第3話 ライバルがやってきた
「まったく……騒がしいったらないわね。練習の邪魔になるってことが分からないのかしら?」
ツインテール美少女は睨むようにこちらを見ている。見たことはあるけれども名前は知らない子だ。
私は隣りにいる梨絵にヒソヒソ声で聞いてみた。
(この子誰だっけ?)
(隣のクラスの
(転校生だったっけ?)
(うん、4月にアメリカから来たらしいよ)
「何をコソコソ話してるの!」
瑠花は腰に手を当ててキッとして言った。
梨絵は即座に反応した。
「あなたこそ何?いきなり喧嘩ごしでさ」
見た目の可愛さに似合わず梨絵は勝ち気なのだ。
「私は、あなた達の見学マナーがなってないから注意してあげたのよ」
どうやら気の強さでは瑠花も梨絵と互角のようだ。
「それはそれは。まさか初対面の人との接し方も知らない人からマナーを教えていただけるなんて思ってもみませんでしたわぁ〜」
梨絵は口調まで瑠花に似せたうえに最大限の皮肉を込めて言った。
「くっ……!」
とっさに言い返す言葉が出てこずに悔しさをにじませる瑠花。
「ふん!」
マウントをとってドヤ顔で瑠花を睨みつける梨絵。
まさに一触即発。
「はいは〜い、やめやめ〜」
と、私は最大限に明るい声でそう言いながら二人の間に割って入った。
「ごめんね〜練習見学って私達も初めてだからつい……」
「別に謝ることないよ、祐実」
瑠花を睨みながら梨絵が言った。
他の女子達はにわかに険悪になった場の空気に恐れをなして遠巻きに見ているだけだった。
「どうしたどうしたぁ〜!」
と、こっちの異変に気づいた村下君が大声を上げながらやってきた。
彼のすぐ後ろには小谷君も着いてきている。
「喧嘩は良くないぞ〜せっかく女子に見てもらってウハウ……いや気も引き締まってビシッと決まってたところなのに」
(ん?今「ウハウハ」って言おうとした?)
と私が心のなかでツッコミを入れていると瑠花が村下君に近づいていった。
「君は隣のクラスの……」
村下君は近づいてくる瑠花に話しかけたが、彼女はそれを無視して横を足早にすり抜けて行った。
そして村下くんの後ろにいた小谷君に駆け寄り、
「小谷君、今日から練習なのね」
と明らかにさっきまでとは違う声のトーンで話しかけた。
「うん、まあね」
と小谷君は通常運転の爽やか笑顔で答えた。
「俺はスルーかよ……」
とガックリと肩を落とす村下君の肩を私はポンポンと叩いて、
「ドンマイ、ドンマイ」
と励ましてあげた。
「ちょっと、何今の?さっきまでと声が全っ然違うじゃん、あの子!」
梨絵は怒り心頭の様子だ。
「まあ、小谷くんの前じゃ仕方ないよ。梨絵だってさっき黄色い声出してたでしょ?」
そう私が言うと、
「あれはウケを狙ったの!後で『さっきはちょっとかわい子ぶっちゃった、テヘペロ♡』って言って好感度アップを狙う作戦だったの!」
「そんなんで好感度アップするかなぁ……いや、小谷君は案外そういうの好きかも……」
と、梨絵と私の会話がやや斜め上の展開になりかけていたところ、
「そんな話してていいのかな……?小谷君とあの子随分仲がいいみたいたけど……」
と、茉美が私達の目を覚まさせてくれた。
ハッとして見てみると、確かにふたりとも笑顔で楽しそうに話をしている。
先程までの挑みかかるようなきつい表情が嘘のように瑠花の笑顔は晴れやかだった。
「あれは、恋してるな」
梨絵が腕組みをしながら言った。
「恋してるって、あの朝比奈さんって子が?小谷君に?」
梨絵を見ながら私が聞くと、
「うん。あの顔を見れば一発でわかるじゃん」
私は改めて小谷君と話す瑠花を見た。
「そう……だね」
幸せそうな笑顔とは今の瑠花の笑顔のことなんだろうと私は思った。
もし私が小谷君と二人で話をしたらああいう表情になるのだろうか。
というより、あんなふうに素直に嬉しさを表に出せるだろうか。
ドギマギして変な笑い顔を見せながら変なことを言ってドン引きされてしまうのではないか。
そう考えていると、小谷君に素直な笑顔を向けられる瑠花に好感を持つと同時に羨ましく思う気持ちが湧き上がってきた。
「ねえ、佐々君、ちょっと来て」
いつの間にか思いに
「何?」
村下君とは少し離れてた立っていた佐々君が梨絵に呼ばれて来た。
「あの二人が何を話してるか聞いてきて」
視線は小谷君と瑠花に向けたままで梨絵が言った。
「ええ?なんで俺が……梨絵ちゃんが自分で行けばいいと思うんだけど」
「私が行ったら、またあの子と喧嘩になっちゃうでしょ」
「そこは喧嘩にならないように穏やかに……」
「いいから聞いてきて!佐々君は設定上は私の彼氏でしょ?」
「そ、そうだっけ?設定……?」
面白そうだから私は黙って二人のやり取りを聞いていた。
そういえば小谷君が来る前の騒動のときは佐々君が梨絵の彼氏役のような立ち位置だったっけ。
二人はお似合いと言えるかは分からないけど案外いいコンビかもしれない。
恋人同士というよりは女ボスと子分という設定が合いそうだけど。
梨絵と佐々君のやり取りを聞いていた茉美が村下君に近づいて(と言ってもそこそこには距離を取って)話しかけた。
「村下君も……聞いてきて……くれない?」
そばにいないと聞き取れないような声だ。
「え?俺も?なんで?」
と、相変わらず場の空気を読まないでかい声で村下君が答えた。
村下君はお人好しでいいヤツなんだけどデリカシーってものが足りなかった。
「なんで……って……それは」
ほら、茉美が萎縮しちゃったではないか。
ここは私が一肌脱がなければ!
「ほらほら、村下君は茉美と一緒に帰る仲でしょ!それくらいのお願いは聞いてあげないとだよ!」
そう言いながら私は彼の肩をポンポンと叩いてから、小谷君がいる方へ押し出すような素振りをした。
「祐実ちゃん、そんな……男子にむやみに触っちゃだめ……」
茉美が私の腕を掴んで引っ張りながら言った。
(あ、そうか。設定上とはいえ村下君は茉美の彼氏だもんね)
「あ、ごめんごめん。私も気がきかなかったね」
そう言いながら私は茉美と体を入れ替えて村下君の方に茉美を押し出した。
すると、
「そうじゃなくて……もう……」
と、茉美は頬を膨らませて怒った顔を作って言った。
(美少女のプンスカ顔キターーー!村下君もこれでノックアウト間違いなし!)
村下君を見ると、顔を真っ赤にして何か言いかけては口を閉じてまた言いかけてを繰り返していた。
(うんうん、わかるわかる。茉美は女子の私が見ても超可愛いもんね!)
「お、お、おれも……き、聞いてくる……!」
村下君はやっとのことでそう言って、小谷君と瑠花のところに行った。
そんなこんなで、佐々君と村下君が聞いてきたところによると、今度予定されている練習試合に瑠花も応援に来るらしい。
そして、もう一つ。
「朝比奈が『お昼は任せて』って言ってたな」
「うん、最高のお弁当を用意するって言ってた」
村下君と佐々君がそう言った。
「くっ、胃袋をがっちり掴もうって魂胆だな!」
両拳を握りしめながら梨絵が悔しそうに言った。
そういえば前に親戚が集まったときに伯母さんが言ってたっけ。
「男を掴まえようと思ったら胃袋を掴みなさい」
(そういうことだったのか……)
ハッキリ言って私は料理が苦手だ。
小谷君に気に入ってもらえるようなお弁当を私が作れるとは到底思えない。
でも、みんなで野球の応援をして、持ち寄ったお弁当を一緒に食べる光景を思い浮かべると、楽しそうでワクワクしてきた。
よし!
とりあえずは友達に見せても恥ずかしくないレベルのお弁当を作れるようになるぞ!
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