片利共生~永遠の片想い~
こばおじ
第1話 友人
「ほんとうにムカつく」
友人は言った。
なんだか彼氏と喧嘩してひどい別れ方をしたらしい。
よく見ると友人は目の周りを大きく腫らしていた。
一夜中泣いていたのだろう。
「どうしたの?」
私は友人に訊いた。
「彼氏が全然会ってくれないから、耐えられなくて"どうして会ってくれないの?"って問い詰めちゃった」
「すごく寂しかった。他に女ができたんじゃないかって疑心暗鬼になって、彼氏を信じられないそんな自分も嫌だった」
「ずっと我慢してた。でもどうしても耐えられなくて・・・。そしたら、"一緒にいられない"って振られちゃった・・・」
友人はそう言ってその場で泣き出してしまった。
私は綺麗に折り畳んだハンカチを取り出し、友人に渡した。
「ありがとう」と友人は手に取り、シクシクと泣いている。
私はその姿を見て安堵した。
私も3ヶ月前に彼氏に振られたのだが、今でもその"カレ"とは友達として関係が続いている。
きっと友人とその彼は修復が難しいだろうと思った。
友人の姿を見ればだいたい察しがつくが、友人とその彼氏はお互いに言うことを言い尽くし、溜まりに溜まった鬱憤をぶつけあったのだと思う。
してほしかったこと、してもらえなかったこと、してあげたこと、何もしてくれなかったこと。
それら言葉が宙を舞い、罵詈雑言の嵐となって関係をめちゃくちゃにしたのだろう。
私と元カレはそうはならなかった。
私は最後まで笑顔で対応し、"関係が終わっても友達のままでいようね"と私から提案した。
元カレが私を振った理由は深くまで追及していない。
元カレが私とはやっていけないと判断したことに対し、私がいくら許しを請いたり弁明をしてもぎくしゃくするだけだと判断したからだ。
言いたい気持ちもあった。ぶちまけたい気持ちもあった。
でもそうしなかったのは振られたからといって全てが終わるわけじゃない。
私はカレのことが好き。
関係が終わったらその気持ちが潰えてしまうのは"好き"と言えるのだろうか?
カレにはこれからも幸せでいてほしいし、なってほしい。
その気持ちはずっと変わらないと思う。
私は、その時私がした選択を改めて間違っていなかったんだと思った。
カレの友達で居続けられる未来に感謝した。
翌日、友人は明るい顔をしていた。
「昨日は話を聞いてくれてありがとう」
友人は私に感謝してきた。
「元気になったみたいだね、良かった」
そう思った気持ちは本当だが、同時に腑に落ちない、納得できない考えが沸いて出た。
でもそんな考えは持ってはいけないとすぐに自分を諌めた。
私は友人の慰労会を提案し、今晩二人で飲みに行くことになった。
元彼氏の愚痴を聞かされるのだろう。
でもそれで友人がスッキリできるのなら、と私はハンカチを受け取った。
私と友人はお互い大学の講義が終わった後、最寄り駅付近の居酒屋に足を運んだ。
席へ着いて早々にお酒を注文し、乾杯の合図と共に恋愛話になった。
友人は散々元彼氏の愚痴を話した。
私がそれで? とかあなたは悪くないよとか話を聞き出そうとしたからなのかもしれない。
散々言い終わったのか、友人は私の最近の状況を訊いてきた。
友人には元カレとは3ヶ月前に関係が終わっていることはすでに話していた。
「――で、新しい彼氏はできたの?」
3ヶ月も経てば新しい彼氏ができていてもおかしくはない。
友人もそれを見計らってか、初めてその意図の質問をしてきた。
「ううん、まだいないよ」
「え、なんで?」
「今はまだいいかなって」
「あれからでも3ヶ月も経ってるじゃん」
「そうだね」
「もうすぐクリスマスだよ?」
「そうだね」
「――もしかして、まだ忘れられないの?」
「・・・そんなんじゃないよ」
「もしかして、まだ会ったりしてるの?」
「・・・だからそんなんじゃないって」
「だとしたらその元カレまじ最低クズ野郎じゃん」
「――っ」
「自分から振っておいてキープし続けるなんて最悪だよ!」
私は友人のその言葉に"たしかにそうかもしれない"と思うところはあった。
自分でもわかっていることだ。
でも私はそれを理解しながらも"カレと歩む未来"を選んだ。
私がその道を選択し、カレはそんな私と今でもこうして仲良くしてくれている。
私は3ヶ月前にした決意を思い返し、"私は間違っていない"ことを改めて再決意した。
「――ちがうんだよ。私がカレに"これからも仲良くしてね"ってお願いしたんだよ」
私は続けて言った。
「はじめてこんなに好きになれたヒトだったんだ。あんなに愛し合っていたのに、お互いやっていけないってわかったからといって"好き"って気持ちは終わってしまうのかな?
「別にまた付き合いたいとか付き合えたらいいなとか、近くにいてまた好きになってもらおうとか、そういう考えじゃないの」
「一度、そのカレの未来に私は不必要だって言われたんだから、私がそんな要求をしていいはずがないでしょ?」
「カレとは仲の良いお友達。カレは優しいヒトだから、私とまだ友達でいてくれている。だから全然最低でも最悪でもないんだよ」
私は友人と自分自身に向けて言葉を反芻しながら言い聞かせるように話した。
友人は片手に持っていたお酒をカウンターにゆっくり置き、口を開いた。
「そっか、ほんとに好きなんだね、カレのこと。悪く言ってしまったこと、謝るよ。ほんとにごめん」
「――いや、別に大丈夫だよ。こっちこそなんだか熱く語ってしまってごめん。我ながらけっこう恥ずかしい」
ふふふと互いに微笑む。
友人の頬はいつの間にか桜色に紅潮していた。
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