宣戦布告
No.2-28:後始末
「ほれっ、服だ」
「ん?あぁ、俺ほぼ全裸じゃん。ありがと」
魔族が逃げた後もダンジョンの外には多くの魔物が残っていたため、その掃除を続けていた。そして深夜1時。ようやく魔物の氾濫が収まり、ダンジョン前の廃村で休憩している最中、ジュウが服を渡してくれた。
改めて自分の恰好を確認すると、シイラに作ってもらったメイド服はボロボロで、大事な所が辛うじて隠れてるかなくらいの状態だった。逆にあの激しい戦いでよくこれだけ残ったとも思う。
「少しは恥じらいっていう物はないのですか?」
「「???」」
ジュウに着いて来た美人な姉さんに小言を言われる。
「はぁ……。隊長まで首をかしげるなんて。常識はどこに置いてきたのですか?」
「「戦場」」
「……息ピッタシですね」
俺もこいつも戦場でしか生きられないタイプの人間のようだからな。当然だろう。常識なんてあったら戦場で笑ったりしねぇよ。
「サラ、お前自己紹介してないぞ」
「あっ、申し遅れました。私、エイダ神聖騎士団 第八天使部隊 副隊長のサラ・ラズベルと申します。以後お見知りお気を」
「おう、俺はソフィアだ。改めてよろしく」
この人副隊長だったのか。大盾使いってだけで珍しいのに、レベルの高い部隊で副隊長を務めるって相当な腕だな。いやまぁ、さっきの戦いでわかってたけどさ。
「あんた再生者なんだろ?このバッジを見たことはないか?」
ふと、ジュウは懐からバッジを取り出して見せてきた。そのバッジはかなり古い上に傷だらけで、何かが描かれていたのはわかるが殆ど読み取れない。俺以外の人には、ただのバッジにしかみえないだろう。
「見たことあるも何も、そのバッジを作ったのは俺だからな。デザインしたのは別だが。それが何か知ってるのか?」
地平線に沈む太陽に剣を突き刺した絵が描かれたバッジ。傭兵団・暁ノ剣のバッジだ。傷だらけでわかりにくいが、裏面に小さく暁ノ剣と刻まれている。懐かしいな。
「俺の家の初代は人魔大戦を生き残った人間でな。これはその初代の兄が持っていたバッジだと伝わっている。暁ノ剣っていう傭兵団に所属していたらしいんだが、そういこうとか?」
「なな……じゃない。千年前、傭兵団暁ノ剣を結成したのが俺だよ。千年立ってもバッジが残ってるとは驚きだな。その初代の兄の名は?」
「初代の兄の名はジューダス・ダズウェル。俺のジュウ・ダズウェルっていう名前はそこから来てるらしい。そういや、家に伝わる口伝で暁ノ剣の関係者と会ったら伝えて欲しいことがあるっていうのがあったような?」
あぁ、ジューダスの子孫か。どうりで誰かに似てるなと思う訳だ。顔も魔力も性格も、結構あいつに近いな。実力も同じくらいかもな。って待てや、あいついつの間にバッジ他人に渡してんだよ。家族がいるとも聞いてねぇんだが??それとジュウ、それは大事な口伝だろう。忘れるなよ。
「隊長、そろそろ時間が」
「おっ、そうか。悪い。また今度続きを話そうや。聖都にダズウェル家の屋敷があるから、暇な時にでも着てくれ。これ、俺からの招待状だ。じゃ、またな」
ジュウは俺に過度な装飾が施された儀礼剣を渡して去っていった。
「……センスねぇー(ボソッ」
ジューダスは服とかアクセサリーとかのセンスは絶望的だったんだが、あれ血筋だったんだな。あれと比べればマシだが、装飾過多で酔いそうだ。さっさと仕舞っておこう。
「おおーい!!あんちゃーん!!」
焚火の前でボーっとしてると、誰かから声を掛けられた。そっちを向くと、俺が助けた冒険者パーティの二人がこちらに向かってきていた。右腕が無い人が、両目が潰れた人を支えている。
「ようあんちゃん!辛気臭い顔だな!嫌なことでもあったか?」
右腕を無くした男は、とても元気な様子で俺に話しかけ、ドカっと音を立てて横に座った。その横に両目が潰れた男も支えられるようにして座った。
「ちげぇよ。むしろ逆だ。楽しすぎて疲れたのさ。そういうお前らは元気そうだな」
「ハッハッハ!十分休んだからな!助けてくれてありがとよ!」
「あんたのおかげで助かった。礼を言う。これをあんたに。先に帰った仲間からの礼だ」
二人から礼を言われ、両目を失った男性はボロボロの剣を渡してきた。俺はそれを素直に受け取る。
「そうか、逝ったか」
「まぁ、脇腹ががっつり抉れてたからなぁ。むしろ良く生きてたほうだぜ。言いたいこと全部いって空に帰ったよ。あんたには『命の恩人に大したもの渡せなくて悪い。こんなボロを売ったところで大した金にならねぇだろうから、指輪か何かにして大切に使ってくれ。どうせ独身なんだろ?』だとよ」
「ハハハハハ!!今は独身なのはそうだがよ。いくら命の恩人とはいえ、その場限りの赤の他人である俺に残す言葉じゃねぇだろ!」
「ハッハッハ!!俺もそう思うぜ!!おかしな女だったよ!!」
「アハハハ!全く持ってその通りだよ!アハハハ!」
冒険者の遺品を受け取った人は、指輪やネックレスなど、持ち運びやすい形に加工してアクセサリーとして身に着けるという風習がある。これを指輪に加工するのは夫婦やそれに近しい関係だった場合が多く、それ以外で指輪として残すことはほぼない。それを指輪にして残してくれってことはプロポーズされたと考えるのが普通だろう。おかしな話だよ本当に。
冒険者っていうのは物心ついたころから家族がいないっていう人も多いからな。こいつにも家族はいなかったんだろうな。変な奴め。
「じゃ、俺らはそろそろ寝る。またな!ありがとよ!」
その後も少し雑談を続けた後、二人は自分たちのテントへと帰っていった。
「ふょ~い、ソフィア~」
そろそろ寝るかと思ったところで、クラトスから声を掛けられた。
「なんだクラトス。随分と気が抜けた声だな」
「仕方ねぇだろう、眠いんだし。あんたのお連れさんが来たぜ」
「ん?そうか。ありがとう」
「ふぁ~、眠いから寝るわ~」
クラトスはそれだけ伝えて帰っていった。とりあえず向かうか。
「おう、お前ら。通話魔石があるんだからそれで連絡すればよかったんじゃないか?」
「……ハッ!忘れてた!!」
「色々忙しかったですから……」
「グルゥ……」
「ま、まぁ、とりあえずその辺に座って話そうぜ」
頭でも強く打ったのか?通話魔石を忘れるなんて。まぁ俺も人のこといえないんだけど。
———あとがき——————
ちなみに遺品を使ったアクセサリーの色は白一色が基本です。この世界において白とは生と死の二つの意味を持つとされます。ですので、白一色のアクセサリーを身に着けるということは『親友は死んだが、私の心の中では今も生き続けている』というような意味になります。ロマンチックですね。いま適当に考えました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます