第11話 カンタレラ

「また派手にやらかしてくれたな」

「だってあの方、またわたしを無視したのよ。今回は言い逃れ出来ないわ」


 それであの所業、というわけか。


「もう一人……ハイホース卿の弟君を巻き込んだ理由は?」

「あの方のおべっかはもう聞き飽きてしまったの」

「……やはりその程度の理由か」


 それで何人の命を奪ったことやら。


「あら、おにいさまのためでもあるのよ。どっちも邪魔なんでしょう?」

「……煩わしいとは思っている」

「なら良いじゃない、どうして文句ばかり言うの?」

「お前が勝手に動くからだ」

「おにいさまがのんびりし過ぎなのよ。何かあってからじゃ遅いのよ?」

「……それもそうだな」


 知ったような口を。


「お嬢様、飲み物をお持ちしました」

「あらありがとう、ちょうど喉が渇いていたところよ」


 差し出されたワイングラスを手に取り、注がれていた飲料を瞬く間に飲み干す。

 それほどまでに喉が渇いていたのか。


「……メロゥ」

「なぁに、おにいさま」

「母上様が亡くなった時のことを覚えているか?」

「おかあさま?急に具合が悪くなったのよね。きっと遊びすぎたせいだわ」


 なるほど、そう解釈していたのか。


「そうだな、母上様は放蕩が過ぎた。あんな生活を続けていたら身体を壊しもする」

「でもどうしてそんな話を……っ、」


 しゃがみ込むのと同時に激しい咳を数度。

 口元を抑えていた手は僅かにだが赤く染まっている。


「さっきお前はこう言ったな、何かあってからでは遅いと」

「そ、れが……何?」


──本当に、愚鈍な女だ。


「まだ気づかないか。今のお前が正にその状態だと言うことに」

「え……」

「お前の命は毒によって損なわれる。かつての母上様と同じようにな」

「ぁ、かはっ……」


 血を吐くのと同時に倒れ伏した愚妹はどうして、とでも言いたげな目を私に向ける。

 そんなことすら分からないから殺される羽目になったというのに。


「せめてもの情けだ、亡骸は丁重に弔ってやろう。墓荒らしが来ないよう棺の中で祈り続けるのだな」


 返事は無い。

 どうやら事切れたようだ。


「……呆気ないものだな」

「旦那様」

「何だ」

「姉の仇を討つ機会を与えてくださったこと、心より感謝しています」


 そう言って侍女は深々と頭を下げる。

 我が愚妹のせいで恋人を失い、海に身投げした町娘。

 それがこの侍女の──


「……話はそれだけか?さっさと仕事に戻れ」

「かしこまりました」

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