第2話 思うわけない


(どうするのがいいかな…)


 その後も相変わらず、如月は素っ気ない


 そして今も隣で、たぶん間違いなくラノベ読んでる。私には分かる。だって、いつもみたいにちょっとニヤけてるから


「ねえ、如月くん、いつも何読んでるの?」

「………」


 無視か!

 こいつ…いや、ここは冷静に…


「私も本読むの好きなんだ。教えてよ」


 本当はファッション誌くらいしか見てないけど、この男が私に心を開くきっかけを作っていかないと


「これ…」


 無造作に、私の方にタイトルが見えるように、表紙の部分だけ見せる如月


【⠀転生したけどそこは異世界ではなく30年前の日本でした。しかも俺の母親になる予定の学園の高嶺の花が俺にデレてきます。このままだと俺は産まれないけもしれないけど、どうすればいい?⠀】


 とりあえずタイトルが長い…

 なに?これはなんの本なの?

 どうすればいい?って言われても、好きにすればいいんじゃないの?


「え、えっと…面白そうだね…」

「いや、全然」

「なっ…!」


 面白くないなら読んでんじゃないわよ!

 こいつ、本当になんなのよ!!


 懸命に取り繕う私を尻目に、「ふっ…」と鼻で笑う如月


 っ!…こ、こいつ…!



 …そもそも、なんで私が構わないといけないのよ。もうこの男一人くらい、私にデレてこなくてもいいじゃない


 うん、もうそれでいい。

 面倒くさくなってきたからもういい


「そ、そう?邪魔して悪かったわね」


 ふん!もう金輪際、こいつには関わらない


「いや、邪魔じゃないけど」

「え…」

「悪い…俺…人と話すの苦手なんだ」

「そうなんだ…」


 少しシュンとして、申し訳なさそうに上目遣いで私を見てくる如月…


 キュン…



 だ、だから!違うから!!


 本当にやめてよね。そんな顔したって、私がこいつのこと意識したりなんて、そんなこと…そんなわけないんだから!


 全く…なんなのよ…



「三条さ~ん」

「え?」


 あからさまに可愛らしい感じの声で私のことを呼ぶこの女は…


「あら、一之瀬さん」

「委員会のことで聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「ええ、大丈夫よ」


 彼女は私と同じ放送委員の一之瀬優花いちのせゆうか

 放送委員といっても普段は特にやる事はなく、強いて言えば昼休みに音楽を流すくらいで楽だから入ったのだが、この女も…


「おい!!一之瀬さんだぞ!」

「三条さんと一緒とか、マジかよ!」

「写メ撮りてー…」

「ちょ、ちょっと声かけよっかな…」


 そう、この女も四天王の一人


 柔らかい雰囲気で誰とでも仲良く話し、少し天然でおっちょこちょい。皆の庇護欲をそそり、アイドル的な存在だ。

 しかも、スタイルは出るとこは出て締まる所はしっかりと括れており、女の私から見ても色々と反則だと思う。

 その上、自身が四天王と呼ばれていることも「え?なんで?私なんて普通だよ」と真顔で言ってくるほどその自覚もなく、たぶん付き合ったら楽しくて優しくて、いい彼女になるんだろうな、と思う


 いや、悔しいとかないから、うん、本当に


「お昼に流す曲なんだけど…」

「うん、それはね…」


 適当にかける曲のリストをいくつか提案して、話も終わろうとしたその時、


「あ!如月くん!久しぶりだね」

「ああ、一之瀬さん。こんにちわ」


 え?なんで普通に受け答えしてるのよ


「二年になってから会うの初めてかな」

「そうかもね」

「元気だった?相変わらず本読んでるの?」

「うん。一人でいると、それくらいしかやることないしね」

「じゃあ、今度一緒に本屋さん行こうよ」


 そんなの如月が受けるわけないでしょ。

 ていうか、なんで普通に話してるのよ。

 私には…私の時と全然違うじゃない…


 …って、なんなのよ、この気持ちは…


「あの…二人は知り合いなの?」

「うん!一年生の時一緒のクラスでね、席も近くてよく話してたんだ。そうだよね?」

「まあ、そうかな…」


 ちょっと、どういうことよ


 隣の席の私とはたいして話さないくせに、しかもさっき「人と話すの苦手」とか言ってたくせに…どうしてよ…

 私は駄目で一之瀬さんはいいって言うの?


「なによ…もう…」

「「え?」」

「え?」


 つい言葉に出てしまっていたようで、二人ともキョトンとして私を見ている


「あ、いや、なんでもないから、うん…」


 そう。なんでもない。

 もうこの男には関わらないって、さっき決めたばかりじゃない



 だから、羨ましいなんて、そんなふうに思うわけないんだから…




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