最新鋭で懐古的な気持ちの伝え方

三角海域

最新鋭で懐古的な気持ちの伝え方

「発明というのは、アイデアがなければ生まれないのだよ」

 彼女は、胸をはって言う。

「だろうね」

 僕はと言えば、そんないつも通りの彼女に対し、いつも通りの反応を返す。

 彼女は「うむ」と得意気に言う。

 僕と彼女は、科学部の部員だ。といっても、部員は僕ら二人だけ。やっていることも、彼女が持ち込んだいろいろなツールを使って遊んでいるだけだったりする。

 最近の科学の発達はすごいなぁと感心するのがもっぱらの活動。科学感心部に改名したほうがいいんじゃないのかなと思ったりもする。

「で、今日は何を持ってきたの?」

 僕が訊くと、彼女は待ってましたというように、二つの物を取り出した。

「あ、書籍端末だ。最新じゃん」

「科学部部長としては、こうした最新ツールは素早くチェックしなければと思ってね。発売が発表されてから、これを買うためにコツコツと貯金しておいたのさ」

「えらい」

「もっとほめたまえ」

 この書籍端末は、「懐古と最新」というテーマで作られたものだ。

 電子データをこの端末に流し込むと、まるで実際の本のような形で、本を模した端末に文章が表示される仕組みになっている。

 電子書籍と紙の本のいいとこ取りのようなものだ。使い心地も、紙に限りなく近い。

 書籍データはブックカバー型の記憶装置を用いる。データがカバーの中に記録されていて、本型の端末にこれをかけることによって、自動的に最適化された形で、データが読み込まれる。

 このカバーは何も記録されていない状態のものも市販されていて、各々がデザインしたカバーに、自作のデータを記録して売るということもされ始めている。

 とまあ、知識だけはあるのだけど、実際に手に取るのは初めてだ。

「このブックカバーを見たまえ」

 そう言って彼女が取り出したのは、下手な絵が描かれたブックカバーだった。

「個性的な絵だね」

「バカにしてるだろ」

 オブラートに包んだというのに、過剰に反応される。

「とにかく! ここには、あるデータが記録されているのだ」

「そりゃ、そういうものだしね」

「しかし、ただのデータではない。ここには、最新のAI技術を使い、私の思考を読み取ったものが記録されている。そのデータは、書籍端末を用いることで初めて文章化されるのだ」

「へえ、面白いね」

「そうだろう? では、早速読み取ってみよう」

 わくわくをおさえきれない様子で、彼女はブックカバーを取り付ける。

 わずかな間をおき、読み込みが終わったことを知らせる通知音がした。

「では、読んでみたまえ。きっと、全数百ページにわたる、私の深い思考が綴られていることだろう」

 そう言って、彼女が差し出した本を僕は受け取り、ページを開く。

「あのさ」

「ん?」

 僕は彼女に本を差し出す。そして、彼女もその内容に目を通した。

「こ、これは……」

 内容を確認した彼女はわなわなと震え、耳が赤くなる。

 本に表示された文章は、小難しい科学についてのことではなく、変人と言われる自分に付き合ってくれることへの感謝と、どストレートな恋心が書き連ねてあるものだった。

 つまりは、ラブレターだ。

 それも、僕に対しての。

 彼女は自分の顔を本で隠してしまった。

「あの、これ、本当?」

 僕が訊くと、彼女は顔を隠したまま、こくん、と無言で頷く。

「そっか。あの、さ。僕も君のこと好きなんだけど、これ、両想いってことでいいのかな」

 彼女はまた、こくん、と頷いた。

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