第4話
学園へと続く道を馬車で移動し、いつもの教室で一日を過ごして一度屋敷に戻る。
ここまでは大体一緒だ。
「パーティー、楽しみだね」
ただ9周目と違うのは隣にセレナが居るということ。
9周目の私は登校拒否どころか、真っ先に闇の魔女となって卒業記念パーティーを襲撃。その勢いのままに世界を混沌の渦へと
「そうね。セレナはピンク色のドレスを選んだでしょ」
「なんで知ってるの!?」
相変わらず、可愛い反応をしてくれる。
私は元々一人っ子だから最初は妹との関わり方がよく分からなかったけれど、10周目となると手慣れたものだ。
一緒に帰宅し自室へ入るとすでにドレスが準備されていた。
綺麗に飾られているのは肩の出ているパステルブルーのカラードレス。いわゆるオフショルダードレスと呼ばれているものだ。
「久しぶりに見た気がする」
何度も袖を通したが感動したのは1周目だけで、それ以降は雑に着ていた気がする。リリーナに転生するよりも前の記憶が正しければ私のドレスは母が選んだものだ。
セレナのドレスは本人に選ばせたのに、私には選ばせてくれなかった。こういう小さな積み重ねが絵本の中のリリーナを闇の魔女にしてしまったのかもしれない。
「お帰りなさいませ、リリーナ様」
「ただいま」
朝と同じ専属のメイドさんに手伝ってもらいドレスを着て、髪を整えてもらう。
さすがに長髪を振り乱しながらパーティーに参加するわけにはいかないので、編み込みとゆる巻きにした金髪をアップスタイルに仕上げてもらった。
「いつにも増してお美しいです」
「ありがと。あ、そうだ。セレナとどっちが綺麗?」
「それはセレナ様でございます」
そうだよね。
余計な質問をして心の傷をえぐる必要はないのに……。馬鹿だな、私。
部屋を出ると淡いピンク色のドレスに身を包んだセレナと鉢合わせした。
ハーフアップスタイルの髪型にしたセレナを直視するのも久々だ。
憎たらしいほどに可愛い我が妹にうっとりとしてしまう。今回は悟りを開いているからか、不思議と嫉妬の感情はなかった。
「うわぁ! すっごく綺麗!」
「セレナも綺麗よ。さて、夜まで少し時間があるわね。どうしましょうか」
「そんなの前乗りに決まってるじゃない!」
そういえばこんな展開だったな、とぼんやり考えながら両親の待つエントランスまで向かう。
父であるアッシュスタイン公爵は感動の声を上げ、母である公爵夫人は私たち二人を抱き締めた。
「二人共とっても綺麗よ」
「ありがとう、お母様!」
「ありがと。ねぇ、お母様、どうして私のドレスは自分で選ばせてくれなかったの?」
息が詰まるほど強く抱き締められながら振り絞るように問いかけてみた。
こんな質問をするのは初めてだ。
以前、荒れていた時期に「触るな、ババァ!」とブチ切れたら、父親にぶん殴られて頬を真っ赤に染めたままパーティーに出席する羽目になったことがある。
あれ以来、アッシュスタイン公爵の逆鱗には触れないような言動を心がけている。
正直、聞かなくていいことだ。
しかし、自然と口からこぼれ落ちた。母とこんなにも自然に会話したのは初めてかもしれない。
「だってセレナは世界で一番キュートで美人な子で、リリーナは世界で一番クールで美人な子なんだもの。セレナがピンクを選ぶなら、リリーナはブルーに決まっているわ」
母の返答にハッとする。
私が世界で一番?
だって、
戸惑いながら父の方を見るとデレデレの顔で私とセレナの顔を何度も見比べて頷いていた。
「私、勘違いしてた?」
確かに
互いに美人ではあるが戦う土俵と違う、とでも言うのか。
「ハァ……。馬鹿みたいじゃん」
「どうかしたの、リリーナ?」
「いいえ。素敵なドレスをありがとう、お母様」
こんな話は絵本には描かれていなかった。
もしかするとページ数や翻訳の関係で省かれた設定なのかもしれないが、私にとっては必要な裏設定だった。
それならメイドさんたちにも周知徹底しておきなさいよね。
私がどれだけ心に深い傷を負ったと思っているのよ、まったく。
プンプンしても仕方のないことだが、これで私個人としては少し気持ちが楽になった。
この事実をリリーナ自身が知らないことは残念でならないが今は置いておこう。
10周目にして自尊心を保つことができるようになった私は、かつてないほどに意気揚々と卒業記念パーティーの会場である学園へと向かった。
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