No.2-19:訓練
「それじゃ次は魔物との実践にゃ。まずはスライムから倒してみるのにゃ」
「はい!ソフィアさん!やぁっ!」
休憩を終えた俺たちは、ハンスに実戦経験を積ませるために街の外にいた。ハンスがスライムと戦っている中、俺たちは周囲に気を配りつつハンスを見守る。
「うわっ!」
——ブヨン
初めての実戦はやはり上手くいかない。スライムの身体に剣を弾かれ、身体が開いたところにスライムの攻撃が当たっていた。
「力みすきだにゃ。大振りになって盾が身体の外を向いてるのにゃ」
「っ!はい!」
緊張もあったのだろうが、俺が一度指摘すると直ぐに修正した。その後は安定して削りきり、スライムを無事討伐した。
「はぁはぁ。つ、疲れました」
「お疲れ様、ハンス君」「お疲れなのじゃ。こちらに来るがよい」
一度の戦闘で疲れ切ったハンスをシイラとグレースが世話をする。ちなみにシュロウは俺の頭の上で、グレースのことをとても冷めた目で見つめている。グレース……お前の従魔だろ。もっと面倒見てあげろよ……。
「ハンスは気を張りすぎりにゃ。いつも通りやってたらもっと楽に倒せたにゃ」
「はっ、はい。あの、魔物と戦うの怖くて、力んでしまうんですけどなんかコツとかってあります?」
「んー、とにかく色々な経験を積み、視野を広げることかにゃ。精神的な弱点を克服するにはそうするかないと思うにゃ」
「は、はぁ……」
「恐怖を克服するのに『これ』っていう方法はないにゃ。その方法は千差万別にゃ。だから経験を積み、自分の視野を広げた上で、その恐怖がどこからくるものなのかを把握し、一つ一つ対応していく。そうするしかないにゃ」
「な、なるほど。頑張ってきます!!」
そういってハンスは再びスライムを倒しに向かった。中々に難しい質問だったが、あの答えでよかったかな?でもなんか踏ん切りがついたみたいだし大丈夫そうかな?
その後、10体目のスライムを倒するころには大分慣れてきて、スライム相手はもう問題ないくらいにはなった。やっぱり基礎がしっかりしてるから対応するのも早いな。
「良い感じだにゃ。そろそろホーンラビットにも挑戦するといいにゃ。昼まではスライムとホーンラビット相手に練習だにゃ。とりあえず目標は100体倒すことにしようか。頑張るのにゃ」
「はい!」
その後、ハンスには昼になるまでスライムとホーンラビットを狩り続けてもらい、ときおりアドバイスを入れつつ見守る。まだ心身ともに出来上がってないこともあり、昼になるころにはぐったりしていたが、最終的に倒した数は110体。10歳にしては十分すぎる。
「はぁ、はぁ……もう、無理です。立てないです」
「ハンスくん風呂用意したから一緒に入りましょうね~」
「むっ!ズルいぞ!儂も一緒にグベッ」
「あなたはダメです。それじゃ行きますよハンス君」
「えっ?あっ?は、えっちょっ!!」
そして昼。シイラがいつの間にか作っていた風呂場にハンスが連れていかれた。もちろん外から見えないよう壁は作られている。
「グレース、暇なら飯を用意するの手伝うのにゃ」
「うむっ!もちろん手伝うのじゃぞ!」
二人が風呂に入っている間、俺とグレースで昼飯の準備を行う。前にダンジョンで倒したオークを使用する。本当はハンスが倒したホーンラビットを使って解体の仕方も教えてやりたかったんだが、風呂に行ってしまったのでそれはまた今度。
ちなみにハンスが倒した魔物は、全部ハンスの持ち物という扱いにしてる。だからシイラが解体して回収するといったことはしてない。倒した魔物については、シイラが一時しのぎに作ったマジックバックに入っている。魔力で維持してるから長くはもたないそうだ。
——あっ!ちょっ!どこ触ってるんですかシイラさん!
——いやねぇ。普通にマッサージしてるだけじゃん。大人しくなさい。
——いやっ!ヒッィ!んーーー!!!
飯の準備中、風呂場からハンスの嬌声が聞こえてくる。犯罪行為してないよなあいつ。大丈夫だよな?普通のマッサージだよな?いやだよ『少年に性的暴行を加えた容疑で冒険者ギルドパーティCross所属のシイラが逮捕されました』っていうニュースとか見たくないよ俺。
「はぅぅ~~」
「ふぅー、さっぱりしたぁ。あっ!ご飯用意してくれたんだ!ありがとう!」
風呂から上がってきた二人。シイラは満足そうな顔をしており、ハンスは顔が真っ赤だ。本当に大丈夫なんだよな!?
「大丈夫だよー、僕が性行為なんてするわけないじゃん~?」
「いや、外に漏れてる声からはとてもそう思えないのじゃが」
「あっ、あの別にそういう行為とかはしてませんよ?ただちょっとくすぐったかっただけで」
「ね?だから大丈夫だよ。それより飯にしよう飯に!」
はぁー。まぁ、ハンスがそういうならいいか。
「さて、この後どうするにゃ??ハンスは今日はもう動けないしにゃ」
昼飯を食べ終わり、この後の予定について皆と相談する。
「あっ、あのっ、僕まだまだいけますよ。むしろ全快したというか」
「えっ、本当にゃ?」
「僕が作った特性ポーション風呂に入れたからね。ついでにマッサージも行ったし、体力は殆ど戻ってるはずだよ?」
「みゃー。そのポーションは成長を妨げるとかないのかにゃ?」
ポーションを使いすぎると身体は成長しないとかなんとか聞いた気がする。
「大丈夫だよ。体力を『一時的に』回復させるものだからね。効果時間は6時間くらいかな。その分夜の揺り戻しは大変だけどね」
「え”っ”!?」
ハンスくん……。ドンマイ。これも君が強くなるためだ。頑張ろうね。
ハンスがまだ動けることが確定したので、どこで訓練させるか話し合った結果、廃坑ダンジョンに行くことになった。オークやゴーレムがいるのはわかってるし、良い訓練になるだろう。ハンスにはちょっときついかもしれないが、頑張ってもらおう。
「ピヤアアアアア!!!」
ダンジョンへのルートはもちろん空を飛んでいく。シイラは魔法で、俺は宙を蹴って、グレースとハンスはシュロウに乗って。やっぱ空の旅は気持ちいいなぁ。
「こ、怖かった。です」
ダンジョンに着いた頃、ハンスの顔は真っ青になっていた。ちょっと飛ばし過ぎたかな?
「グルゥ」
シュロウから『加減しろお前』みたいな目で見られてる。そんな早くなかったと思うんだけどなぁ。慣れてないんだろうな。
「ようグレース。そいつらが噂のパーティメンバーか?」
ダンジョン前の廃村に降りるとそれなりの数の冒険者パーティが拠点を作っていた。そしてその冒険者の一人がグレースに声をかけてきた。
「うむ、自慢のパーティメンバーじゃぞ!」
「俺を振った理由の『探し人』はこいつらってことか?」
「の、一人じゃの。この死ぬほど可愛い子がそうじゃ。名をソフィアといって儂よりも強いんじゃぞ!羨ましかろう!」
いや、なんでお前が自慢するんだよ。最近壊れてきたなこいつ。
「あぁ、とっくの昔に噂が流れてるぜ。『Aランク冒険者が再生者に負けた』ってな。あんたがその噂のソフィアか」
「そうだにゃ」
「俺はAランク冒険者のクラトスだ。よろしくな。あんたらもダンジョン攻略か?」
「それもあるけど、メインはこいつの訓練だにゃ。鍛えてくれっていう依頼があってにゃ」
「っ!おまっ、……」
俺がハンスのことを紹介すると、クラトスは目をかっぴらいて大きく驚いた。何々、その反応は怖いんだが。
「あぁ、いや。何でもない。昔の知り合いに似ててな。気のせいだったみたいだ。メンバーが待ってるから戻るわ。何かあったらよろしくな」
「こちらこそよろしくだにゃ」
そういってクラトスは戻っていた。結局なんだったんだろうな。とりあえずダンジョンの中に行くか。
「おおお!ここがダンジョン!凄いですね!」
ダンジョンの中に入ると、ハンスは目をキラキラさせてそういった。ダンジョンに来るのが初めてでテンションが上がっているようだ。
「人もそれなりに来てますね。事故しないよう気を付けてくださいね」
「じゃな」
「それじゃ、空いてるところ探すにゃ」
俺たちは周りに冒険者がいないエリアまで進む。入り口付近は人が多く、魔物も現れないので結構奥まで移動することになった。
「ゴブリンだにゃ。やれるかにゃ?」
「はい!頑張ります!ウオオオ!!」
「ギャギャ!ギャッ!!」
ある程度移動するとゴブリンが一体現れたので、ハンスに相手を任せる。
「くっ!」
「ギャギャッ!」
身体がまだ育ってないこともあって力負けしている。どうにか攻撃は防げてるものの、かなり辛そうだ。雑魚モンスターとはいえ、成人男性ほどの力を持つゴブリンの相手は少々早かったか?
「ここだぁ!」
「ギャァっ!!」
しかし俺の心配をよそに、ハンスはゴブリンの攻撃を上手く受け流して一撃を与える。そこで崩れたゴブリンにラッシュをかけて倒しきった。
「ハァッハァッ」
「お疲れさんだにゃ。よくやったのにゃ」
「はっ、はい。どうでしたか?」
「悪くはなかったにゃ。ただ、力負けする相手なら一旦距離を取ってもいいにゃ。無理して攻撃を受ける必要はないにゃ」
「あの、それだと味方に被害が及ばないですか?」
「集団戦における盾職の役割は攻撃を受けることじゃなくて、攻撃を味方に飛ばさないことにゃ。そもそものヘイトを味方に向かないように立ち回っていれば、味方に攻撃が飛ぶこともないから、受け止める必要もないにゃ。まぁ、今はまだ自分自身の能力を高めることに集中するにゃ。集団戦についてはまた今度にゃ」
「はっ、はい」
その後、ハンスはゴブリンやコボルトと戦い続けたが、3時間ほどでダウン。倒せた魔物の数は5体ほど。今まで攻撃を受けとめること主体に練習をしていたためか、距離を取って戦うという感覚がつかめず苦戦してる様子だった。それでも十分にやれてるとは思うけどね。
シイラとグレースからもストップが出たので、今日の訓練を終えて、俺たちはダンジョン前の廃村に戻り野宿することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます