私の小説

HYS

第1話

『好きな人がいないから中途半端な気持ちで付き合いたくない。本当にごめん。』


返ってきた文は私が欲しかったモノとかけ離れていた。

結果的に昨日、好きだった人から振られた。

しかし、私が思っていたよりも悲しいという感情は出てこなかった。

そんな自分に物凄く腹が立って仕方がなかった。

その時、私はようやく分かった。

分かってしまった。

『私は小説や漫画に毒されていたのかも知れない』と

本の中では

嬉しければ嬉しさを表す文が多く並び、

悲しければ悲しさを表す文が溢れ出す。

何文も何文も。

それは本の中でどれだけ真面目な恋だったのか、相手の事がどれだけ好きだったのかを読者に思い知らせる文で。

読んでいてこちらまで喜んで、また悲しんでしまう様な羨ましい恋の色鮮やかな文。


私が振られて

悲しいという感情をあまり感じなかったは

真面目な恋では無かったのだろう。


いや、違うか。

私は怖かったんだろう。

なにをすれば相手の気を引けるかも分からず、迷い、逃げた。

自分が『主人公』だと信じ込むように。

結果、それは自分への甘えとなった。

小説の様な全力な恋から逃げてしまったから

悲しく無かったのだろう。

今、その後悔に押し潰されている。


次の日。私は本屋にいた。

理由は携帯から離れたい。ただそれだけ。

最近の人は怖い事に暇な時間さえあれば無意識に携帯を手にしてしまう。

なので家に携帯を置き、

用事もなくただ私は本屋の中をぶらつく。

忘れたく、携帯から逃げて来たのに恋愛小説のスペースを観て思い出してしまった。

知っている本や知らない本がずらっと並んでいた。その中にある一冊の本を私は手に取る。

その本は私が何度も読んだ大好きな小説で一番見たく無かった本。

それは至って面白みもないただの好き同士が付き合うだけの小説。

私の憧れで叶わなかった世界。

私は本をもとにあった場所に返し、何も買わずに帰った。

家も本屋も変わらないと感じたから。


家に着き、携帯をズボンのポケットに仕舞う。

しまった後、直ぐにズボンの中に振動を感じた。

悲しくない。

悲しくない。

なのにまだ期待してしまう。

携帯の通知音が鳴る度、期待してしまう。

君では無いかと。『付き合える』と言ってくれるのでは無いかと。

しかし現実はゲームの様な復活イベントはなく、

ただ虚しく鳴るゲームの広告だった。

私は惨めにもまた期待している。自分からは何もしていないのに。

私は馬鹿なんだ。また同じ事の繰り返しになるのを知りながら『まだ諦めたくない』と思ってしまっている。

そんな思いと同時にもう一つ思う事があった。

これ以上、嫌われたくはない。と



好きな人からそう思われたく無い。

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