R.B.ブッコローの恩返し

水曜

第1話

 昔、昔あるところに貧しいおじいさんとおばあさんが住んでいました。

 ある寒い雪の日、おじいさんが町へ薪を売りに出かけた帰りのことです。雪の中に何かが動いているのを見つけました。

「あれは何だろう」

 おじいさんは罠にかかっている一羽のミミズクをみつけました。動けば動くほど罠はミミズクを締めつけます。

「おやおや、かわいそうに、さあさあ、はなしてあげよう。これから、気をつけるんだよ」

 そうしてミミズクを助けてやると、ミミズクは山の方に飛んでいきました。

 家に帰ると、おじいさんはおばあさんと今日のことを話しました。

「さっき罠にかかったミミズクを助けたんだ」

「まあまあ、それは良いことをしましたね」

 すると、入口の戸をたたく音がしました。

「おや、だれでしょう」

 とおばあさんが扉をあけたところ、美しい娘がそこに立っていました。

「雪で道に迷ってしまいました。どうか泊めてもらえないでしょうか」

「今夜は特に冷える。さあ入んなさい。こんなところで良ければ、好きなだけいると良い」

 娘さんはこの言葉に喜び、家に泊まることにしました。

 その日から、娘はおじいさんの家でくらすようになりました。

 ある日、娘はこう言いました。

「決して私の部屋をのぞかないでください」

「わかりましたよ。決してのぞきませんよ」

 娘は部屋に閉じこもると、何やら妙な音がします。

「トントン、トントン、トントンカラリ、トンカラリ」

 次の日も次の日も娘は自分の部屋に閉じこもっていました。

 三日目の夜、音が止むとたくさんの本を持って娘は出てきました。それは実に美しく装丁された、いままで見たことのない書物でした。

「これは有隣堂と言う書店の本です。これを町に持って行って売ってください。きっとたくさんお金がもらえますよ」

 次の日、おじいさんは町へ出かけました。

「有隣堂の本はいらんかね。有隣堂の本はいらんかね」

 すると、本は次々と売れました。

 次の日、娘はまた部屋にこもりました。

「トントン、トントン、トントンカラリ、トンカラリ」

 三日が過ぎたとき、おばあさんはおじいさんに言いました。

「どうして、あんなに美しい本を作れるのでしょう」

「そうだな、不思議だ」

「ちょっとのぞいてみましょうか」

 娘が決して見ないで下さいといったのを忘れて、二人は部屋をのぞいてみました。

 すると、なんということでしょう。一羽のミミズクが大量の業務用製本機を使って本を作っているではありませんか。

「おじいさん、ミミズクがいますよ」

「ああ。しかも良くわからない機械に囲まれている」

 その夜、ミミズク……R.B.ブッコローは大量の本を持って部屋から出てきました。

「おじいさん、おばあさん、ご恩は決して忘れません。私は罠にかかっているところを助けられたミミズクです」

 R.B.ブッコローは異世界転生で得た能力で、有隣堂の本を作っていたのです。ちなみに、知り合いの文房具王になり損ねた女の姿を借りて化けていました。

「他に優しくできる人には、必ず皆が手を貸してくれます。それではーー」

 翼を広げてR.B.ブッコローは、空に舞い上がります。家の上を回って、どこか遠くへと飛んでいきました。

 


 しばらくして、おじいさんとおばあさんは本屋を始めました。

 名前はもちろん有隣堂です。

 おじいさんとおばあさんの本屋はとても繁盛しました。

 徳のある人間は孤立せず、必ず理解し協力してくれる誰かがいる……その精神はずっと受け継がれています。

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