闘姫と堕ちた魔王の再起動《リスタート》

サトミハツカ

プロローグ

 ライズ=フォールズという少年は異端の天才であり、最強のウィザードだった。


 児童養護施設で育ち、未だ誰にも引き取られない自分は十五歳になった時、普通に施設を出て、適当な職場で働いていく。そんな風に、つまらない未来予想図を描いていた時だった。


「――危ない!」


 洗濯物を乾かしていた職員が、子供たちの方へ誤って《烈風エアリアル》を放ってしまった。


 それは基本属性である風の中級魔闘術マジックアーツであり、洗濯物を一瞬で乾かすのに便利な術。しかし人間一人、それも子供なら容易く遠くまで吹っ飛ばしてしまう威力がある。


 そんな魔闘術を、ライズは〝吸収〟した。


 子供たちの先頭に偶然いたライズが恐怖で手を突き出した時、烈風はその手の中に吸い込まれていったのだ。


 その場に居る全員が混乱していたが、ライズだけは落ち着いていた。


 この世にある魔術属性は基本の『地、水、火、風』の四つのみ。だが、希にその人間だけが持つ属性、唯一無二の固有属性を持って生まれる事もあるという。


 ライズは自覚した。自分は『吸収アブソーブ』という固有属性があり、これがあれば無敵だと。自分の未来はきっと楽しい事で溢れるだろうと希望を持った。


 それを証明するため、ライズは魔闘大会マジックアーツ・トーナメントへの興味を示す。


 体内に溜め込んだ魔力オーラの塊をただ放つだけという殺傷性ある魔術マジックを競技向けに改良し、『魔闘術マジックアーツ』として昇華させた者達――ウィザードが集まり競い合う大会に出場したライズは圧倒的だった。


「な、なんだコイツは――ッ、くっ、《火炎球ファイアボール》!」

「お、火属性いただき。《吸収アブソーブ》からの、うーんそうだな……《火炎拳ファイアパンチ》ってとこか」

 ライズは相手の放った魔闘術を吸収し、更には自分のモノとしてその属性を身に纏う事が出来たのだ。


 火を受ければ身体が燃え滾り、風を受けると身体を疾く動かせるようになる。相手の術を最初にあえて受けた後、すぐさま接近し格闘でノックアウト。


 中遠距離での戦いが当たり前の時代に、ライズのそんな近接格闘は異端だと騒がれる。


 しかし初出場であり、十三歳という史上最年少での優勝を果たしたライズを真似してか、大気に漂う魔力オーラを身に纏って戦う近接格闘方法フォールズ流が流行りだした。


 異端の天才。圧倒的な実力で相手を殴り飛ばすその姿から、人々は畏怖を込めて『魔王』と呼びはじめる。


 そうして空前のライズ=フォールズブームになった翌年。

 第四十五回魔闘大会、その決勝戦にて事件が起きる。


 優勝候補として出場したライズ。その相手はユウ=ラトスという、同い年の少女だった。


「来たわね、ライズ=フォールズ! 天才なんて持て囃されてるけど、最強はこのアタシなんだから!」

『いいぞー、ユウちゃん! ふんぞり返ってる魔王の鼻を明かしてやれぇ!』

『魔王を倒す勇者はきみだーッ』


 ライズに匹敵する実力を持つと噂されているこの少女は、圧倒的でつまらない魔王を倒してくれとばかりに観客から応援されていた。


「…………」

「なによ? まさか怖じ気づいたの?」


 このアウェーな状況に、魔王とあろう者がビビったのかとユウが眉を顰める。

 そんな彼女を余所に、試合開始のゴングが鳴った。


 魔闘術を放つため腕を突き出すユウ。その瞬間、


「……すまん。《吸収》」

「え? まだ魔闘術は……」


 ユウは魔闘術を撃っていないどころか、準備も完了していない。にもかかわらず、ライズは吸収を発動した。


「一体何を――」

 吸収したのか? その疑問に答えることはなく――ライズは爆発した。


 結果、ライズの自爆という形でユウが優勝。

 突然の爆発、ライズの敗北に世間は大いに驚き、数日の間は騒ぎが収まらなかった。しかし魔術操作のミスで自爆するケースは過去の大会でも見られたのですぐに状況は落ち着く。


 そして病室で目覚めたライズに待っていたのは明るい未来ではなく、落ちぶれた現実だった。


 魔力オーラを溜め込み、魔術マジックとして放出するための器官――魔力器官オーラガンが破損していたのだ。


 普通の人にはある器官が無くなった。魔術もロクに放てない。そんな障害を背負った人間は――フォルティと蔑まれる。


 栄光から一転し、魔王は堕ちた。

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