったが、そんなのなんて気にせずに父親の遺品となった剣を手に取り、道のりを戻る。重いはずだが、私には重さなんて感じなかった。

走って追いつくと、背中に思いっきり剣を突き刺した。


「うぐっ…」

「大丈夫か?おい、てめぇって!?」

「騎士団長の娘がなぜ?」

「おい、早く殺れ!」

「もしかして…」


色々と叫んでいたが、私には何も関係なかった。男たちが攻撃するのを避け、流れるように、1人1人丁寧に心臓を一突きする。私は身体能力が上がったようで、攻撃なんて当たらなかったし、重たい剣も元々体に付いていたのではないかと感じる。全て終われば、道は赤く変化していた。私は刺す感覚を知ったが、恐怖を憶えなかった。むしろ、すっきりしていた。冷静な理性は、これどうするんだよと考えていたら、


「リリア」


母親が私の後ろに立っていた。私はあぁ、終わったと背筋が伸びる。


「…やはり、リリアなのね!」


泣いていた顔から口角を上げて、声を震わせる母親。私は予想と違う反応に鳥肌が止まらない。


「貴方は濃い血を引き継いでいたのね!大丈夫よ、これは私たち先祖から受け継いだものなの。リリアが持っていて良かったわ」

「ママ、なにいって…」


父親が死んでおかしくなったと思ったのだが、それも違う気がしてきて


「リリアがこの状況に出来たのは、貴方が引き継いだ才能よ!あぁ、早くここを去らなければ!」

「ママ!わからないよ!なにいって…」


母親に手を引かれて、家へ戻った。

そこから、運命の歯車は大きく狂い始めたのだった。

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