2章:宣戦布告

不穏な気配

No.2-1:イベント情報発表

 あの後、俺らは宿屋に戻り配信を切った。ついでに休憩ということで俺とシイラはログアウト。その間グレースは街をブラブラするといってどこかに行った。そして今。



「あー、戻ったんだがどういう状況だ?」


 休憩から戻ってくると、グレースが首に『私は悪い子です』と書かれた板をぶら下げて正座していた。その前にいるシイラは何やら涙目だ。


「あっ、お帰りなさいソフィアさん。この子酷いんですよ!?私たちが寝てる間にイタズラしてたんですよ!?」


「具体的には?」


「そっ、そのっ、服を脱がしてたり・・・とか」


「あー」


 聞いちゃまずかった系か。めっちゃ恥ずかしそうにしてる。こういう所は女だよなぁ。


「ってか何してんのお前」


「いや、そのぉ、性別の確認をな。ちょっとイタズラをと思ってソフィアを脱がしたらまさかの男でな。じゃぁシイラはどうなんだと思って確認しようとしたら丁度そのタイミングで帰ってきてしまっての。怒られてしまったというわけじゃ。で、シイラはどっちなんじゃ?」


「女ですよ!!!何聞いてるんですか!!反省してください!!」


 『パコーン』っという綺麗な音が部屋に鳴り響いた。グレースはとても痛そうにしている。ってかしれっと俺の下を見たのかこいつ。小学生かよ。




「いたたた。ところでこれからどうするのだ?」


「1ヵ月後にあるイベントの準備をしましょう!」


「イベント?そんなんあるの?」


 俺は聞いたことないな。何か情報が出てたんだろうか。NPCであるグレースはもちろん『???』という顔をしている。


「さっき休憩中に情報が出てましたからね!」


「その祭りごとは来訪者・再生者向けじゃないのか?儂は参加できるのか?」


「えーっと、大まかな参加枠が二つあって来訪者枠と再生者・現地人NPC枠があるみたいだから参加できると思いますよ」


「そうか。置いてかれなくてよかったぞ」


 あきらかにホッとした表情をするグレース。というかグレースが参加できなかったらどうするつもりだったんだ。参加できるからよかったけど。


「で、イベントの内容は?」


「あっ、そうですね。イベントはシンプルな闘技イベントですね。ここから東に三つ先の街にある領都アレイスという街にある闘技場で行うみたいですよ。来訪者限定トーナメントと、来訪者・再生者・現地人NPCの全員参加可能なトーナメントの二つがあるみたいですよ」


 ほう、現地人とも戦えるのか。強い奴がいるのかな?


「それは面白そうだ。方式は?」


「随分と嬉しそうな顔をするのぉお主は」


 うるせぇ。強い奴とやりあうためにこのゲームやってるんだから当然だろ。


「ほんと戦闘狂ですよねぇ。方式はシングルイルミネーションのトーナメント方式ですね。ソロの部とパーティの部があって、パーティは5vs5だそうですよ」


「おん?あぁっ!エイダ聖闘技祭のことじゃな。思い出したぞ。今年から来訪者向けのもやるのじゃったな」


「知ってるのか?」


「うむ。ここエイダ聖国で毎年行われる闘技大会だ。闘技大会自体は各国で行われているが、その中でも三大闘技大会と呼ばれるものの一つじゃの。この大会で優勝すれば名声と巨万の富を得ることができるとして、大陸中から多くの人が参加しにくる。参加するなら急いでいった方がいいぞ。闘技場のある街の宿はそろそろ埋まり始めるころじゃからな」


 大陸中から人が集まるのか。それは楽しそうだ。さぞ強い奴がいることだろう。身体がなまらないよう鍛練しておくべきだな。


「うわぁ。ソフィアさんすごい凶悪な顔してますよ」


「こいつは昔からそうじゃよ。戦場にいるときが一番生き生きしとるからな。」


「いいだろ別に。やるべきことはちゃんとこなしてたんだから。な、お前もそう思うよな」


「グルゥ」


 俺の膝の上で寝ているシュロウに聞いてみれば『そうだな』という感じに返事をした。こいつは話の分かる奴だ。なでなでしてやろう。


「なんで儂よりソフィアの方になついてるんじゃ。納得がいかんぞ」


「日頃の行いじゃないか?まぁ話を戻すが、俺はもちろんでる。二人はどうするんだ?」


「僕は不参加ですねぇ。戦闘は好きじゃないですから。必要ならしますけど」


「儂は出るぞ。折角の機会じゃからな。ソフィアとも戦いたいしの」


「引きこもりの女王が戦えるのか?」


「誰が引きこもりじゃ!れっきとしたAランク冒険者じゃ!」


「ま?お前が?Aランク?」


「そうじゃぞ。稀代の天才冒険者と呼ばれてるからな!」


 そしてドヤ顔をするグレース。子供が背伸びしてるようにしか見えんな。やっぱ小学生にしか見えないな。


——シーン……


「何か言わんかい!」


「お二方とも武器と防具どうします?必要なら私作れますよ?場所と素材さえあればですが」


「スルーじゃと!?」


「武器は知り合いのヘストっていう鍛冶屋に依頼するつもりだ。次は頼むって約束してるからな。ついでに鍛冶場借りれるようお願いしてみようか?」


「へー。初日から知り合いがいるんですね」


「お主ら・・・無視するのは酷くないか……?」


 無視しすぎて膝をガックシと落としているグレース。ちょっと涙目になってるの草。


「面白くないわい!」


「悪かった悪かった。まぁ、その歳でよくAランクになったな。凄い凄い」


「そうじゃろそうじゃろ!儂は凄いのじゃ!」


「そんな雑な褒め方でいいんですね……」


 なんかチョロくなったなこいつ。女王の時は冷血で狡猾で人を操るのが上手く、本心を決して悟らせない人だったが、今のグレースからはそんな様子は一切感じられない。女王の役目から解放されたからテンション上がってるんだろうなきっと。


「グレースさんは武器どうしますか?」

 

「儂は自前のがあるからな。メンテナンスはお願いすると思うが」


「そうですか。じゃぁ私はヘスト?でしたっけ。その方の鍛冶場借りれるか聞いて、無理だったら鍛冶場ギルドを借りて色々作ってますね」


「聞き流してしまったが、お主ヘストと知り合いなのか。運がいいのぉ」


「だな。凄腕の鍛冶師と知り合えたのは運がよかった。この防具も彼女から買ったものだしな」


 グレースも知ってるのか。まぁ、冒険者ギルドのAランクまで登り詰めてるなら腕のいい鍛冶師とか知っててもおかしくはないか。


「そんな凄い人なんです?防具の出来は普通って感じですけど。てか革だと鍛冶関係なくないですか?」


「鉄も革も両方扱えるんだってよ。購入はしなかったが剣の出来もよかったな。使ってる素材は良くなかったが、それでも初心者が購入するには十分すぎるものだったと思うぞ」


「かつては『鍛冶神の生まれ変わり』とまで呼ばれてたからな。ま、女ということがばれて鍛冶ギルドから追放されたがの」


「ん?鍛冶は女人禁制なのか?千年前はそんなのなかったと思うが」


「昔から鍛冶場は女人禁制じゃよ。人魔大戦の時が例外だっただけじゃ」


「それは何でです?」


「鍛冶の神ファイヘイストが女性相手にトラウマを持ってるという逸話からじゃな。別に神様自身が女人禁制にしてるわけじゃないが、人類が神様に気を使った結果じゃな。鍛冶ギルドとかだとそういった圧力は大きくなるの。あそこは神に由来するとされる鍛冶場を複数保有してるからの。その影響じゃろ」


 確か現実でもヘファイストスは兄弟に妻を寝取られたとかあったような。それがモチーフになってるのかね。名前もちょっと似てるしな。こういう世界に関する話は前作では興味なくて聞いてなかったけど結構面白いな。この先の旅では遺跡とかそういうのを見に行くのも面白いかもしれない。



「ていうか、もしかして僕鍛冶ギルドに入れない可能性あります?」


「どうじゃろうなぁ。長年そうやって来たギルドじゃし、今から仕組みを変えるのは無理じゃろう。まぁ、鍛冶したいならどこかに弟子入りするのが一番じゃな。それなら男女関係ないからの。さっき言ったのはあくまでギルドっていう大きな組織での話じゃ。鍛冶師全員がそういう考えという訳でもない。むしろ女人禁制にすべきだって考えを持つ人の方が少ないと思うぞ。口にはしないじゃろうがな」


「ほっ、なら大丈夫そうですね」


「ってか自分で家建てればいいんじゃねぇの?総合生産職ならそれくらい出来るだろ?」


「そりゃぁできますけどねぇ。でもどうせやるなら『ココだっ!』ってとこに建てたいんですよね。それと移動式ハウスっていうのを作ってみたいですし」


「キャンピングカー的な奴か?」

 

「大体そんな感じです。」


 ふーん。まぁよくわかんないけど俺が口出しすることでもないか。・・・てかこいつ俺と同じで、アバターのセンスなくて天使ちゃんに作ってもらったとか言ってなかったっけ?変なもの作らんよな??急に不安になってきたぞ。

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